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7.夢魔アイドルは堕落させたい②
しおりを挟む表沙汰になる不祥事は絶対に避けるようにと念を押され、自宅マンションで満月の帰りを待つ。
すでに深夜なことを確認すると、ちょうどインターホンが鳴った。
急いで出ると、満月がもじもじしていた。
「こんな時間にごめんなさいっ。でも、約束しちゃったし、断ろうにも連絡先がわからなくて」
零斗は、今すぐにでも抱きつきたい衝動を抑え、笑いかける。
「俺の方こそ、無理に約束こじつけちゃったから...迷惑だったかな」
憂を帯びた表情に、満月はあわあわと手を振った。
「迷惑だなんて、そんなっ、思ってないです」
良かったと囁いて、中へ誘う。
連絡先も自然に手に入れることができて、零斗は脳内で飛び跳ねていた。
今日の彼女への夕飯は、太らせるには肉という安直な考えから、ハンバーグだ。
もぐもぐと頬を膨らませる姿は、ハムスターみたいで可愛らしい。
ばっちりと目が合ったので、零斗が思わず破顔すると、満月はボンっと赤くなり、俯いてしまった。
(やば、顔、緩めすぎた)
だらしなかったかもと、誤魔化すように麦茶をコップへ注ぐ。満月は礼を言いながらそれを受け取ってくれた。
零斗は彼女の目元の隈に目が行く。
「仕事、大変そうだね」
無意識に、本当に無意識に、満月の頬を撫でてしまった。
驚いてポカンとしている彼女を間近に、我に返る。
(手順!すっ飛ばした!!馬鹿か俺はっ)
バッと両手を上げて、情けなくバンザイの状態になった。どうしたらいいのかと、頭をフル回転させる。
「ごめん!いきなり、触ったりして」
兎にも角にも謝罪だと思い、半ば叫ぶように謝ると、満月は土下座のように身体を丸めていた。
何やらブツブツと呟いている。
「零斗くんに心配された挙句、また物理的に接触してしまった。しかも手料理美味しすぎる。これは夢か幻覚か。仕事がブラックすぎてとうとう私は頭がおかしくなってしまったのか」
早口で小さい声は零斗には聞こえず、ダラダラと冷や汗をかいていた。
ガバリと、満月が起き上がる。
「メンタルクリニックに行きます。あ、でも有休取れない。どうしよう」
満月の意思を固めた瞳は、一瞬で絶望に変わった。
「何がどうしてそうなったのかわかんないけど、そんなに休みないの?」
再び丸まってしまった背に、零斗はそっと手を乗せる。浮き出る背骨を感じて、眉根を寄せた。
「えっと、前の休みが......」
満月が壁にかけられたカレンダーを見る。
「35連勤中ですね」
(マジで仕事辞めさせよう)
そう決意する零斗の瞳は、闇をたたえていた。
満月が帰って1時間ほど経った後、夢の中で彼女を探す。
上司であろうハゲたおじさんに怒鳴られている満月を見つけた。
おじさんを蹴り飛ばしてから、その悪夢を美味しくいただいた。
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