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4.夢魔アイドルは餌付けしたい④

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 零斗はスタジオの隅で、初めて握った時よりも細くなっていた満月の手の感触を思い出していた。

(やっぱ痩せてたよな...顔色も酷かったし。近況知るためにも、夢食べといた方がよかったかも)


 ひとり唸っていると、透矢が呼びにきた。

「次、零斗と俺、撮るって」

 顎で場所を指す彼に促され、重たい腰を上げた。


 他のメンバーたちが写真チェックしているのを横目に、2人の撮影が始まる。



「弱ってる子って、何食べさせたらいいと思う?」

 前振りもなく聞かれた透矢は、全く興味がないのか、表情を一切変えない。
 元々、常にポーカーフェイスなのだが、ファンにとってはそこがいいらしい。


「...おかゆ、とか?」

 透矢は、ドラマなどで体調不良の場面でよく出てくる料理を思い浮かべた。

「おかゆじゃ太らないだろ」

「太らせたいの?」

「というより、元気になってほしい」

 そう零斗が答えると、透矢は照明を見上げながら少し考える。


「元気になったら、監禁しにくくなっちゃうじゃん」

 突拍子のない返しに、流石の零斗も固まってしまった。

「えっ、と...なんの話?」

「零斗のお気に入りの子の話でしょ?ご馳走なら、さっさと自分のモノにした方が楽じゃん。弱ってるなら、チャンスでしょ」

 自分のモノという甘美な響きに、唾を飲む。しかし、人間のペースで手順を踏まないと嫌われるというのを思い出し、首を振る。

「そんなことしたら、嫌われるだろ」

 そう言う零斗に、透矢はジトっとした視線を送る。

「ただのご飯に気を遣う意味がわからない」


「零くんにとって、ただのご飯じゃないってことだよ」

 遥希が混ざり、スタッフから全員の絵が撮りたいと指示が出て、6人が集まる。
 いつきはものすごく嫌そうな顔をしていた。

「また綾瀬満月の話?僕には2度と相談とかしないでよね」

「そう言ってやるなよ、いつき。初恋は誰だってどうしていいかわからねぇもんなんだからよ」

 泉が嗜めるが、いつきは舌打ちするだけだった。

 しかし、6人ともカメラへのキメ顔だけは常に完璧である。おかげで巻きで終わり、帽子を深く被った遥希と巳也、そして零斗はカフェで相談会を始めた。

 巳也はコーヒーを飲みながら、零斗を見ないようにしている。我関せずを貫こうとしているようだ。

(3人は逃げるように帰ったのに。この人、なんで来たんだ)



「その子、お休みなさそうだね。人間にとって、睡眠と食事はかなり大事なものだから...。零くんが、それを助けてあげられるといいんだけど」

 真剣に考えてくれる遥希に後光が見える。

「人間の女のことなんて気にする必要ねぇだろ」

 巳也は零斗を睨みつける。少々突き刺さるが、いつものことだ。

「零くんが何かしでかしたら、活動に支障が出るでしょ」

 遥希の言葉が引っかかるが、彼の最優先事項は円滑なDr.BACの活動だ。そう思われても致し方ないと、零斗は本題へ進めることにした。

「かなり痩せてたので、ご飯の差し入れしたいんです。何がいいですかね」

「カレーとかなら簡単だし、多く作りすぎたとか理由つけられて良いんじゃないかな」

 それだ!と、2人に深く頭を下げながら、ダッシュでその場を後にする。
 遥希はニコニコと手を振ってくれたが、巳也はあしらうように振っていた。



 途中でスーパーに寄り、スマホでカレーの作り方を検索しながら材料を厳選していく。
 そもそも調理器具も無いことを思い出し、ホームセンターにも足を運んだ。

 どれがいいのかわからなかったので、店員にすすめられるままに購入した。
 ファンだというその人に、サインを書いて、ツーショットも撮ってあげた。


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