七虹精神隔離病院~闇は誰もが持っている!!~

白雪 鈴音

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穏やか(?)な日常

食後の仕事は大変である

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 「あぁ。鈴良君?」

影森鈴良は今朝早くに救急で運ばれた精神病患者だ。
その彼が朝早くから医者数人を巻き込んでちょっとしたハプニングを起こしたものだから、院内はその話題で持ち切りだ。

「結局あの後どうなったんだ?お前が任せろとかいうから任せたが……」

眉間にシワを寄せたままたずねる東雲に反対に眉尻を下げつつ微笑んで答える。

「あの後はね……」


数時間前に遡る。

雪成は、基本的に患者と食事をとることにしている。
患者との円滑なコミュニケーションを図るためだ。
その為、朝八時には、いつも通り今日の相手である季瀬兄弟のもとへ向かった。

季瀬兄弟は双子の兄弟で、お互いの行き過ぎた共依存を気持ち悪がられ、三年前に母親に連れてこられた。

病室につき、ノックをした後、季瀬兄弟の病室の扉を開けると……。

「ちょっ?!君たち朝から何をしてるの?!」

白い服を着た黒明が黒い服を着た白暗を押し倒している光景に、思わず驚きの声を上げてしまった。

「あ……」

二人してこちらを見て固まる。
そんな二人と目が合い、声を掛けたはいいが気まずくなったためすぐに扉を閉めた。

「待って待って!!」

黒明は慌ててベッドからかけ下りると雪成によって閉められた扉を開けた。
白暗は机を出し、いつでも朝食を食べれるように用意をしている。

「いや、あはは……。お取り込み中だったね。ごめん……」

しゅんと詫びれば二人して「いいよ!気にしないで!」と優しく声を揃えて言った。

「そう?ならいいけど……」

そう優しく二人に迎えられ、三人分の朝食を持って病室に入った。


「やったぁ!今日の朝ご飯はホットケーキだぁ!!」

白暗は甘いものが好きなのか嬉しそうな声を上げる。しかし黒明は甘いものが苦手なのか顔を顰め文句を零した。

「……ホットケーキ……」

対照的な二人だが、お互いにお互いを理解しあい、お互いが居なければ生きて行けないと錯覚を起こしてしまいここにいる。

「ねぇねぇ。二人ともさ、そろそろ少しステップをあげてみない?」

二人には退院するためのカリキュラムを組んである。
それはステップをあげていくごとに白暗と黒明の一緒にいられる時間が少なくなるというもの。 
つまり、兄弟離れのお手伝いだ。

「え……いや、まだ一緒にいたい……」
悲しそうに言う白暗に対して
「まだ無理!!絶対に嫌だからね!」
はっきりと言いきった黒明。

「あぁ、いいよいいよ。別に二人の意見を尊重したいから聞いたんだ」

二人を宥めようと優しく言う。
それに安心したのか二人はまた柔らかい雰囲気に戻る。
パンケーキを半分楽しくお喋りしながら食べ終わった時、雪成の仕事用スマホに着信があった。

「ごめん、ちょっと……」

そういって部屋の隅に行き電話に出た。

「もっしもーし!どうかしまし……」

電話からは僕の言葉を遮るように声の主、東雲の声が部屋中に響いた。

「おい!今どこにいる!!至急205号室にこい!!」

どうやらスピーカー設定になっていたようで鼓膜がキンと振動した。
聞こえたのかホットケーキを食べてた白暗と黒明が心配そうにこちらを見てる。

「あ、ごめんねぇ。今のでわかったとは思うけど急患なんだって!!」

「いいよ!行ってきて!!」

もう少し一緒にいたかったな、と少しすねたように黒明が答えた。

「耳、大丈夫?結構音大きかったよね?」

白暗は心配してくれていたようだ。傍に来て耳を撫でてくれた。

「大丈夫!ありがと、じゃあ行って来まぁす!パンケーキ食べていいから!!」

そう言いながら僕は病室を飛び出した。
後ろで頑張ってと聞こえたのに少し心が温かくなった。

向かっている途中で考えていた。

『どうして僕なのだろう。急患なら僕より年数をしている森末さんや暁さんのほうが……』と。

そうして今日が四月はじめの土曜日である事を思い出した。
こんな日に森末は病院にいるはずがない。
春はじめの土曜日、それは新作スウィーツが発売される日なのだ。
超甘党の森末は毎日いっているはず……。

『じゃあ、暁さんは?』

その答えは出ないまま205号室の近くまで来ていた。
205号室前に近付くと暴れて物が壊れているような物音と東雲の怒鳴り声、少年、影森の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
扉付近で院長の幼馴染みで副院長の栗原町が心配そうに205号室を覗いていた。

そんな栗原に近づき……。

「どうしたんですかぁ?急患って聞いたんですけど」

栗原はこちらに気づき『あぁ。ついに来てしまった。』というような顔をして話始めた。

「実はね、影森君が目を覚まして暴れ始めちゃって……ご主人様はどこだって……」

ご主人様。
その単語に眉がぴくっと動いた。

「なるほど……わかった。行ってくる」

その面持ちは普段のふざけているものではなく真剣そのものだった。
病室に入ると東雲がナイフを持っている影森に斬られそうになっていた。
それを見て雪成は急いでナイフの前へ飛び出した。

脇腹に激痛が走り、刺されたことに気づいた。

「っ!」

「!おい、なにしてんだよ!!」

焦った東雲の声が後ろから聞こえる。

だが、今はそれどころではない。
影森が息を呑むのが分かった。
雪成を刺してしまった事で仕返しで傷つけられるのではないかと踞り怯える影森。
雪成はそんな影森を懐かしい痛みを感じながら見下ろしていた。

「!いけないわ!しののん!ユキりんを止めて!!」

しののんとは東雲秋良のニックネームで、ユキりんは桃江雪成のニックネームだ。
だが使う人はこの人だけである。
そんな奇妙なあだ名で呼ばれた東雲は不機嫌に『なにをいってるんだ?』と思いながら僕の肩に手をおいた。

「どぉしたの?」

いつも通りの返事で自分を偽る。

「いや、栗原さんがお前をこいつの近くにやるなっていってんだよ。」

「ユキりん!貴方が今その子の近くにいたら!またっ」

雪成は栗原の言葉を遮っていった。

「僕は彼の担当医です。二人っきりにしてもらえませんか?」

何の恐怖や怒り、狂気を含ませないいつも通りのふわふわとした口調に栗原は余計に心配になったが、二人とも院内アナウンスで呼び出しがあったため渋々病室を出て行った。

さて、ようやく二人きりになったのだけれど。

「ねぇ、影森鈴良君!僕、君の担当医にった桃江雪成って言います!君の嫌がることをするつもりはないから安心してね!!」

影森の目にはおかしなものでも写っているのだろうか。
こちらを少し警戒するような表情で見ている。

『僕、なんか変かな?あ、あれか、怪我してるのになんで笑ってんだって感じかな?』
実際そうだった。

影森は今とても困惑している。
薬を飲めと言ったが素直には飲んでくれない。

「はぁ……仕方ない!ごめんね!」

僕は錠剤一つ口に入れ口移しで睡眠薬を飲ませる。
影森は驚き逃げようとしたものの、飲み込んでしまえば即効性の薬だったため、すぐに眠ってしまった。
影森をベッドに寝かせて精神安定剤を打ち屋上へ向かう。
屋上で自分にも精神安定剤を打ち、刺された肩を治療する。

そしていつのまにか寝てしまっていた。




「んとねぇ、睡眠薬のませて精神安定剤を打っただけだよ!何々?もしかして僕の心配をしてくれた?」

にこにこしながら言ったら真顔で
「お前じゃなくて影森の心配だ」
といわれ僕は少しショックを受けた。
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