【R18】悪役を受け入れた魔女は殺しに来た勇者(魔王)に溺愛される

こむらともあさ

文字の大きさ
上 下
5 / 9

5.魔女は過去に助けを乞う

しおりを挟む

「…ん、ぅ」

 頭が痛い。

 なんとか瞼を上げると、私が転がっているのは見慣れない天蓋付きのベッド。辺りを見回すと品のある調度品が並んでいる。

 どこ、ここ。私、なんでこんな所に?

 起きあがろうと動くと、ジャラッという音と共に足首へ重みを感じた。

 何これ…、足枷?

「どういうこと」

 魔法は、弾かれてしまう。

 この豪華な室内に、対魔法道具…。ここ、王城なの?地下牢に捕えられているわけでもない。でも、監禁されていることは確か。



 扉が開く音に身体が大きく跳ねた。

「シェルフエール、やっと起きたのか」

「殿下…?これは、一体」

 彼の恍惚とした表情に慄き後退るが、鎖を掴まれそれ以上動けなくなった。

「逃げてはいけないよ。…ようやく手に入った、愛しいシェルフエール…。父上が血迷ったせいで手間取ってしまったが、あなたを他の男の目に触れないようにするには、ちょうど良かったかもしれないな」

「な、にを…」

 今にも私を喰らい尽くしてしまいそうなギラギラとした瞳。
 いや、だ。気持ち悪い。

 父が暴力を振るう前のそれに、似ている。


 魔法を…っ!?

 私が振ろうとした手を殿下は強い力で掴み、不発に終わった。
 首へカチャッと何かをはめられる。

 チョーカー?

「これで魔法は使えない。…はぁ、あなたに精通を手伝ってもらってから、こうする事をずっと夢想していたんだ」

 どろりと溶けそうに澱んだ視線の奥で暴力的に燃える何かが、怖くてたまらない。

「や、やめっ」

「そんなに震えなくても大丈夫だ。私は性教育をきちんと受けている…あなたと気持ち良くなりたいだけだ。ああ、それと、願わくば、あなたとの子が欲しい。きっと、とても可愛いだろうな」

 わけがわからない。この人は、何を言っているの…。

 殿下の舌が無遠慮に私の口をこじ開ける。

「んぐ…っ、う、ンッ」

 操る、魔法を…っ、かけられれば。


「ぷはっ、あ。…っウィルラン、私を、逃して…っ」

 殿下が驚いた様に私を見る。すぐに口角を上げ、私の頬を撫でた。
 効いてない…っ。

「シェルフエールにその様に呼んでもらえるなんて…。まさか、魔力をチョーカーに封じられているのに、私を操ろうとしたのか?無駄なことを」

 いつ着替えさせられたのか、真っ白なワンピースの上から、身体のラインを確かめるかの様に彼の手が行き来する。

 気持ち悪い…!やだ、やだ…!!



 ──時が来たら、迎えに来る。

 そう言ってくれたあの子は、誰だったか。どうして今、思い出すんだろう。


 たすけて。

「…おねが、い。たすけて…っ!」

 名前も知らないあの人は、誰?





 ブワッと強風が部屋の中に吹き荒れる。

 この魔力、は…。

「な、なんだ!?シェルフエールは魔法を使えないはず…っ」


「王太子ともあろう者が、魔王の花嫁に手を出すとは…。シェルフエールが助けを求めないままだったなら、国が滅んでいたぞ?」

 真っ黒な髪が靡き、深紅の瞳が剣呑にきらめいている。

 そうだ、あの子も…。

 初めて魔法を使ったあの日、そばにいた少年の面影が重なる。

「他の男に泣かされるなど…あとで仕置きだな、シェルフエール」

 風で涙が飛ばされていく。


「魔王など、存在しないはずでは」

 殿下、呆然とされてるわ。物語上の空想の人物だと、私も思っていたもの。当然の反応ね。
 けれど、彼はここにいる。


 魔王は鼻で笑った。

「そもそも、魔女は魔王が見初めた人間の女に魔力を分け与えた者のことだ。王族には代々伝わっているはずだが?」

 魔王がパチンッと指を鳴らすと、私は彼にお姫様抱っこされていた。

 転移魔法?

 スンッと首筋の匂いを嗅がれる。
 私、今、汗くさいのでは!?

「やっ」

「私の魔力とシェルフエールの精気がうまく混ざり合っている…。時は来たようだ」

 嗜めるように、彼の指がうなじを撫でて、くすぐったい。


 チラッと殿下へ視線を向けると、未だ目を見開いて立ち竦んでいた。

 目隠しするように、魔王は私を肩へと押し付ける。

「その様な男、君の目には入れたくない」

 耳の奥へと注がれる重低音。
 
 腰が、震えた。



 時空が歪み、ギュッと目を瞑る。

 次に目を開けると、黒を基調としたシックなお城の一室に立っていた。
 ここが、魔王城?

 カツンッとチョーカーが床に落ちる。

 外してくれたのかしら。
 頭2つ分ほど見上げると、バッチリと目が合って、パッと逸らしてしまった。

 と、とても綺麗すぎて、直視できないわ。



「シェル!良かっにゃ、無事だったにゃ!?」

 え、クロ!?

 扉が勢いよく開いて、クロが胸に飛び込んで来た。しかも、人の姿で。猫耳と尻尾はそのままだけど、ちゃんと服を着ている。


「クロ、どうしてここに」

「君の使い魔だろう?私が呼び寄せた」

 魔王の言葉に、瞠目する。

「魔王様が、シェルはここに住むことににゃるから、オレも来いって。塔でお留守番出来にゃくてごめんにゃさい…」

「そんなこと…。私こそ、あなたを置いていってしまって、ごめんなさい」

 ぎゅうぎゅうと抱きついてくる温かい体温。
 んんっ、かわいい…っ。


 せっかくクロを堪能していたのに、魔王にひっぺがされた。

「もういいだろう。…ジル、そいつを連れて行け」

「ワカッタ!!」

 何処にいたのか、急に現れたジルがクロの首根っこを咥えて、引きずりながら部屋を出ていってしまった。
 寂しい…。

「その様な顔は、私だけに向けろ」

 ?…どんな顔のことかしら。って、ちか…っ。

 振り向くと、鼻先が触れそうになった。

「全く。君は、無自覚に男を誘う」


 ちゅ、と唇が触れ合う。
 …っ~!?
 初めてでも無いのに、この小っ恥ずかしさは何!?

「この唇は、何人の男を操ったんだ?」

「う、あ、そんなに、多くは…」

「私も操れるか、試してみると良い」

 いや、色気!魔王の色気が…っ!!
 どうしてあんなに必死でこの人から逃げたのか、わからなくなってくる。
 目が、回りそう。

「口を開けて舌を出せ。私に魔力を流し込んでみろ」

 そ、んなこと、言われても。顔から火が出そう。うぅ…。

 そろりと口を開くと、かぶりつく様に彼の口に塞がれた。

「…っン、ぐ……ふぁ、…ちゅ」

 魔力、流し込めない…っ。逆に、濃いのが、流れ込んで……っ、っ。
 チカチカする。

 離れて、銀糸が伝う。

「シェルフエール、気持ちが良いな」

 ガクンッと、脚の力が抜ける。
 頭の中、気持ち良いが…いっぱい。

「あ、…っだ、め、んぅっ」

 腰に回された腕に支えられ、耳元でクスリと笑われる吐息さえも気持ち良くて、頭を振る。

「君も私を操ってみろ。名前は、バディウスだ」

 腰を屈めてくれるバディウスの首へ、腕を絡める。

 何も考えられない。でも、言われた通りにしなきゃ。


「…っ、バディウス。もう、やめて」

「ああ、そんな甘い声で呼ばれても、それは聞けない相談だ。仕置きもしなくてはならないからな」

 全然魔法かかってない!!
 キッと睨みつけると、脚の間に入れられた膝が上に上にと押しつけられ、ぐちっと音を立てた。

 え、嘘、私。

「あ、だめ、いや…こんなの、ちがっ」

「ふふ、濡れているな」

 これは…、バディウスの魔法のせいで…っ。
 彼の腕に爪を立て、胸に額を擦り付ける。

 だめ、だめだめだめっ!

「…っんん、ふ、あぁっ」

「可愛いな、シェリー。さぁ、ベッドへ行こう」

 私の、愛称…?誰にも呼ばれたことない。


 息が整わない内に、またお姫様抱っこ。触れられている所が全部気持ち良いのは、操られているせい。絶対そうよ。


 ふかふかのベッドへ寝かされる。私をすっぽりと覆う影。
 どこまでも労るような瞳に見つめられ、少しずつ力が抜けていく。

「大丈夫だ。君の本当に怖がるようなことはしない。だが、私でない初めてのキスと、男を誑かしたこの掌への仕置きはさせてもらう」

 唇を親指でなぞられ、右掌をべろりと舐められる。ただそれだけなのに、目尻から雫が落ちた。
 なんで私がしてきたこと、知ってるのかしら。知りたいことは沢山あるけど。


「…痛いのは、いや」

「ああ、わかっている。痛いことはしない、絶対に」

 …っ。

 慈愛に満ち溢れたバディウスの声色に、私は小さく頷いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

ちょいぽちゃ令嬢は溺愛王子から逃げたい

なかな悠桃
恋愛
ふくよかな体型を気にするイルナは王子から与えられるスイーツに頭を悩ませていた。彼に黙ってダイエットを開始しようとするも・・・。 ※誤字脱字等ご了承ください

乙女ゲームの愛されヒロインに転生したら、ノーマルエンド後はゲームになかった隣国の英雄と過ごす溺愛新婚生活

シェルビビ
恋愛
 ――そんな、私がヒロインのはずでしょう!こんな事ってありえない。  攻略キャラクターが悪役令嬢とハッピーエンドになった世界に転生してしまったラウラ。断罪回避のため、聖女の力も神獣も根こそぎ奪われてしまった。記憶を思い出すのが遅すぎて、もう何も出来ることがない。  前世は貧乏だったこら今世は侯爵令嬢として静かに暮らそうと諦めたが、ゲームでは有り得なかった魔族の侵略が始まってしまう。隣国と同盟を結ぶために、英雄アージェスの花嫁として嫁ぐことが強制決定してしまった。  英雄アージェスは平民上がりの伯爵で、性格は気性が荒く冷血だともっぱらの噂だった。  冷遇される日々を過ごすのかと思っていたら、待遇が思った以上によく肩透かしを食らう。持ち前の明るい前向きな性格とポジティブ思考で楽しく毎日を過ごすラウラ。  アージェスはラウラに惚れていて、大型わんこのように懐いている。  一方その頃、ヒロインに成り替わった悪役令嬢は……。  乙女ゲームが悪役令嬢に攻略後のヒロインは一体どうなってしまうのか。  ヒロインの立場を奪われたけれど幸せなラウラと少し執着が強いアージェスの物語

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...