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【完】魔女は魔王に溶かされる②

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 朝日の眩しさに、もぞもぞと布団の中で温もりを探す。
 …ばでぃ、いない。どうして?

 布団は頭からかけたまま座り込んでいると、クロが入り込んできて、太腿で丸くなった。
 ふわふわ。あったかい。


「魔王様にゃら、出かける準備してるにゃ」

「…バディウスの事なんて、どうでもいいわ」

 愛してくれた翌朝に、隣にいない人のことなんて。

「魔王様がいにゃいから、寂しそうにゃんじゃにゃいのか?」

 寂しそう?私が?
 そんなはずないと思いながら撫でていたクロを、奪い取られてしまう。

「え、あ、バディウス?……っ、クロを返して」

 庶民の服装の彼に、少し驚いてしまった。初めて見た格好に、ときめいたとか、そんなんじゃないんだからっ。


「私以外を裸で抱いているとはどういうことだ?」

 彼の視線から隠れようと、シーツを手繰り寄せる。


「クロは猫よ。気にしないわ」

 バディウスがベッドへ座り、マットレスが沈む。そこから逃げるように離れるが、その分詰め寄られてしまった。

 私をひとりにしたくせに。

「そう拗ねてくれるな。今日は君とデートがしたくて、準備してたんだ。身体は辛くないか?」

 デート?

「身体は、平気」

 デートって、恋人同士が街でお買い物とか、遊んだりとかする…あの?本でしか読んだことがないわ。

 ベッド横のサイドテーブルに置かれた呼び鈴を、バディウスが鳴らす。
 サッと現れたのは、侍女たち。

「シェリーに庶民のおしゃれをさせてあげてくれ。これから街に出る」

「かしこまりました!この時を楽しみに待っておりましたの!!どんな色味がお好きですか?奥様」

「城下ではこの様な形のデザインが流行っていますが、奥様はお気に召しますでしょうか」

「いえ、奥様にはこちらのデザインの方がお似合いだわ!」

 バディウスが指示した瞬間に、彼女たちに囲まれる。勢いに、のまれてしまいそう。

 お、奥様って…、私?

「あ、あの」

「では、準備ができたら呼んでくれ」

 バディウスはさっさと出ていってしまった。

「ああ、自己紹介がまだでしたわね。申し訳ありません、シェルフエール様。私たちはサキュバスで、奥様の身の回りの世話係でございます。何なりとお申し付けください。私は、ミヤ。そして右からカヤ、サヤでございます」

 3人に、深く頭を下げられる。

 サ、サキュバスって…。

「3人は、バディウスの、その…お世話もしているの?」

 ポカンと、見つめられてしまう。
 私、変なことを聞いてしまったわ!ど、どうしよう。だって、サキュバスって、その…誘惑とかして、精気を奪うっていう魔物、よね。

 ああ、でも、こんなことを聞いてしまうのは失礼だったかしら。


「奥様に、嫉妬されてしまったわ!ああ、なんて可愛らしいのっ!!…っ、ご安心ください奥様!!魔王様と私たちにはなんのやましい事はございません!!」

「そうでございます!私たちサキュバスの食事は人間の精気だけでございます。魔王様は人間ではありませんので!!」

 そうグイグイと詰められながらも、テキパキと着替えさせられた。
 その手際の良さに、目が白黒する。

「う、疑ってしまってごめんなさい…」

 恥ずかしすぎるわ。


 あ、黒色がメインの、服…。

「奥様は黒がお好きなのかと思いまして…。他の色が良かったですか?」

「黒が、いいです…」

 私、黒が好きだったのね。意識していなかったけど、確かに、気に入った物は黒が多かったかも。



 化粧なんてしたことがなかったから、鏡を見て目を見張った。
 こんなに、変わるなんて。この姿、バディウスに見てもらうの?

「や、やっぱり、今日は…」

 デートなんてやめようと言おうとして振り返ると、バディウスがいた。

 …っ、恥ずかしい。こんな格好、初めてで。今すぐに、化粧を落としたいっ。


「どうでしょう、魔王様!私たち、腕によりをかけて、奥様をより美しく仕立て上げました!!」


 そ、そうよね。3人が頑張ってくれたのに、こんなこと思ってたら失礼だわ。


 俯いて身体を小さくしていると、そっと手を取られた。手の甲へ、バディウスの唇が触れる。


「さらに可愛く美しくなるなんて…。デートに行かず、閉じ込めておきたくなるな」

 ブワッと体温が上がる。

「だが、約束だからな。シェリーの欲しい物を探しに行こう」

 こくこくと頷くことしかできなかった。






 綿あめの店主の約束の為に、変装魔法を施してから綿あめを買う。すごく、喜んでくれて胸が温かくなった。


「彼は、旦那さんかい?」

「あ、え、っと」

 どう、答えたらいいんだろう。
 あわあわしていたらバディウスに肩を抱かれ、そうですと答えられてしまった。

 ボンっと顔が真っ赤になる。


 その後は素の姿になり、寄る店々でカップルだの新婚だの…心臓がもたない。男女が寄り添い歩いていたら、これが普通なのか。

 クロへのリボンは、何色にしようか悩んでしまった。
 何色が好きか、聞いてからくるべきだったわ。今度一緒に探そう。



 ふと、赤い石が目に入る。路上で売られている、ガラス玉のようだ。
 ネックレス…バディウスの瞳と同じきらめき。キレイ。

「それが欲しいのか?」

 これが、欲しいって気持ちなのかしら。

「…わからないけど、とてもキレイ」

 バディウスは、ふっと、柔らかな笑みをこぼす。

「これをひとつもらおう」

「あいよ。まいどありー」

 あ、と、思ったら、首に下げられてしまった。近くで見ると、もっとキレイに見える。キラキラ、してて。

「似合ってる」

 まるで、バディウスの隣にいるのが似合ってると言われたようで、気恥ずかしい。

「ありがとう」

 もっとはっきり言いたいのに、声が小さくなってしまった。それでも彼は、ちゃんと拾ってくれる。
 頭を、撫でてくれる。



 私があちこち目移りしてしまって、帰りが遅くなってしまった。
 私の、せいなのに。

「どうした?今日はたくさん歩いたからな、疲れただろう。ゆっくり休もう」

 こんなに労られて、甘やかされたら、余計に離れ難くなってしまう。ひとりじゃ、何もできなくなってしまいそう。

「そんなに、甘やかさないで」

「嫌か?」

 いやじゃ、ないけど。

「ひとりで生きていけなくなっちゃう」

 引き寄せられ、抱き締められる。

「私がシェリーをひとりにはさせない」


 信じて、いいのかもしれない。バディウスなら私を捨てない。ずっと、愛してくれる。

 縋るように、バディウスの背に腕を回した。



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