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一章 出会いとクリスタル
25話 緊急事態
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「おや。もしかして依頼を見て来てくださった冒険者の人ですかな?」
村ののどかな風景を見ながら歩いて村長の家まで向かっていたところ、一人の老人に声をかけられる。その風貌から判断して年は六十前後に見え、口ぶりからもこの人が依頼主である村長なのだろう。
「はいそうです。依頼を見て来たんですけど、ここに不気味な緑色の宝石があるんですよね?」
「ええその通りです。村の若いもんが見つけまして、触れてみたらまるで荒れ狂う風が吹いている崖に立っている錯覚に襲われると言うんです」
それはきっとクリスタルのせいだろう。俺は火や水のクリスタルに触れた際に似たような症状が出ている。
「その宝石は恐らく私が知っているものでしょう。よろしければ見せてもらって、できれば譲ってもらえないでしょうか?」
「もちろんいいですとも。あの不気味な物を処分してくれるのでしたらありがたい限りです」
村長は気さくに接してくれて、話もスムーズに進みクリスタルは調べ次第こちらに渡してくれることとなる。クリスタルは村長の家に厳重にしまっているらしく、俺達はそこまで歩いていくことになる。
とはいえ村の中を移動するだけなのでたいして時間はかからず、数分もすれば大きな家に着く。
趣を感じさせる所々に古さを残しつつもしっかり手入れがいっている外観と庭。内装も木材の独特の匂いが微かにしてくるが、俺はこの匂いは嫌いではない。むしろ好きだ。
「では例の宝石を持ってきますので少々お待ちください」
村長は俺達を応接間に待機させクリスタルを取りに行く。他の村民が誤って触らぬように厳重に保管しているのだろう。
だが数分経過しても村長が戻ってくる気配はない。
「遅いわね。何かあったのかしら?」
ミーアが髪をくるくると手でいじくりながら呟く。
物を取って帰ってくるだけならいくら大きい家とはいえそこまで時間はかからないだろう。
「もしかして転んで頭でも打ったんじゃ……俺ちょっと様子見てくるよ!」
村長に何かあったのではと思い、俺は居ても立ってもいられなくなりこの部屋から出ていこうとする。しかしそのタイミングでドタドタと足音が速いテンポで聞こえてくる。
村長には何事もなかったようで、どこか怪我をしているということもない。
「クリスタルが何者かに盗まれてしまっています!!」
だが村長の口から放たれたのは今の状況を間違いなく悪転させるものだ。
「クリスタルがないですって!? そんなはずは……」
ミーアが言わんとしていることは分かる。この村に入ってからずっとクリスタルの気配はしている。
鹿やガラスアのような大きな気配ではなく、クリスタル単体が放つ微弱な圧を感じているのだ。
「なぁミーア……もしかしてガラスアが?」
「だとしたらかなり厄介なことになっているわね」
あいつからクリスタルを奪い返すとなればそれは至難の技だ。
俺達がこの状況に苦悩する時、突然感じてた圧が一気に強まる。
「村長大変です!! 山の方で魔族が暴れています!!」
この村の男性が部屋に転がり込むように入ってきて、走って失ったであろう残り僅かな体力を絞り叫ぶ。
間違いなくガラスアだ。奴がクリスタルを盗み何かよからぬことをしようとしているのだろう。
「それに子供が一人山に取り残されているようで……」
「何だって!? それは本当ですか!?」
子供が取り残され危険に晒されている。その事実を知り俺は血相を変えてその話に割り込んでしまう。
「ほ、本当だが君は誰だ?」
「その人達は例の宝石を調べに来てくれた人じゃ」
「それでその魔族が現れた場所はどこですか!?」
子供の命がかかってることもあり、俺は詰め寄るようにして彼から情報を聞き出そうとする。
「この家の裏手にある山の方だが……既に偶然この村に居た腕の立つ冒険者達が行ってくれた」
だとしたら尚更まずい。普通の冒険者が束になってもガラスアには手も足も出ないだろう。
「ミーア!! 今すぐ向かうぞ!!」
「ええ!! 急がないと……」
「あ、あの! 僕はどうしたら……?」
二人でここを飛び出していこうとするが、それはアキの戸惑う声で止められてしまう。
「アキはここに居て! 大丈夫……無事に戻ってくるから」
「でも……」
顔から不安や焦りが消せていなかったのか、アキはこの言葉に対して半信半疑になっている。
だがそれでも彼女を説得している時間もなく、村長に村の人達を山に近づかさせないよう頼み俺とミーアはアキを置き去りにして山の方へ、クリスタルの気配がする方へと全速力で向かうのだった。
村ののどかな風景を見ながら歩いて村長の家まで向かっていたところ、一人の老人に声をかけられる。その風貌から判断して年は六十前後に見え、口ぶりからもこの人が依頼主である村長なのだろう。
「はいそうです。依頼を見て来たんですけど、ここに不気味な緑色の宝石があるんですよね?」
「ええその通りです。村の若いもんが見つけまして、触れてみたらまるで荒れ狂う風が吹いている崖に立っている錯覚に襲われると言うんです」
それはきっとクリスタルのせいだろう。俺は火や水のクリスタルに触れた際に似たような症状が出ている。
「その宝石は恐らく私が知っているものでしょう。よろしければ見せてもらって、できれば譲ってもらえないでしょうか?」
「もちろんいいですとも。あの不気味な物を処分してくれるのでしたらありがたい限りです」
村長は気さくに接してくれて、話もスムーズに進みクリスタルは調べ次第こちらに渡してくれることとなる。クリスタルは村長の家に厳重にしまっているらしく、俺達はそこまで歩いていくことになる。
とはいえ村の中を移動するだけなのでたいして時間はかからず、数分もすれば大きな家に着く。
趣を感じさせる所々に古さを残しつつもしっかり手入れがいっている外観と庭。内装も木材の独特の匂いが微かにしてくるが、俺はこの匂いは嫌いではない。むしろ好きだ。
「では例の宝石を持ってきますので少々お待ちください」
村長は俺達を応接間に待機させクリスタルを取りに行く。他の村民が誤って触らぬように厳重に保管しているのだろう。
だが数分経過しても村長が戻ってくる気配はない。
「遅いわね。何かあったのかしら?」
ミーアが髪をくるくると手でいじくりながら呟く。
物を取って帰ってくるだけならいくら大きい家とはいえそこまで時間はかからないだろう。
「もしかして転んで頭でも打ったんじゃ……俺ちょっと様子見てくるよ!」
村長に何かあったのではと思い、俺は居ても立ってもいられなくなりこの部屋から出ていこうとする。しかしそのタイミングでドタドタと足音が速いテンポで聞こえてくる。
村長には何事もなかったようで、どこか怪我をしているということもない。
「クリスタルが何者かに盗まれてしまっています!!」
だが村長の口から放たれたのは今の状況を間違いなく悪転させるものだ。
「クリスタルがないですって!? そんなはずは……」
ミーアが言わんとしていることは分かる。この村に入ってからずっとクリスタルの気配はしている。
鹿やガラスアのような大きな気配ではなく、クリスタル単体が放つ微弱な圧を感じているのだ。
「なぁミーア……もしかしてガラスアが?」
「だとしたらかなり厄介なことになっているわね」
あいつからクリスタルを奪い返すとなればそれは至難の技だ。
俺達がこの状況に苦悩する時、突然感じてた圧が一気に強まる。
「村長大変です!! 山の方で魔族が暴れています!!」
この村の男性が部屋に転がり込むように入ってきて、走って失ったであろう残り僅かな体力を絞り叫ぶ。
間違いなくガラスアだ。奴がクリスタルを盗み何かよからぬことをしようとしているのだろう。
「それに子供が一人山に取り残されているようで……」
「何だって!? それは本当ですか!?」
子供が取り残され危険に晒されている。その事実を知り俺は血相を変えてその話に割り込んでしまう。
「ほ、本当だが君は誰だ?」
「その人達は例の宝石を調べに来てくれた人じゃ」
「それでその魔族が現れた場所はどこですか!?」
子供の命がかかってることもあり、俺は詰め寄るようにして彼から情報を聞き出そうとする。
「この家の裏手にある山の方だが……既に偶然この村に居た腕の立つ冒険者達が行ってくれた」
だとしたら尚更まずい。普通の冒険者が束になってもガラスアには手も足も出ないだろう。
「ミーア!! 今すぐ向かうぞ!!」
「ええ!! 急がないと……」
「あ、あの! 僕はどうしたら……?」
二人でここを飛び出していこうとするが、それはアキの戸惑う声で止められてしまう。
「アキはここに居て! 大丈夫……無事に戻ってくるから」
「でも……」
顔から不安や焦りが消せていなかったのか、アキはこの言葉に対して半信半疑になっている。
だがそれでも彼女を説得している時間もなく、村長に村の人達を山に近づかさせないよう頼み俺とミーアはアキを置き去りにして山の方へ、クリスタルの気配がする方へと全速力で向かうのだった。
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