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蠢く闇
黒い蝶は空を舞う―Ⅱ―
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(全く……秋良先生は僕のなんだからでしゃばんなよな)
恋歌は秋良の居なくなった居酒屋に用はないといわんばかりに、すぐに店を出た。
家まではここから少し歩くが、自転車や車に乗ることはしない。
歩いて出勤をする事により、途中から秋良と一緒に出勤することができるからだ。
さすがにこの街灯の少ない道を一人で歩くのは寂しいが、それよりも愛が勝るのが人間というものだ。
もう少しで家が見えてくる。
そんな距離まで歩いた時だ。
後ろから声をかけられた。
「すみません。あの、お伺いしたいことがあるのですがお時間よろしいでしょうか?」
恋歌に声をかけたのは黒地のシャツ、ズボンに白いネクタイを身につけた髪のやや長い青年だった。
「はい。いいですよ。」
いつもならばこのような事取り合わないのだが、何せ相手が悪かった。
白く透き通った肌に二重の大きな眼、整った鼻にほんのりと桃色に染まった唇。
恋歌にとって話を聞かないという選択肢は持ち合わせていなかった。
「あの、少し行ったところに病院があったと思うんですが……精神科専門の。」
「え、はい。知ってますよ。僕、そこの医者ですが……」
患者さんだろうか、などと考えながら話を聞いている。
するとその男は不敵な笑みを浮かべながら尋ねた。
「そこに、桃江雪成という先生がいると聞いたのだが……」
「はい。居ますけど……」
どいつもこいつも雪成雪成って……ほんと邪魔だな彼奴……。
恋歌も笑顔でそれがどうかしましたか?と尋ねる。
「……君、怪我をしているようだね?
大丈夫かい?」
「はい。昨日まで入院していたのですがすっかり……。……これ、雪成先生に屋上から突き落とされたからなんです。」
このまま雪成の悪評を広めていけば、きっと雪成は自分や秋良の前から消えてくれるに違い。
そう思ったのか、見知らぬ男に事のあらましを話した。
男は黙って聞いていたが話が終わると”可哀想に……”と呟いた。
「もう本当にあの日以来僕、雪成先生が怖くて……」
「あぁ。失礼。別に可哀想っていうのは君の事じゃないんだ。」
気が付けばずっと貼り付けたような笑みだったのが、何の色も映さぬような無表情へと変わっていた。
その冷たい雰囲気にさすがの恋歌も危機感を感じ、すみませんもう行きますね、とその男に背を向けて歩き始める。
しかし、男はそれを許さなかった。
ずっとポケットに入れていた手を出して、握られているのは果物ナイフ。
背を向けた恋歌の脇腹に差し込むと、呻き声を上げぬようにナイフを手放し、睡眠薬を染み込ませたハンカチで口元を塞いだ。
初めこそ抵抗していたものの、即効性の薬に抗うことも出来ず、力無く恋歌の意識は深淵へと落ちていった。
「俺の天使がそんなことするはずがないだろう?」
男のその言葉を聞いていたのは空に浮かぶ月か、はたまた地に咲く花か。
恋歌は秋良の居なくなった居酒屋に用はないといわんばかりに、すぐに店を出た。
家まではここから少し歩くが、自転車や車に乗ることはしない。
歩いて出勤をする事により、途中から秋良と一緒に出勤することができるからだ。
さすがにこの街灯の少ない道を一人で歩くのは寂しいが、それよりも愛が勝るのが人間というものだ。
もう少しで家が見えてくる。
そんな距離まで歩いた時だ。
後ろから声をかけられた。
「すみません。あの、お伺いしたいことがあるのですがお時間よろしいでしょうか?」
恋歌に声をかけたのは黒地のシャツ、ズボンに白いネクタイを身につけた髪のやや長い青年だった。
「はい。いいですよ。」
いつもならばこのような事取り合わないのだが、何せ相手が悪かった。
白く透き通った肌に二重の大きな眼、整った鼻にほんのりと桃色に染まった唇。
恋歌にとって話を聞かないという選択肢は持ち合わせていなかった。
「あの、少し行ったところに病院があったと思うんですが……精神科専門の。」
「え、はい。知ってますよ。僕、そこの医者ですが……」
患者さんだろうか、などと考えながら話を聞いている。
するとその男は不敵な笑みを浮かべながら尋ねた。
「そこに、桃江雪成という先生がいると聞いたのだが……」
「はい。居ますけど……」
どいつもこいつも雪成雪成って……ほんと邪魔だな彼奴……。
恋歌も笑顔でそれがどうかしましたか?と尋ねる。
「……君、怪我をしているようだね?
大丈夫かい?」
「はい。昨日まで入院していたのですがすっかり……。……これ、雪成先生に屋上から突き落とされたからなんです。」
このまま雪成の悪評を広めていけば、きっと雪成は自分や秋良の前から消えてくれるに違い。
そう思ったのか、見知らぬ男に事のあらましを話した。
男は黙って聞いていたが話が終わると”可哀想に……”と呟いた。
「もう本当にあの日以来僕、雪成先生が怖くて……」
「あぁ。失礼。別に可哀想っていうのは君の事じゃないんだ。」
気が付けばずっと貼り付けたような笑みだったのが、何の色も映さぬような無表情へと変わっていた。
その冷たい雰囲気にさすがの恋歌も危機感を感じ、すみませんもう行きますね、とその男に背を向けて歩き始める。
しかし、男はそれを許さなかった。
ずっとポケットに入れていた手を出して、握られているのは果物ナイフ。
背を向けた恋歌の脇腹に差し込むと、呻き声を上げぬようにナイフを手放し、睡眠薬を染み込ませたハンカチで口元を塞いだ。
初めこそ抵抗していたものの、即効性の薬に抗うことも出来ず、力無く恋歌の意識は深淵へと落ちていった。
「俺の天使がそんなことするはずがないだろう?」
男のその言葉を聞いていたのは空に浮かぶ月か、はたまた地に咲く花か。
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