43 / 47
3章
決意
しおりを挟む千本院帝との交渉が失敗に終わった日の夜、俺と宇佐美は私室で今後のことについて、作戦会議を開いていた。
千本院帝との交渉が失敗に終わった以上、勝つ為には何か別の策を考える必要がある。ただ、その策というのがまったく思い付かないのが問題なのだが。
「うーむ。……どうしようか……」
「どうしようねー」
作戦会議といって集まってみたは良いものの、結局、有効な策はまだ一つも出ていなかった。このままでは宇佐美が望まない結婚を強いられる事になる。
それだけは阻止してあげたい……がしかし、現状の俺のスペックでは、千本院帝に太刀打ち出来そうにない事は、机に広げられた千本院帝の資料を見ても一目瞭然だった。
もう一度、千本院帝の資料に目を通していく。
『千本院帝。
千本院家の次期当主として英才教育を受け、あっという間にその才能を開花させる。弱冠7歳で千本院家の子会社の社長に就任。その才覚を遺憾無く発揮し、わずか3年で年商100億の会社まで急成長させる。
12歳の時には、発表した論文が【American economic journal】に取り上げられ、世界的に注目を浴びる。その後も信じられない若さで偉業を成し遂げ、経済界では【200年に一人の天才】と呼称される』
改めて見ても信じられない経歴だ。これが俺と同じ高校2年生の経歴だというのだから、世界とは何て広いのだろう。いや、千本院帝は日本人だから結構近いのだが……。
「そして、更に言えば高校模試は常に上位、5位以下には一度も落ちた事がない。運動も現在、高校生の体力テストの日本記録を合計2つ所持」
資料に付け足すように、宇佐美が千本院帝のプロフィールを補足する。
「ついでに、司法試験にも去年合格して最年少記録を叩き出したっと……」
「…………」
千本院帝のプロフィールに俺は言葉を失くす。こんな相手にどうやって勝てばいいんだ……? 俺でなくてもこんな天才の中の天才に勝てる高校生なんて日本に存在するのだろうか? 返す返すも交渉が失敗に終わったのが悔やまれる。
「ハル君には悪いけど……勉強と運動は正直、千本院帝に軍配が上がると思う」
宇佐美が言い辛そうに俺が千本院帝に劣るという事実を告げる。
「そんな言い辛そうにしなくてもいいよ、宇佐美。俺が千本院帝に圧倒的に劣っているのは変えられない事実だ。こんな俺が仮とはいえ、宇佐美の婚約者って事になってるんだからホント笑えるよ……」
「ハル君……」
劣等感に苛まれた俺の口からは、次々と言葉がとめどなく溢れてくる。
「最初から、勝ち目なんてなかったんだよ……。そうだ。今から俺以外の婚約者を立てるなんてどうだ?」
「えっ……」
「もっと優秀な人を連れてきてさ! そうすれば、俺なんかが勝負するより、よっぽど勝算があるだろ?」
「…………」
ダメだ。止めなくちゃいけないって分かってるのに……。
「こんな何も持ってない凡人の俺は切り捨ててさ。宇佐美は別の人をーー」
「そんな事ないよ!」
目の前の暗い現実に落ち込んでいる俺の言葉を、宇佐美は大きな声で否定する。
「確かに、千本院帝は凄い人だよ。誰が見たって凄い凄いって褒めるに決まってる」
……そうだ。俺なんかとは比較にならない生まれながらの天才。
それが千本院帝だ。
「でも、ハル君は千本院帝にも劣らない、千本院帝でも持ってない大事なモノを持ってるよ」
「……大事なモノ?」
……俺にそんなモノが本当にあるのだろうか?
「それは……勇気だよ」
「……勇気」
「……大事な人の為なら、命すらも投げ捨てる勇気。困っている人がいたら、思わず手を差し出さずにはいられない。……とっても優しい勇気」
宇佐美が俺を励ましてくれている事が分かる。しかし、俺の劣等感が意思と反して宇佐美に言葉を浴びせる。
「……そんな事ない。俺が命を賭けて誰かを救う? 俺はそんな高尚な人間じゃない! いいか、宇佐美の言う勇気なんか俺にはーー」
「あるよ!!!」
体を突き刺す宇佐美の叫声。宇佐美がこんなに感情的になった所は一度も見たことがない。
「……私は知ってるよ。ハル君は泣いている子がいたら、手を差し伸べてくれるって……」
「…………」
「怪我をした子がいたら、相手のことを本気で心配して手当てしてくれるって……」
「…………」
「震えてる子がいたら、肩を寄せ合って自分が寒い事なんかお構いなしに一生懸命温めてくれるって……」
「…………」
「だから……俺なんかがなんて言わないで! 私の好きな……」
「……!」
「周王春樹って男の子を……否定しないで……!」
宇佐美の瞳から一筋の涙が流れる。
宇佐美が泣いている……。その事実が、今日一番俺の心を強く揺さぶる。ずっと笑顔でいて欲しいと願った少女の笑顔を俺が奪ってしまった。
急激な早さで、頭に火がつく。自分への怒りでどうにかなりそうだ。俺が守りたいと思ったものを自分で壊してしまった……!
ダメだ! それだけは断じてダメだ! 宇佐美杏の笑顔は絶対に守らなければいけない!!!
想像上の千本院帝という人物の幻影に消えかけていた決意に、再び火が灯る。
勝負する前から諦めてどうする!
宇佐美杏の隣に相応しい男になるって決めただろ、周王春樹!
「すまない、宇佐美……。俺が間違っていたよ」
「……ハル君!」
「他の誰でもない……俺が宇佐美を助ける。宇佐美の願いを全力で叶える!」
「……!」
もう、絶対に折れたりなんかしない。宇佐美の隣に立とうって人間がこの程度で挫けてどうする。強く……強く心に誓おう。
「俺は……絶対に千本院帝に勝つ!」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
女川君は女性運が悪い〜俺は普通の高校生なのにいつも女性に絡まれている。もう放っといてくれないかな〜
片野丙郎
恋愛
俺、女川透はもはや異常といえるほどに女運が悪かった。はじめて告白された女子は実は嘘告だったり、付き合っていると思っていた女子は実は俺を騙すためだけにお金で雇われていたり、とにかく俺が関わる女という女が俺を騙し続けた。さんざん、騙し続けたられた俺は、すっかり恋愛感情というものが分からなくなっていた。今日もまた、俺を騙そうと女が近づいてくる。
これは女性に裏切られ続け、すっかり壊れてしまった少年と少年に助けられた少女が少年の心を徐々に取り戻す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる