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突然の婚約破棄
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豪華絢爛なパーティー会場は、色を失ったような白い髪の私には、不釣り合いにおもえた。
しかし隣に立つ、第一王子のアレンは堂々とした顔つきで、しっかりと前を見据えている。
「コハク。準備はいいね」
私の顔を見ることなく、アレンはそう言った。
その瞳の輝きが私には羨ましい。
「はい。もちろんでございます」
感情が出にくいというだけの冷静さで答えると、王子と共に歩を進めた。
途端に四方八方を向いていた貴族たちが私たちに顔を向け、はじけ飛ぶような拍手を鳴らした。
両側からの音の圧に耐えながら、私たちは壇上まで進む。
アレン王子が一歩前に出ると、ピタリと拍手が止み、皆の顔つきが引き締まった。
「皆様。本日は王宮主催のパーティーにお越し頂き、誠に感謝申し上げます!」
アレンの言葉に、再び拍手が会場を埋め尽くす。
彼は手をあげてそれを鎮めると、言葉をつづけた。
「そして今日は、ここにいる伯爵令嬢コハクと婚約して八年目の記念日。どうかもう一度彼女に祝福の拍手を!」
三度、会場を拍手が埋め尽くす。
しかし今度は口笛まで混じっていた。
お茶目な貴族がどこかにいるみたいだ。
「皆様。パーティーはまだまだ続きます。どうかごゆっくりお楽しみください」
アレンは締めの言葉を告げると、私に顔を向ける。
手を伸ばし「さあ行こう」と優しい声で言った。
……それから数分後。
私は珍しく顔を強張らせ、目の前の二人を見つめていた。
一人は婚約者のアレン王子、もう一人は見知らぬ貴族令嬢だった。
「冗談ですよね?」
パーティーの喧騒に私たちの会話など溶けていく。
アレンは人目をはばかることもなく、先ほど告げた衝撃的な言葉を再び告げる。
「冗談じゃない。僕と婚約破棄してくれ」
「そんな……」
一体彼は何を言っているのだろう。
もしかしてこれは現実ではなくて、リアルに忠実なただの夢なのかもしれない。
儚い理想を並べたてるも、肌に感じる人の熱と、心を打つ悲しみが夢だとは到底おもえない。
「諦めてくださるかしら、コハクさん」
彼の隣に立つ女性がやっとここで口を開いた。
赤い長い髪を携えた、目つきの鋭い女性だった。
「私とアレン王子は運命の赤い糸で結ばれているの。だからあなたみたいな平凡令嬢はさっさと身を引いてくださる?」
「な、何を……!」
私とアレン王子は八年もの長い間、婚約者として一緒に時を過ごしてきた。
その煌びやかな思い出が、こんな狐のような目をした彼女に奪えるはずがない。
私が一歩足を踏み出すと、彼女の顔が醜く歪んだ。
「どうやら私のこと知らないようねぇ。マナーすらも心得ていないのかしら」
「え?」
動揺した瞬間、アレンが大きなため息をつく。
「彼女は公爵令嬢のエレノア。伯爵家の君よりも身分は高い。反抗なんて馬鹿な真似はしないだろ?」
「公爵令嬢……」
その名前には聞き覚えがあった。
国の外交を任される名家の令嬢の名前だ。
「し、失礼しました……」
低い声で謝罪をすると、エレノアは高らかに笑いはじめた。
するりと伸びた腕が、アレンの腕に巻き付いていく。
「気分がいいから許してあげるわ。だって、もうアレン王子の心は私のものになったんですもの」
「コハク。僕は君と婚約破棄した後、彼女と再び婚約を結ぶ予定だ。彼女こそが王子の妻には相応しい。分かってくれ」
言葉が私の心に棘を刺すように痛めつける。
壇上でアレンは、今日が婚約八年目の記念日だと言っていた。
こんな悲しい事実を私に告げると知っていながら、どうしてそんなことができたのだろう。
「本当に彼女を選ぶのですね?」
私には婚約者のアレンしか見えていなかった。
王子としての彼ではない。
アレンはしっかりと私を見据えた上で、堂々と頷いた。
「ああ。それが王子である僕の選択だ」
しかし隣に立つ、第一王子のアレンは堂々とした顔つきで、しっかりと前を見据えている。
「コハク。準備はいいね」
私の顔を見ることなく、アレンはそう言った。
その瞳の輝きが私には羨ましい。
「はい。もちろんでございます」
感情が出にくいというだけの冷静さで答えると、王子と共に歩を進めた。
途端に四方八方を向いていた貴族たちが私たちに顔を向け、はじけ飛ぶような拍手を鳴らした。
両側からの音の圧に耐えながら、私たちは壇上まで進む。
アレン王子が一歩前に出ると、ピタリと拍手が止み、皆の顔つきが引き締まった。
「皆様。本日は王宮主催のパーティーにお越し頂き、誠に感謝申し上げます!」
アレンの言葉に、再び拍手が会場を埋め尽くす。
彼は手をあげてそれを鎮めると、言葉をつづけた。
「そして今日は、ここにいる伯爵令嬢コハクと婚約して八年目の記念日。どうかもう一度彼女に祝福の拍手を!」
三度、会場を拍手が埋め尽くす。
しかし今度は口笛まで混じっていた。
お茶目な貴族がどこかにいるみたいだ。
「皆様。パーティーはまだまだ続きます。どうかごゆっくりお楽しみください」
アレンは締めの言葉を告げると、私に顔を向ける。
手を伸ばし「さあ行こう」と優しい声で言った。
……それから数分後。
私は珍しく顔を強張らせ、目の前の二人を見つめていた。
一人は婚約者のアレン王子、もう一人は見知らぬ貴族令嬢だった。
「冗談ですよね?」
パーティーの喧騒に私たちの会話など溶けていく。
アレンは人目をはばかることもなく、先ほど告げた衝撃的な言葉を再び告げる。
「冗談じゃない。僕と婚約破棄してくれ」
「そんな……」
一体彼は何を言っているのだろう。
もしかしてこれは現実ではなくて、リアルに忠実なただの夢なのかもしれない。
儚い理想を並べたてるも、肌に感じる人の熱と、心を打つ悲しみが夢だとは到底おもえない。
「諦めてくださるかしら、コハクさん」
彼の隣に立つ女性がやっとここで口を開いた。
赤い長い髪を携えた、目つきの鋭い女性だった。
「私とアレン王子は運命の赤い糸で結ばれているの。だからあなたみたいな平凡令嬢はさっさと身を引いてくださる?」
「な、何を……!」
私とアレン王子は八年もの長い間、婚約者として一緒に時を過ごしてきた。
その煌びやかな思い出が、こんな狐のような目をした彼女に奪えるはずがない。
私が一歩足を踏み出すと、彼女の顔が醜く歪んだ。
「どうやら私のこと知らないようねぇ。マナーすらも心得ていないのかしら」
「え?」
動揺した瞬間、アレンが大きなため息をつく。
「彼女は公爵令嬢のエレノア。伯爵家の君よりも身分は高い。反抗なんて馬鹿な真似はしないだろ?」
「公爵令嬢……」
その名前には聞き覚えがあった。
国の外交を任される名家の令嬢の名前だ。
「し、失礼しました……」
低い声で謝罪をすると、エレノアは高らかに笑いはじめた。
するりと伸びた腕が、アレンの腕に巻き付いていく。
「気分がいいから許してあげるわ。だって、もうアレン王子の心は私のものになったんですもの」
「コハク。僕は君と婚約破棄した後、彼女と再び婚約を結ぶ予定だ。彼女こそが王子の妻には相応しい。分かってくれ」
言葉が私の心に棘を刺すように痛めつける。
壇上でアレンは、今日が婚約八年目の記念日だと言っていた。
こんな悲しい事実を私に告げると知っていながら、どうしてそんなことができたのだろう。
「本当に彼女を選ぶのですね?」
私には婚約者のアレンしか見えていなかった。
王子としての彼ではない。
アレンはしっかりと私を見据えた上で、堂々と頷いた。
「ああ。それが王子である僕の選択だ」
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