不倫されたので離婚します

hana

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「おいエル。今からパーティーに行くぞ。すぐに支度をしろ」

オーウェンと再会したパーティーから一か月。
ジークは私に乱雑に告げる。
未だに使用人のような仕事をしていた私は、「わかりました」と暗く答えた。

手早く支度をして馬車に乗り込む。
オーウェンは私と会話する気はないらしく、ずっと窓の外を見つめている。
私も俯き、ずっと口を閉じていた。

王宮の大広間に到着すると、すでに大勢の人で賑わっていた。
ジークは前の時みたいに、私に隅にいろと言い、去っていこうとする。
しかし今回は、そんな身勝手な彼の前に、オーウェンが立ちふさがった。

「公爵令息ジーク、少しいいかな」

「え……オーウェン様」

ジークの足がピタリと止まり、顔が少しだけ青くなる。
私は不安げに二人の様子を見つめていた。
オーウェンがそんな私を気遣うように微かに苦笑した後、口を開いた。

「ジーク。実は以前のパーティーで、エルから君のことを聞いたんだ」

「え?」

ジークが私を振り返る。
オーウェンからは見えないが、その顔は醜悪にゆがんでいた。
余計なことをしやがってという声が聞こえてきそうだ。

「君は堂々と不倫をして、エルを脅したそうだね。あと彼女を使用人のように扱っているのだとか」

「ち、違います!」

ジークはオーウェンに向き直ると、ふざけたように笑った。

「オーウェン様。何か勘違いをされていますよ! 僕は不倫も脅しもしておりません! 最愛の妻、エルのことは赤子を扱うように大切にしていますし」

「ほう。エル、本当かい?」

オーウェンの目がこちらへ向けられた。
どうやら彼は私を助けてくれているらしい。
久しぶりに見た光の一筋に、心臓がドクンと跳ねる。

「勘違いだよな、エル」

ジークも私を振り返る。
少し青白いその顔からは、有無を言わせない圧が感じられた。
僕のために嘘をつけと言われているようだ。

「ジーク様のおっしゃっていることは……嘘です」

自然とその言葉が飛び出した。
自分の中にそんな勇気がまだ残っているのだと驚いた。

途端にジークの顔が歪み、私に詰め寄ってくる。
胸ぐらを掴み、口を大きく開いた。

「ふざけるな! 僕を貶める気だな! お前なんて……」

「おい」

ジークの背後から地の底から湧いたような低い声がした。
私とジークは同時に声の主に目を移す。
そこには、怒りに顔を歪ませたオーウェンの姿があった。

「その薄汚い手をエルから離せ。これは命令だ」

淡々として、威圧的な口調に、ジークがパッと手を離す。

「ジーク。エルとの離婚を認めるな?」

「え、あ、いや……」

「認めるな?」

ジークは引きつった笑みを浮かべていたが、やがて諦めたように俯く。
そして「認めます」と小さな声で呟いた。

「よし。じゃあさっさとパーティー会場を出ていけ。ほら、行け!」

「は、はいぃぃ!!!」

ジークは血相を変えると、慌てて会場を飛び出していった。
私は自分を助けてくれたオーウェンに深く頭を下げる。

「オーウェン様。本当にありがとうございました。何とお礼を言ったらいいのか……」

「顔を上げてくれエル」

ゆっくりと顔を上げると、そこにはもう恐ろしい王子の顔はなかった。
私が知る、優しい笑みを称えたオーウェンの顔があった。

「エル。これからは僕が君を守るよ」

「え……」

思わせぶりな口調に心臓の鼓動が高鳴る。
オーウェンは恥ずかしそうに頬を赤らめると、続きを言う。

「君が好きなんだ。僕の妻になって欲しい」

電撃が走ったような衝撃を感じ、私は口をぽかんと開けた。
「ダメかな?」とオーウェンが心配そうな目をする。
私は自分の胸に手を当てて、少し逡巡した後、首を横に振る。

「前向きに検討させて頂きます!」
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