夢魔アイドルの歪んだ恋愛事情

こむらともあさ

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13.夢魔アイドルは甘えたい③

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「零くん、夢魔の力使ったでしょ」

 眉間に皺を寄せる遥希の睨みに、零斗はシュルシュルと小さくなる。

 只今、都外のコンサート会場でリハーサル中である。


 正座をしている零斗に、透矢が寄りかかるように座る。

「それで今日、動き悪いし顔色悪いんだ」

 ぐりぐりと首の横を透矢の後頭部が刺さって痛い。
 
 すみませんと言うほかない。

 遥希の大きなため息に、零斗はびくりと身体を震わせる。

「誰にどう使ったのか知らないけど、活動に支障が出るのは許さないって、いつも言ってるよね」

「はい...ほんとにごめんなさい」

「ご飯は?」

「満月ちゃんの夢を食べてきました」

「1人に固執するから、回復が遅いんでしょ。...誰か人間の女の子スタッフ、何人か呼んで来て」

 遥希の指示に、巳也が探しに行く。

 零斗は慌てて立ち上がり、よろめいた。透矢が腕を掴んで転ぶことは回避させる。

「不味いのは食べない方がマシです」

 そう訴えるが、遥希から激痛デコピンをくらった。

「いいから、精気だけでも食べろ」


 デコピンの勢いで大の字に転がった零斗の周りには介抱と称して、ハーレムが出来上がった。

 様々な好みでない味に、零斗は現実逃避を始め、気絶するように眠った。



 すっきりしない心は置いておいて、多めの精気摂取のおかげで頭はクリアになり、リハと演出決めは無事終わった。

 今すぐにでも帰って満月を直接味わいたいのを我慢して、数日ホテル暮らしだ。

 せめて夢だけでもと満月の夢を食べて過ごしたが、あのセクハラ男はあまり出てこなかったので、懲りたのだろうと安心していた。






 たまに帰っては家事をこなすツアーの日々が終わり、最終日のコンサート会場近くで打ち上げが行われていた。

 零斗は早く帰りたい一心だったのだが、前回も捕まった女のお偉いさんに、絶え間なく飲まされている。

(すでに吐きそう)

 顔を引き攣らせながらも、粗相をしないよう努めて、笑顔をキープする。


「私が介抱してあげるから、好きなだけ飲んでいいのよ」

 零斗は押しつけられる胸の感触と、独特な女性用香水の匂いの気持ち悪さに、意識を手放しかけた。

 もう限界だと、にっこりと彼女に笑いかけ、見惚れさせている隙をついて立ち上がる。

「明日も仕事があるので帰りますね」

 女に背を向けようとしたが、手首を掴まれた。

「明日がお休みなことは知っているわ。帰るなら、あなたの家で飲みましょう?じゃないと、これからのアイドル活動...どうなっちゃうかしら」

 零斗は青筋の立つこめかみを落ち着かせ、ゆっくりと座り直す。

「あら、お家に連れていってくれないの?」

「スキャンダルは御法度なので」

「残念」

 唇を突き出し肩を落とす艶美な女は、こうして気に入った若手に手を出しているのかと、嫌悪する。


 その後もグラスが空になるたびに酒が注がれ、朝日によってうすら明るくなる頃にようやっと解放された。

 満月からの帰ったというメッセージは4時間も前に届いていた。



 零斗は自宅トイレに座り込む。

(...気持ち悪い)

 便器に頭を突っ込もうとすると、スマホが鳴った。満月から今日は休みですと、メッセージだった。

 了解の返事をして、気合いだけでシャワーを浴びる。

 ベッドへ身体を放ると、数時間気を失っていた。


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