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蠢く闇
別れの日
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「海陽君!退院おめでとう!」
扉を開けるとそこにはいつものスウェット姿ではなくTシャツにパーカーを羽織り、ジーンズ姿のなんとも年相応の格好の海陽が荷物をまとめていた。
彼がこの病室に来て数年。
雪成の初めての担当の患者だった為、最早雪成としては巣立つ弟を見送るような気分だ。
「雪成先生!」
いきなり入ってくれば驚いたような顔をした後、荷物を整理する手を止め雪成の元へ近づく。
「雪成先生。あの、聞いて欲しい事があるんだけど……」
「ん?何?」
いつにもまして真剣な海陽にまだ何か不安な事があるのでは無いか、と少し不安になる。
「前にさ、好きな人と一緒に暮らしたいって言ったでしょ……?
その……好きな人っていうの、雪成先生、なんだ……」
海陽は顔を真っ赤にして、カタカタと緊張から身体を震わせながらそう言った。
初めは別に好きな人がいたのだが、何年も一緒に過ごし、少しづつ雪成に心を惹かれていったのだ。
雪成が秋良といい中であるということは森末などの仲の良い医者にしかバレていない。
当人たちは隠しているつもりらしいが、前よりも喧嘩も減り、話しをする二人の表情を見ればわかる事だった。
「ごめんね……僕、その気持ちには答えられない……」
「あ、良いんだ。伝えたかっただけっていうか……もう退院したら先生にあんま会えないじゃん?だから退院する時に言おうと思ってたんだ」
海陽の耳にも院内の雪成の噂は届いている。
もしも恋人同士になることが出来たなら、無理にでも雪成を病院から遠ざけ、一緒に暮らすつもりだったのだ。
とはいえ海陽もまだこれからの事は何も決まっていない。
その時点でさすがに現実的ではないと思っていた。
しかしそんな話しに行き着くまでもなく雪成に断られてしまい、思わず涙が込上げる。
「泣かないで……?せっかく退院出来るおめでたい日なんだから」
ふんわりと優しく抱き締めれば右手で頭を撫で、左手で背中を子供をあやす様に叩く。
「……先生……先生……好き……」
もう叶うことの無い恋心に子供のように泣きじゃくる。
ギュッ、と抱きしめる腕はやはり震えて雪成をガラス細工のように優しく触れていた。
「うん……ありがとう……」
海陽に好きと告白されてから、雪成の頭に思い浮かんだのは秋良の姿だった。
まだ己の秋良に対する恋心に気付いていない雪成はなんで今秋良先生の事なんて、と純粋に海陽の好意を感じようと優しく抱きしめたのだ。
どれくらい抱き合っていただろうか。
いつの間にか泣き止んだ海陽が少し離れると自然の流れで二人の腕は緩み、離れた。
「ありがとう。これで街でも頑張ろって思えるよ。けど、まだ先生の事諦めないからね!」
「ハイハイ。元気だね!海陽君がいつか僕を落とせるのを楽しみにしてるよ」
初めて彼と会った時はまさかこんな関係になれるなんて思っていなかった。
これは彼にとって一つの節目であり、成長の証。
思い返すのは二人で過ごした日々。
楽しい事も悲しい事も二人で乗り越え、まるで親友のような時を過ごした。
あの日々は雪成にとって初めて出来た楽しい友人との思い出だ。
その日の夕方、海陽の母親がタクシーで迎えに来て、何度も雪成に頭を下げた。
本当に、本当にありがとうございました。
その言葉に思わず涙が込上げる。
しかしここで泣いてしまっては海陽が行きずらくなってしまうだろうとグッと堪え、お疲れ様でした。といつでも海陽の事を心配していた母親に労いの言葉をかけた。
こうして、立花海陽は退院して行った。
扉を開けるとそこにはいつものスウェット姿ではなくTシャツにパーカーを羽織り、ジーンズ姿のなんとも年相応の格好の海陽が荷物をまとめていた。
彼がこの病室に来て数年。
雪成の初めての担当の患者だった為、最早雪成としては巣立つ弟を見送るような気分だ。
「雪成先生!」
いきなり入ってくれば驚いたような顔をした後、荷物を整理する手を止め雪成の元へ近づく。
「雪成先生。あの、聞いて欲しい事があるんだけど……」
「ん?何?」
いつにもまして真剣な海陽にまだ何か不安な事があるのでは無いか、と少し不安になる。
「前にさ、好きな人と一緒に暮らしたいって言ったでしょ……?
その……好きな人っていうの、雪成先生、なんだ……」
海陽は顔を真っ赤にして、カタカタと緊張から身体を震わせながらそう言った。
初めは別に好きな人がいたのだが、何年も一緒に過ごし、少しづつ雪成に心を惹かれていったのだ。
雪成が秋良といい中であるということは森末などの仲の良い医者にしかバレていない。
当人たちは隠しているつもりらしいが、前よりも喧嘩も減り、話しをする二人の表情を見ればわかる事だった。
「ごめんね……僕、その気持ちには答えられない……」
「あ、良いんだ。伝えたかっただけっていうか……もう退院したら先生にあんま会えないじゃん?だから退院する時に言おうと思ってたんだ」
海陽の耳にも院内の雪成の噂は届いている。
もしも恋人同士になることが出来たなら、無理にでも雪成を病院から遠ざけ、一緒に暮らすつもりだったのだ。
とはいえ海陽もまだこれからの事は何も決まっていない。
その時点でさすがに現実的ではないと思っていた。
しかしそんな話しに行き着くまでもなく雪成に断られてしまい、思わず涙が込上げる。
「泣かないで……?せっかく退院出来るおめでたい日なんだから」
ふんわりと優しく抱き締めれば右手で頭を撫で、左手で背中を子供をあやす様に叩く。
「……先生……先生……好き……」
もう叶うことの無い恋心に子供のように泣きじゃくる。
ギュッ、と抱きしめる腕はやはり震えて雪成をガラス細工のように優しく触れていた。
「うん……ありがとう……」
海陽に好きと告白されてから、雪成の頭に思い浮かんだのは秋良の姿だった。
まだ己の秋良に対する恋心に気付いていない雪成はなんで今秋良先生の事なんて、と純粋に海陽の好意を感じようと優しく抱きしめたのだ。
どれくらい抱き合っていただろうか。
いつの間にか泣き止んだ海陽が少し離れると自然の流れで二人の腕は緩み、離れた。
「ありがとう。これで街でも頑張ろって思えるよ。けど、まだ先生の事諦めないからね!」
「ハイハイ。元気だね!海陽君がいつか僕を落とせるのを楽しみにしてるよ」
初めて彼と会った時はまさかこんな関係になれるなんて思っていなかった。
これは彼にとって一つの節目であり、成長の証。
思い返すのは二人で過ごした日々。
楽しい事も悲しい事も二人で乗り越え、まるで親友のような時を過ごした。
あの日々は雪成にとって初めて出来た楽しい友人との思い出だ。
その日の夕方、海陽の母親がタクシーで迎えに来て、何度も雪成に頭を下げた。
本当に、本当にありがとうございました。
その言葉に思わず涙が込上げる。
しかしここで泣いてしまっては海陽が行きずらくなってしまうだろうとグッと堪え、お疲れ様でした。といつでも海陽の事を心配していた母親に労いの言葉をかけた。
こうして、立花海陽は退院して行った。
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