12 / 53
一章 出会いとクリスタル
12話 火の気配
しおりを挟む
少しして中から大勢の人がぞろぞろと出てくる。
「何があったんですか!?」
俺は市場から出てすぐその場に崩れる女性に事情を伺う。
先程の悲鳴と煤汚れた彼女の体から火事が起きたのは分かったが、そこまでの経緯を知りたかった。
「分からない! いつも通りにオークションをしていたら、いきなり裏手から火が上がったの!」
その言葉を聞いた瞬間俺達は硬直する。恐らくみんな同じ不安が頭の中によぎったのだろう。
エルフの子が奴隷商人にどう扱われるかどうこう以前に、この中にいるなら火に飲み込まれて焼死してしまうと。
「みんな急ぐぞ! もう時間がない!」
真っ先に俺が動き、そして先導する形で市場のテントの中へと逃げ惑う人を掻き分け入っていく。
「熱っつ!! くそ……火の手がもうかなり回っている……」
舞台は完全に火に包まれていて、奴隷が置かれているであろう裏手に向かう唯一の道は燃え盛る炎で塞がれている。
どこまで広がっているか分からない炎に突っ込むなんて無謀なことはできず、俺はどうしたらいいか思考を巡らす。
「ねぇリュージ。火のクリスタルの力を使えばきっとあの火を吸収できるはずよ。やってみてくれるかしら?」
ミーアは他のみんなには聞こえないように至近距離で小声で話す。
「とりあえずやってみるよ」
俺は心を落ち着かせ、自分の中にある力を発揮するべく、体から力を抜きつつも心臓に意識を集中させ燃え盛る火を吸収する姿をイメージする。
視界が一瞬赤く光ったと思えば、体温が急激に上昇して全身から力が溢れ出す。
「頼む……できてくれよ……!!」
俺は手を前に突き出す。すると炎が急に動きを変え、物理法則を無視して俺の方へ向かってくる。
それは体の中に入っていき、その分力が増しているのを感じ取る。
「何だその魔法!? どうやったんだ!?」
「あぁこれはクリ……」
エルフィーにクリスタルについて手短に話そうとしたが、ミーアに脇腹に肘打ちをくらわされてしまう。
そういえば魔王にクリスタルのことはできるだけ口外するなって言われてたんだっけ……
「えーと、これは俺の作った魔法なんだよ。あはは……」
「そうか……とりあえずこれで裏手に行けるな!」
エルフのみんなは仲間を助けることに意識がいっているおかげで俺が口を滑らしたことに言及するものは誰もいない。
俺達は火が消えた道を通り奴隷が置かれているであろう舞台裏に向かう。案の定そこには鎖で繋がれて逃げれなくなっている奴隷達がいて、その中にはエルフの特徴と合致する子もいる。
「お姉ちゃん!」
エルフの子達のうち一人の女の子が消え入りそうだったが、それでも持てる限りの力を尽くして声を上げる。
その子は見るからにボロボロで、衣服も所々破れ痣や切り傷も見られる。
「大丈夫だったか!?」
それを見るにエルフィーが飛び出してその子の元まで向かう。どうやらその子が彼女の妹のようだ。
他の子もエルフィーお姉ちゃんが来てくれたと安堵と喜びの声を漏らす。
「ちょっと待ってて。鎖は私が切るから」
ミーアの瞳が緑色に発光して、手から極小の風の刃を放つ。
それらは正確にエルフの子達も含めた奴隷の子達の鎖を切り裂き、彼らを拘束から解き放つ。
「うぇーん怖かったよ!!」
エルフィーの妹が彼女に抱きつき泣きじゃくる。
「大丈夫。お姉ちゃんがいるからもう怖くないぞ」
そんな妹の頭を撫で、抱きしめ、不安な気持ちを取り払ってあげる。
その姿は正に純粋な愛を捧げる姉であった。
「いきなり向こうにいた子が火を吹き出した怖いおじさん達を燃やしたの!」
エルフィーの妹が言った言葉を理解できず、俺達が首を傾げながらも火の手が増しているので早くみんな避難させようとした時、この空間の奥の方から少しずつ圧が放たれ始める。
このことに気づいているのは俺とミーアだけだった。つまりこの気配は……
「おいミーア。数キロ圏内なら気配が分かるんじゃなかったのか?」
他の人には聞こえないくらい小声で耳打ちする。
「そのはずだけれどね……分からないわ。最初はほんの少ししか力を使わず私達が探知できなかったか、もしくはクリスタルに頼らずに火を操っていたのかもしれないわ」
「どっちでもいいな……今はとりあえず……」
俺とミーアは気配がした方へ駆け出す。
「みんなは早く外に逃げ……」
振り返りながら他のみんなに早く逃げるよう促そうとしたが、突如奥の方から放たれていた圧が一気に強まる。
何かがくる。その確信めいた感情と共に迫ってきたのは巨大な火球だった。
「何があったんですか!?」
俺は市場から出てすぐその場に崩れる女性に事情を伺う。
先程の悲鳴と煤汚れた彼女の体から火事が起きたのは分かったが、そこまでの経緯を知りたかった。
「分からない! いつも通りにオークションをしていたら、いきなり裏手から火が上がったの!」
その言葉を聞いた瞬間俺達は硬直する。恐らくみんな同じ不安が頭の中によぎったのだろう。
エルフの子が奴隷商人にどう扱われるかどうこう以前に、この中にいるなら火に飲み込まれて焼死してしまうと。
「みんな急ぐぞ! もう時間がない!」
真っ先に俺が動き、そして先導する形で市場のテントの中へと逃げ惑う人を掻き分け入っていく。
「熱っつ!! くそ……火の手がもうかなり回っている……」
舞台は完全に火に包まれていて、奴隷が置かれているであろう裏手に向かう唯一の道は燃え盛る炎で塞がれている。
どこまで広がっているか分からない炎に突っ込むなんて無謀なことはできず、俺はどうしたらいいか思考を巡らす。
「ねぇリュージ。火のクリスタルの力を使えばきっとあの火を吸収できるはずよ。やってみてくれるかしら?」
ミーアは他のみんなには聞こえないように至近距離で小声で話す。
「とりあえずやってみるよ」
俺は心を落ち着かせ、自分の中にある力を発揮するべく、体から力を抜きつつも心臓に意識を集中させ燃え盛る火を吸収する姿をイメージする。
視界が一瞬赤く光ったと思えば、体温が急激に上昇して全身から力が溢れ出す。
「頼む……できてくれよ……!!」
俺は手を前に突き出す。すると炎が急に動きを変え、物理法則を無視して俺の方へ向かってくる。
それは体の中に入っていき、その分力が増しているのを感じ取る。
「何だその魔法!? どうやったんだ!?」
「あぁこれはクリ……」
エルフィーにクリスタルについて手短に話そうとしたが、ミーアに脇腹に肘打ちをくらわされてしまう。
そういえば魔王にクリスタルのことはできるだけ口外するなって言われてたんだっけ……
「えーと、これは俺の作った魔法なんだよ。あはは……」
「そうか……とりあえずこれで裏手に行けるな!」
エルフのみんなは仲間を助けることに意識がいっているおかげで俺が口を滑らしたことに言及するものは誰もいない。
俺達は火が消えた道を通り奴隷が置かれているであろう舞台裏に向かう。案の定そこには鎖で繋がれて逃げれなくなっている奴隷達がいて、その中にはエルフの特徴と合致する子もいる。
「お姉ちゃん!」
エルフの子達のうち一人の女の子が消え入りそうだったが、それでも持てる限りの力を尽くして声を上げる。
その子は見るからにボロボロで、衣服も所々破れ痣や切り傷も見られる。
「大丈夫だったか!?」
それを見るにエルフィーが飛び出してその子の元まで向かう。どうやらその子が彼女の妹のようだ。
他の子もエルフィーお姉ちゃんが来てくれたと安堵と喜びの声を漏らす。
「ちょっと待ってて。鎖は私が切るから」
ミーアの瞳が緑色に発光して、手から極小の風の刃を放つ。
それらは正確にエルフの子達も含めた奴隷の子達の鎖を切り裂き、彼らを拘束から解き放つ。
「うぇーん怖かったよ!!」
エルフィーの妹が彼女に抱きつき泣きじゃくる。
「大丈夫。お姉ちゃんがいるからもう怖くないぞ」
そんな妹の頭を撫で、抱きしめ、不安な気持ちを取り払ってあげる。
その姿は正に純粋な愛を捧げる姉であった。
「いきなり向こうにいた子が火を吹き出した怖いおじさん達を燃やしたの!」
エルフィーの妹が言った言葉を理解できず、俺達が首を傾げながらも火の手が増しているので早くみんな避難させようとした時、この空間の奥の方から少しずつ圧が放たれ始める。
このことに気づいているのは俺とミーアだけだった。つまりこの気配は……
「おいミーア。数キロ圏内なら気配が分かるんじゃなかったのか?」
他の人には聞こえないくらい小声で耳打ちする。
「そのはずだけれどね……分からないわ。最初はほんの少ししか力を使わず私達が探知できなかったか、もしくはクリスタルに頼らずに火を操っていたのかもしれないわ」
「どっちでもいいな……今はとりあえず……」
俺とミーアは気配がした方へ駆け出す。
「みんなは早く外に逃げ……」
振り返りながら他のみんなに早く逃げるよう促そうとしたが、突如奥の方から放たれていた圧が一気に強まる。
何かがくる。その確信めいた感情と共に迫ってきたのは巨大な火球だった。
1
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。


転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる