【R18】悪役を受け入れた魔女は殺しに来た勇者(魔王)に溺愛される

こむらともあさ

文字の大きさ
上 下
3 / 9

3.魔女は追手を退ける

しおりを挟む

 クロは私の魔力に耐性がついたのか、あの日以来発情しないまま、2日経った。



 2kmほど離れた場所に仕掛けた魔法が爆発したのを感じとる。

 やっぱり来たわね。追手の兵士たち。たったの10人で私に勝てるとでも思ってるのかしら。

 罠の近くへ置いておいた水晶に写ったものが、私の鏡へと転送されている。

 死者が出るほどの威力は込めてないのに、これくらいでおめおめと帰って行くなんて、根性ないわね。


 それから3日後には20人が2ヶ所の罠に掛かって引き返し、そのまた3日後には30人が罠の3つ目まで到達した。

 そろそろここへ辿り着きそうね。大した怪我はしていないはずなのに、たった3つの罠で30人の内半分もリタイアするなんて。



 あら、思ったより早く着いたわ。

 塔の窓から兵士たちの姿を視認して、そこからふわりと飛び降りる。彼らは瞠目しながらも剣へと手を添えた。

 私の足元で、シャーッと毛を逆立てているのはクロ。私のために威嚇してくれるなんて、なんて愛おしいのっ!って、いけない。それは置いておいて。

「遠路はるばるようこそ、兵士さんたち。私に何かご用かしら」

 パカ、カポ、と、馬へ乗った騎士が前に出てくる。

「これはこれは、アイリウス騎士団長がわざわざこんな所まで。さすがに、驚きましたわ」

 鏡で視てすでに知っていたけれど、騎士団長まで駆り出されるなんて…陛下は必死ね。ということは、兵士だと思っていた彼らは、騎士なのかしら。
 もしかして、私が追手の力量を見誤る様、ワザと…?


「シェルフエール、久しぶりだな。あなたともあろう人が、まさか反逆を企てるなど思ってもみなかったが…。私たちは、あなたを処刑しなければならない。一緒に来るか、歯向かうならこの場でその首差し出してもらおう」

 私はしおらしく片頬へ手を添えて、アイリウスへ流し目を送る。彼の上下する喉仏を見逃したりしないわ。
 あなた本当に、私の顔、好きよね。

「アイリウス様まで、私をお疑いになるのね…。そんなこと、考えた事も、企てた事もないのに。誰も、魔女の話など聞いてはくれない」

 瞳を潤ませれば、簡単に狼狽えてくれる。

「な、何か誤解があるというのなら、話を聞こう」

「アイリウス様はお優しいのね。嬉しい!では、中にどうぞ」

 この騎士たちの中で手強いのはこの男だけ。あとはクロだけで簡単に追い払えるわ。
 そうクロへ魔法で伝え、アイリウスだけを塔の中へ誘う。

 部屋にはあげてやらないけど。



 薄暗い階段下で、アイリウスの胸へ縋り付く。肩を抱いてくる腕に、反吐が出そう。

「シェルフエール、あなたが反逆など…やはり違ったのだな」

 そこは信じてくれてありがたいけれど、陛下はあなたの進言では私への冤罪を翻す事はないでしょうね。
 それに、始めたばかりだけれど、今の生活、結構気に入ってるの。さっさと帰ってちょうだい。

「信じてもらえて、嬉しい」

 涙を流すくらい、私には朝飯前。まんまと騙されて拭ってくれるアイリウスは私の掌の上。

 近付いてくる唇を、されるがまま受け止めてやる。

 魔女に深い口付けなんてしたら、操られるって知らないのかしら。

「ん、シェルフエール……」

「…アイリウスさま。んっ」

 脚の間にアイリウスの膝が差し込まれるが、唾液とともに魔力を流し込むことに集中する。

 ちゅっ、と、ようやっと離れた頃には、彼はボーッとした様子で立ち竦むだけ。


「アイリウス。あなたは私を殺したと思い込み、王城へ報告する」

 耳の奥の奥へ、吹き込んでやる。

「ああ、承知した」

 ふふ、良い子。


 アイリウスを外へ出した後に部屋へと上がり、窓からクロと共に彼らの動きを見下ろす。

 クロによって気絶させられていた騎士たちはアイリウスに起こされ、皆、引き返していった。



 全てを見ていたのか、ジルが興奮気味に、開けた窓から入ってきた。

「人間ヲ操ル魔法使エルノスゴイ!ヤッパリ、シェルフエールノ魔力、魔王サマミタイ!!」

「ジルったら、見てたの?…あの魔法もかなり疲れるのよね。だけど、これで私は死んだことになるし、もう来ないわ」

 一兵卒じゃ、首くらいないと信用してもらえないかもしれないけど、騎士団長が殺したと言えば、さすがに死んだことにしてくれるだろう。

 予想より早く片付いて良かったわ。

 グッと伸びをすると、より肩の荷が降りたよう。


「オレ、すごかったにゃ?シェルの為に頑張ったにゃ!!」

 褒めて褒めてと飛び跳ねるクロの可愛さはいつまでも衰えない気がする。撫でくりまわしてあげるわ!





 命を狙われずに済むって、本当に気楽だわ!魔物たちも動物たちも可愛くてもふもふだし。
 はぁー、幸せ。

 1週間以上経っても人の気配はなく、快適に過ごせている。膝で眠るクロを撫でながら優雅にお茶を飲めるほど。

 ほう、と、息をつきカップを置くと、窓ガラスが突き破られた。

 なに!?

 物凄い勢いで入ってきたのか、ジルがスライディングした状態でテーブルに突っ伏している。

「ジル!?どうしたの!?」

 ジルはジタバタと体勢を整える。
 怪我は無いみたいだけど…。

「人間!デッカイ人間ガ、来テル!!」

 でっかい人間?

「城下デ、ゴミ漁ッテタラ、人間タチ噂シテタ。勇者ガ魔女ヲ倒スッテ!!多分、今来テルノ勇者ダッ」

 勇者って、物語に出てくる魔王を倒す力を持つっていう、あの…?魔王も魔界も存在するなら、勇者も実在するってこと?いえ、そんなことよりも。

「私は死んだことになっているはずよ。どうして倒しに来るの?」

 両羽をバサバサと振り回しながら、ワカラナイ!と叫ぶジルを落ち着かせる様に撫でてやる。

 とにかく、理由を考える前に対処しないと。

 身を翻すと同時に鳴った戸を叩く音に、ドクリと心臓が跳ねた。
 もう、辿り着いたというの?


 相手は魔王をも倒すという勇者…。

「クロ、ジル、逃げて。此処は私がなんとかするから」

「やだ!オレ、シェル守るにゃ!!」

「良い子だから、言う事を聞いてちょうだい。私だけなら隙を見て逃げれるから。…ジル、クロをお願い」

 ジルは暴れるクロの首根っこを咥えて森へ飛んで行ってくれた。
 再びノック音が下の階から聞こえる。


 そろりと窓から外を覗くと、大剣を背中に負った男が扉の前に立っている。
 本当に大きいわね。ただの、人間…よね。透明魔法で逃げれるかしら。

 自らを透明にして窓枠に脚をかけると、ブワッと一瞬の風が鼻先を掠めた。

 私、まだ、飛び降りてな──

 バチンッと音がした。
 な…っ、魔法が解かれた!?


「きゃあぁっ」

 後ろへ強く引かれ、布団へと背中が叩きつけられる。ギシリと男がベッドへ乗り上げて、その巨体は私をすっぽりと覆う影を作った。



 ドスッと、スカートが大剣でベッドに縫い付けられる。


 あ、私、ここで死ぬのね。

 心臓は忙しなく煩いのに、頭は急激に冷えていく。

 私、まだ諦めたくない…。冤罪で殺されるなんて!

 男から離れる為にずり上がると、スカートがビリビリと破れていく。露わになっていく脚を掴まれ、引きずり戻された。

「…っいや!離して!!」

 キッチンの包丁を魔法で男に向けて飛ばすが、いとも簡単にはたき落とされる。

 こいつ、魔法が全く効かない!?どうして…っ。こわい、いや、誰か。

 うつ伏せでベッドの上を這いずると、男がのしかかってきて、喉が引き攣る。


「アイリウスが魔女を殺したと言った時には肝を冷やしたが、やはり生きていた。…シェルフエール、今日は君の生存を確認したかっただけだ。そんなに怯えないでくれ」

 低い、聞き覚えのない声。
 私を、知ってる?誰、なの。…呼吸が、ままならない。


「今の私は勇者だからな。王へは、魔女は本当に死んでいたと報告しておこう。安心して、私を待つと良い」

 待つ…?

「何を、言って」

 強い力で身体を反転させられ、息が詰まる。
 慈しむような瞳なのに、私を真っ直ぐに突き刺してくる。


 私の頬へ伸ばされる手が怖くて、動けない。

「ああ、怯えながら泣くシェルフエールも愛らしく可愛らしい…」

 私は、いつの間に涙を流していたの?
 それを拭う硬い親指から流れ込む魔力に、くらりと眩暈がした。

 濃くて、どろどろに甘いような…。

「時がくれば、君は私のものだ」

 口端にキスをされ、耳に響く重低音。
 纏わりつく魔力に、ふつりと意識が途切れた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

憐れな妻は龍の夫から逃れられない

向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

処理中です...