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ロゼは完璧な女性だった。
家事の腕前は他のメイドや使用人と比べて頭一つ抜け出ていて、エリート学校に通ったような豊富な知識と柔軟な思考をもっていた。

見た目の美しさと愛想の良さも相まって、彼女はすぐに周囲に溶け込んだ。
彼女の屈託のない笑顔を見ていると、はじめに覚えた嫌な予感は、もしかしたら私の勘違いではないのかと思ってしまう。

エドワードが遠征に出かけて既に三週間が経過していた。
約束の二週間を過ぎても帰ってこない彼のことが心配で、毎日気が気じゃない。
彼の帰りを待つように、自室の窓から城の門のところを見ていると、背後に足音がした。

「ベル様。大丈夫ですか?」

「ロゼ……」

ロゼは私の隣に立つと、心配するように眉をさげる。

「エドワード様……全然帰ってこないわね」

「はい。しかし多くの兵士を護衛に連れていっていましたし、エドワード様の腕前なら何かあっても大丈夫だと思いますよ」

「そうだといいけれど……」

エドワードと結婚する以前からこうなることは分かっていたはずなのに。
少し家を空けただけでこんなに悲しくなってしまうなんて。

「大丈夫ですよ」

ロゼが私を気遣うように明るい声で言った。

「エドワード様はきっとすぐに帰ってきます。ベル様のような素敵な女性が帰りを待っているのですから」

「ロゼ……」

きっと私は勘違いをしていたのだ。
彼女は純粋に心の底から私を心配して、幸せを願ってくれている。
彼女に少しでも警戒心を抱いてしまった自分が恥ずかしく思えてくる。
苦笑を返すと、ロゼが「そういえば」と言葉を続ける。

「エドワード様の好物はありますか? お好きな食べ物やお好きな本など」

「そうね……パンプキンパイが好きなのよ。本は全然読まないわね。勉強っぽくて嫌いみたい」

「ふーん、そうなんですね」

「どうして?」

ロゼは少しだけ頬を赤らめると、そっぽを向いて言う。

「その……お二人のことをもっと知りたいと思ったんです。迷惑……でしたか?」

「ううん。全然」

エドワードが帰ってこない悲しみは既に心の中から消え失せていた。
今はこの少女のように純粋なロゼといられるのが、何よりも幸せに感じられる。

「でもそれなら私のことも、もっと知ってほしいな」

「もちろんです! ベル様のこともたくさん知りたいです!」

「ありがとうロゼ」

その日からロゼは私とエドワードのことを知りたがるようになった。
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