22 / 53
一章 出会いとクリスタル
22話 風の翼
しおりを挟む
「あなた何者!?」
「もう分かってるくせに……水のクリスタル担当の、最強の魔族……かなっ!!」
語尾を上げ、クロスボウから数本の矢を同時に放つ。魔法で作られたそれはそんな芸当も可能で、明確に俺の頭部や心臓を狙って飛んでくる。
咄嗟に躱そうとするが、それでも頬に矢が擦り血が垂れる。どうやら氷で作られているとはいえ威力は普通の矢と同じ、いや魔力が込められている分それらより強力だ。
「お前いきなり何するんだ!!」
「さっきからお前とかあなたとか酷いなぁ。ワタシにはガラスアっていう名前があるんだからそっちで呼んでよ。まぁ呼ぶ機会はもうこれ以降ないと思うけどね」
こちらはアキを除いても二人いるというのに、ガラスアはお構いなしに近づいてくる。
「アキ……村まではもう近い。走って逃げろ!」
大胆不敵でありつつも隙がない構えと歩き方。それに先程の矢を放つ際の魔力の無駄のなさ。
間違いなくこいつは強い。下手をした俺とミーア二人がかりでも勝てないかもしれない。だから俺はせめてアキだけでも逃がそうと地面に降ろし、彼女とガラスアの間に自分がくるように調整する。
「でも……」
「約束しただろ!? 君は逃げるんだ!!」
俺が強く言えば、アキは何度も振り返りつつだがこの場から逃げ出してくれる。
「分かってるでしょうけれど、今回は相手を助けるなんて余裕はないわよ」
「不本意だけれど、手加減をしたらこっちが皆殺しだ。やるしかない……!!」
こちらもクリスタルの力を解放しいつでも戦えるよう構える。その途端奴の両手が氷で覆われ、手に鉤爪のような装備が装着される。
鋭利なそれは人の喉に突き立てれば簡単に命を刈り取ってしまいそうなもので、それを見た途端俺の中で緊張が一気に跳ね上がる。
「ラピッドショット!!」
一番手に動いたのはミーアだ。右手の人差し指の前に風の弾丸を創り、左手で右腕を固定して高速の弾丸をガラスアに発射する。
その威力はこの前の鹿とは比較にならず、まるで大砲のような威力だ。
「こんなのには当たらないよっと!」
だがガラスアは鉤爪で弾丸を受け流してしまう。
あの速さに対処したのもすごいが、何より目を見張るのが鉤爪の硬度だ。恐らくあの弾丸でヒビすら入らないのなら、俺の日本刀でも砕けないだろう。
真っ先に攻めないでよかったな……砕くつもりで斬ってたら受け止められてカウンターをもらっていた……
まだ攻撃を受けてすらないというのに、俺の額に冷や汗が流れる。
「面白い技使うじゃん。技術もそれなりにあるし……こっちもちょっと本気出しちゃおっかな……!!」
その時ガラスアが足を一切動かさずにこちらに吹き飛んでくる。
足で地面を蹴ったのなら分かる。クリスタルで身体能力が向上しているし、何より彼女は魔族だ。蹴るだけでこれだけの推進力を生み出すことくらいはできるだろう。
だが彼女は一歩も、数ミリも足を動かさずにこちらに飛んできたのだ。
しかし結論やることは同じだ。どんな攻撃にも対処し反撃の機会を伺う。それだけだ。
奴の動きは的確で驚異的だった。まず俺の方に数本の氷の矢で牽制し、俺が下がったところでミーアの方に旋回して鉤爪を突き刺そうとする。
ミーアはナイフを用い鉤爪による突きを防ごうとするが、筋力の差からか完全に勢いを殺すことはできず、喉に鉤爪の先が当たってしまう。
鉤爪の上を一筋の赤い線が伝うが、氷はそれすらも凍りつかせる。
「ミーアから離れろ!!」
俺は手から炎を吹き出させガラスアを炙ってやろうとする。
もちろん距離がある上で放った攻撃など容易に躱すが、躱す際にミーアから離れてくれたので今はそれだけでよいだろう。
「大丈夫!?」
「え、えぇ……かなり危なかったわ。これはこっちも出し惜しみしてる場合じゃないわね」
「出し惜しみ……?」
ミーアの全身、特に背中から力が溢れ出す。
一気に圧が強まったかと思えば、ミーアの背中から黄緑色の半透明の翼が生えてくる。
「はあっ!!」
掛け声と共に宙に舞い上がり、数メートル上で翼を羽撃かせ空中に留まる。
これがミーアの奥の手なのだろう。空中を制するということは戦いにおいてとても重要な要素だ。
それを自分自身の力だけでやってのけるのだ。クリスタルの力の偉大さを、そしてそれを完璧にコントロールする彼女の能力の高さを改めて実感させられる。
「もう分かってるくせに……水のクリスタル担当の、最強の魔族……かなっ!!」
語尾を上げ、クロスボウから数本の矢を同時に放つ。魔法で作られたそれはそんな芸当も可能で、明確に俺の頭部や心臓を狙って飛んでくる。
咄嗟に躱そうとするが、それでも頬に矢が擦り血が垂れる。どうやら氷で作られているとはいえ威力は普通の矢と同じ、いや魔力が込められている分それらより強力だ。
「お前いきなり何するんだ!!」
「さっきからお前とかあなたとか酷いなぁ。ワタシにはガラスアっていう名前があるんだからそっちで呼んでよ。まぁ呼ぶ機会はもうこれ以降ないと思うけどね」
こちらはアキを除いても二人いるというのに、ガラスアはお構いなしに近づいてくる。
「アキ……村まではもう近い。走って逃げろ!」
大胆不敵でありつつも隙がない構えと歩き方。それに先程の矢を放つ際の魔力の無駄のなさ。
間違いなくこいつは強い。下手をした俺とミーア二人がかりでも勝てないかもしれない。だから俺はせめてアキだけでも逃がそうと地面に降ろし、彼女とガラスアの間に自分がくるように調整する。
「でも……」
「約束しただろ!? 君は逃げるんだ!!」
俺が強く言えば、アキは何度も振り返りつつだがこの場から逃げ出してくれる。
「分かってるでしょうけれど、今回は相手を助けるなんて余裕はないわよ」
「不本意だけれど、手加減をしたらこっちが皆殺しだ。やるしかない……!!」
こちらもクリスタルの力を解放しいつでも戦えるよう構える。その途端奴の両手が氷で覆われ、手に鉤爪のような装備が装着される。
鋭利なそれは人の喉に突き立てれば簡単に命を刈り取ってしまいそうなもので、それを見た途端俺の中で緊張が一気に跳ね上がる。
「ラピッドショット!!」
一番手に動いたのはミーアだ。右手の人差し指の前に風の弾丸を創り、左手で右腕を固定して高速の弾丸をガラスアに発射する。
その威力はこの前の鹿とは比較にならず、まるで大砲のような威力だ。
「こんなのには当たらないよっと!」
だがガラスアは鉤爪で弾丸を受け流してしまう。
あの速さに対処したのもすごいが、何より目を見張るのが鉤爪の硬度だ。恐らくあの弾丸でヒビすら入らないのなら、俺の日本刀でも砕けないだろう。
真っ先に攻めないでよかったな……砕くつもりで斬ってたら受け止められてカウンターをもらっていた……
まだ攻撃を受けてすらないというのに、俺の額に冷や汗が流れる。
「面白い技使うじゃん。技術もそれなりにあるし……こっちもちょっと本気出しちゃおっかな……!!」
その時ガラスアが足を一切動かさずにこちらに吹き飛んでくる。
足で地面を蹴ったのなら分かる。クリスタルで身体能力が向上しているし、何より彼女は魔族だ。蹴るだけでこれだけの推進力を生み出すことくらいはできるだろう。
だが彼女は一歩も、数ミリも足を動かさずにこちらに飛んできたのだ。
しかし結論やることは同じだ。どんな攻撃にも対処し反撃の機会を伺う。それだけだ。
奴の動きは的確で驚異的だった。まず俺の方に数本の氷の矢で牽制し、俺が下がったところでミーアの方に旋回して鉤爪を突き刺そうとする。
ミーアはナイフを用い鉤爪による突きを防ごうとするが、筋力の差からか完全に勢いを殺すことはできず、喉に鉤爪の先が当たってしまう。
鉤爪の上を一筋の赤い線が伝うが、氷はそれすらも凍りつかせる。
「ミーアから離れろ!!」
俺は手から炎を吹き出させガラスアを炙ってやろうとする。
もちろん距離がある上で放った攻撃など容易に躱すが、躱す際にミーアから離れてくれたので今はそれだけでよいだろう。
「大丈夫!?」
「え、えぇ……かなり危なかったわ。これはこっちも出し惜しみしてる場合じゃないわね」
「出し惜しみ……?」
ミーアの全身、特に背中から力が溢れ出す。
一気に圧が強まったかと思えば、ミーアの背中から黄緑色の半透明の翼が生えてくる。
「はあっ!!」
掛け声と共に宙に舞い上がり、数メートル上で翼を羽撃かせ空中に留まる。
これがミーアの奥の手なのだろう。空中を制するということは戦いにおいてとても重要な要素だ。
それを自分自身の力だけでやってのけるのだ。クリスタルの力の偉大さを、そしてそれを完璧にコントロールする彼女の能力の高さを改めて実感させられる。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる