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二人の私を侮辱する言葉に、拳を握りしめたその時だった。
会場の扉が開き、国王と第二王子のボルトが現れた。
二人は今宵の社交界に参加する予定だったが、隣国へ行っていて、途中からの参加となったのだ。

「これは何事だ!?」

ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、国王が先に声を上げた。
隣で第二王子のボルトは冷ややかな瞳を浮べている。
近くにいた貴族が事の顛末を簡単に説明すると、「何だと!?」と国王が目を見開く。
ボルトも顔色を変えて、私たちの方を観察するように見つめた。

事情を知った二人は私たちの方まで歩いてきた。
そして国王が口火を切る。

「レイス。アリスとの離婚を宣言したというのは本当だろうな?」

レイスは自信満々に頷いてみせる。

「ええ、本当です。アリスは僕の妻に相応しくない人間でした。学も教養もなく、魔法も使えない。第一王子である僕にこんな女は相応しくない」

「ほう……」

国王が何かを考えるように顎髭を撫でる。
その表情には怒りのようなものが滲んでいたが、レイスはそれに気づかず言葉を続ける。

「新しい妻として男爵令嬢のローズ……彼女を迎え入れることにしたのです。彼女はアリスと違って気が利いて、博識で……なにより美しい!僕の妻にピッタリではありませんか!」

「なるほど」

国王の鋭い眼光がローズを睨む。
彼女もレイスと同じように、国王の怒りには微塵も気づいていないよう。

「国王様も私の方がレイス様にピッタリだと思いませんかぁ?」

あのふざけた口調で国王に馴れ馴れしい態度をとる始末。
この二人はどこまで自分の身を絶望に近づければ気が済むのだろう。
半ば感心していると、国王が低い声で確認をする。

「……本当にアリスと離婚でいいのだな?」

「ええ!」
「はい!」

二人がほぼ同時に頷くと、国王はにこっと笑った。

「そうか。じゃあお前は今日からもう王子ではない。さっさと王宮を去れ」

「……はい?」

レイスのほころんだ顔が制止した。
時が止まったような雰囲気となるが、レイスの狼狽えた声がそれを打ち破る。

「えっと……どういうことでしょうか……ははっ……あれですか?王宮ではない場所に屋敷でも建てて……」

「そういうことを言っているのではない。言葉の通りだ。アリスとの関係を抹消するならばお前は王子ではいられない。これからは平民として人生を生きるのだ」

「は……え……何で……え?」

まあ困惑するのも無理はないだろう。
きっとレイスはあの事実を聞かせれていないのだから。
いや、聞いていたとしても、冗談だと思って忘れてしまったのだろう。
そうでなければ、こんなに困惑するわけがない。

「アリス……どういうことだ?」

レイスが私に助けを求めるような視線を送る。
隣に立つローズは、状況がまだ呑み込めていないのか、ぽかんとした顔になっている。

「国王陛下の言った通りです。あなたは私と離婚後、平民に階級を落とすのです。なぜなら、あなたは元々、第一王子ではなく、平民の子なのですから」

「はぁ!!??」

レイスの動揺した叫びと共に、会場からもざわめきが起こる。

「そんなはずはない!僕は今まで第一王子として人生を全うしてきたんだ!そ、それに僕が平民の子だとしたら……ど、どうして王子になっているんだ!そのまま平民として生きているはずだろう!」

やはり何も聞いていないようだ。
レイスのもっともな疑問を解決してあげるように、私はそっと口を開く。

「レイス王子。いや、レイスさん。あなたは国王陛下の妻……今は亡き王妃様が拾ってきた子供なのです」
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