6 / 8
六
しおりを挟む
「お前の後をつけてみれば……こんな場所で男と密会していたとは……心底失望したよ」
そうため息を放つロイは、虚ろな目で私を見つめ、それからアーロンを見た。
「確かお前は同じクラスの……アーロンだったか? 貴様のようなやつがエミリアと……バカバカしすぎ笑えないな」
「私に何か御用ですか?」
堪らず私は口を開く。
今までにないほどの冷たい声で。
するとロイは嘲笑を浮べて、私に手を伸ばす。
「エミリア。もう一度僕の元へ帰ってこい。再び婚約しよう」
「……はい?」
感情の籠らない命令口調に、違和感しか覚えない。
しかしロイは逆に自信満々なようで、言葉を続ける。
「サラとは別れたんだ。やっぱりあいつは僕の婚約者に相応しくなかった。僕としたことが……一生の不覚さ。やはりお前のような従順な婚約者が僕には相応しい。だろ?」
「は?」
全く訳が分からない。
アーロンと話していた私を馬鹿にしたと思えば、次の瞬間には婚約者への誘い。
しかもまるで私を道具のようにしか思っていない高飛車な発言。
好感の持てる所など微塵もない。
「おいおい、そんなに怖い顔をするなよ。今までのことは全部水に流してやるから」
流してやる?
流してくださいの間違いじゃないの?
怒りがどんどん募り、私の顔は自分でも分かるほどに険しくなっていく。
そして地の底を思わせる低い声で返答をする。
「あなたの婚約者にはなりません。一生!」
「え……」
途端にロイの顔が曇った。
眉間にしわがより、怒りが露わになっていく。
「ふ、ふざけるなよ……お、お前みたいな無能が僕の申し出を断っていいわけがない……くそっ……くそっ……!」
言葉こそ荒々しいが、態度からは何の迫力も感じない。
動じない私を見て、更にロイは怒りを増幅させていく。
「お前は黙って僕の婚約者になればいいんだ! それがお前の運命だ! 自分の運命を受け入れろ!」
どこまでこの人は身勝手なのだろう。
怒りを通り越して呆れた私が口を開くも、先に言葉を放ったのはアーロンだった。
「ロイ王子。それは違います」
「何!?」
ロイの鋭い視線がアーロンへと飛ばされる。
アーロンは怯えたように顔を強張らせたが、言葉を堂々と続ける。
「エミリアの運命は彼女自身のものです。他の誰もそれを奪うことはできません。エミリアが自分の道を選択するのです」
「何を訳の分からないことを言っているんだ……」
「それはあなたの方です! これ以上エミリアを苦しめるのは止めてください!」
アーロンがロイの前へと進み出る。
暗い裏庭に陽光が差し込み、アーロンの姿を勇者のように照らした。
「ロイ王子。王子の自覚もないあなたにエミリアは渡さない! 命に代えても!」
「な、なんだと……」
ロイは怒りで拳を堅く握ると、それをアーロンへと突き出した。
「う、うわ!」
動揺したアーロンは反射的に腕を前に出す。
タイミングよくそこへ飛び込んできたロイは、不覚にもアーロンの拳に顔面を衝突させ、「ぐっ」と呻き声を漏らした。
「こ、こいつ……」
ロイは数歩下がり、鼻を手で覆う。
指の隙間から鮮血がしたたり落ちていた。
彼は背後に控えていた護衛の兵士に叫ぶ。
「これは紛れもない暴力だ! 今すぐあいつらを捕らえろ! 死刑にしてやる!」
しかし先頭にいた初老の兵士が首を横に振る。
「申し訳ありませんが、その命令には従いかねます」
そうため息を放つロイは、虚ろな目で私を見つめ、それからアーロンを見た。
「確かお前は同じクラスの……アーロンだったか? 貴様のようなやつがエミリアと……バカバカしすぎ笑えないな」
「私に何か御用ですか?」
堪らず私は口を開く。
今までにないほどの冷たい声で。
するとロイは嘲笑を浮べて、私に手を伸ばす。
「エミリア。もう一度僕の元へ帰ってこい。再び婚約しよう」
「……はい?」
感情の籠らない命令口調に、違和感しか覚えない。
しかしロイは逆に自信満々なようで、言葉を続ける。
「サラとは別れたんだ。やっぱりあいつは僕の婚約者に相応しくなかった。僕としたことが……一生の不覚さ。やはりお前のような従順な婚約者が僕には相応しい。だろ?」
「は?」
全く訳が分からない。
アーロンと話していた私を馬鹿にしたと思えば、次の瞬間には婚約者への誘い。
しかもまるで私を道具のようにしか思っていない高飛車な発言。
好感の持てる所など微塵もない。
「おいおい、そんなに怖い顔をするなよ。今までのことは全部水に流してやるから」
流してやる?
流してくださいの間違いじゃないの?
怒りがどんどん募り、私の顔は自分でも分かるほどに険しくなっていく。
そして地の底を思わせる低い声で返答をする。
「あなたの婚約者にはなりません。一生!」
「え……」
途端にロイの顔が曇った。
眉間にしわがより、怒りが露わになっていく。
「ふ、ふざけるなよ……お、お前みたいな無能が僕の申し出を断っていいわけがない……くそっ……くそっ……!」
言葉こそ荒々しいが、態度からは何の迫力も感じない。
動じない私を見て、更にロイは怒りを増幅させていく。
「お前は黙って僕の婚約者になればいいんだ! それがお前の運命だ! 自分の運命を受け入れろ!」
どこまでこの人は身勝手なのだろう。
怒りを通り越して呆れた私が口を開くも、先に言葉を放ったのはアーロンだった。
「ロイ王子。それは違います」
「何!?」
ロイの鋭い視線がアーロンへと飛ばされる。
アーロンは怯えたように顔を強張らせたが、言葉を堂々と続ける。
「エミリアの運命は彼女自身のものです。他の誰もそれを奪うことはできません。エミリアが自分の道を選択するのです」
「何を訳の分からないことを言っているんだ……」
「それはあなたの方です! これ以上エミリアを苦しめるのは止めてください!」
アーロンがロイの前へと進み出る。
暗い裏庭に陽光が差し込み、アーロンの姿を勇者のように照らした。
「ロイ王子。王子の自覚もないあなたにエミリアは渡さない! 命に代えても!」
「な、なんだと……」
ロイは怒りで拳を堅く握ると、それをアーロンへと突き出した。
「う、うわ!」
動揺したアーロンは反射的に腕を前に出す。
タイミングよくそこへ飛び込んできたロイは、不覚にもアーロンの拳に顔面を衝突させ、「ぐっ」と呻き声を漏らした。
「こ、こいつ……」
ロイは数歩下がり、鼻を手で覆う。
指の隙間から鮮血がしたたり落ちていた。
彼は背後に控えていた護衛の兵士に叫ぶ。
「これは紛れもない暴力だ! 今すぐあいつらを捕らえろ! 死刑にしてやる!」
しかし先頭にいた初老の兵士が首を横に振る。
「申し訳ありませんが、その命令には従いかねます」
1,282
お気に入りに追加
634
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
【完結】私の婚約者はもう死んだので
miniko
恋愛
「私の事は死んだものと思ってくれ」
結婚式が約一ヵ月後に迫った、ある日の事。
そう書き置きを残して、幼い頃からの婚約者は私の前から姿を消した。
彼の弟の婚約者を連れて・・・・・・。
これは、身勝手な駆け落ちに振り回されて婚姻を結ばざるを得なかった男女が、すれ違いながらも心を繋いでいく物語。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしていません。本編より先に読む場合はご注意下さい。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
【完結】姉に婚約者を寝取られた私は家出して一人で生きていきます
稲垣桜
恋愛
私の婚約者が、なぜか姉の肩を抱いて私の目の前に座っている。
「すまない、エレミア」
「ごめんなさい、私が悪いの。彼の優しさに甘えてしまって」
私は何を見せられているのだろう。
一瞬、意識がどこかに飛んで行ったのか、それともどこか違う世界に迷い込んだのだろうか。
涙を流す姉をいたわるような視線を向ける婚約者を見て、さっさと理由を話してしまえと暴言を吐きたくなる気持ちを抑える。
「それで、お姉さまたちは私に何を言いたいのですか?お姉さまにはちゃんと婚約者がいらっしゃいますよね。彼は私の婚約者ですけど」
苛立つ心をなんとか押さえ、使用人たちがスッと目をそらす居たたまれなさを感じつつ何とか言葉を吐き出した。
※ゆる~い設定です。
※完結保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる