27 / 38
3章
プロローグ
しおりを挟む王島英梨香による誘拐事件から数日後、俺は未だに自室での怪我の療養に努めていた。誘拐事件の翌日、医者が俺の部屋に現れ、1週間~10日間の安静を告げたのだ。
医者を直接家に呼ぶとかさすが宇佐美だなぁ。ていうか、あの医者はどうやら宇佐美家の専属の医者であるらしく、普段から宇佐美家の関係者以外では一切診てもらえないという医者らしい。
まぁ、あの事件以来、俺は体のあちこちが痛かったので、医者の診断自体には文句はない。無いのだが……
「はい、あ~んですよ」
「うっ、宇佐美! 自分で食べられるから!」
ここ最近は自室で療養中の俺に宇佐美が突撃してくるのだ。別に治療の邪魔をしている訳ではなく、むしろ甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれるのだが、やられる俺としては溜まったものじゃない。
宇佐美のお世話に俺は毎度、タジタジになっていた。毎日のようにそれはそれは甲斐甲斐しく世話をしてくれるのだ。確かに、男冥利に尽きると言えるかもしれないが、なんと宇佐美は1度だけだが、俺の入浴までお世話をしようと突撃してきた事があったのだ。
幸い、後から来た二条さんが暴走する宇佐美に『お嬢様、さすがにそれはアウトです』と言い、回収してくれたので、実際に入浴をお世話されることは無かったが、あの時は胸のドキドキでどうにかなりそうだった。
元々、宇佐美は積極的だったが、あの事件以来、さらに積極的になった気がする。そして今も、二条さんが持ってきてくれた昼食を俺に食べさせようと俺の部屋に突撃していた。
いつもは止めてくれる二条さんも『まぁ、これはセーフでしょう』とか言って、そそくさと部屋から出ていってしまった。宇佐美にストップをかける者がいなくなり、俺は恥ずかしさを堪えながら、宇佐美のあ~んを大人しく受け入れるしかなかった。
「はい、あ~ん」
「あ、あーん」
その後、食事が終わるまで宇佐美のあ~んが続けられたのは言うまでもないだろう。
食事が終わり、俺はふと気になったことを宇佐美に訊ねる。
「なぁ、宇佐美」
「なんですか、ハル君?」
「あれから王島英梨香から何かされたりしていないのか?」
「ええ、とりあえずは」
「そうか……」
さすがに懲りたのかな? そうだといいなぁ……。もう一度、王島英梨香の執事、神崎と言ったか? あの男と戦うのだけは勘弁願いたい。正直、倒せたのだって偶然だ。おそらく、次は勝てないだろう。
「そんなに心配しなくてもいいよ、ハル君。
一応、釘を刺しといたから」
「釘を刺すって……何をしたんだ?」
「私のお爺ちゃんに頼んだだけだよ。そしたら、解決するように動いてくれるって」
「へぇー」
「それに今回の件は王島さんの暴走みたいだったらしいから、王島家全体で私を潰そうとしに来てた訳じゃないみたい」
王島英梨香の暴走だったのか……。まぁ、確かに色々と詰めが甘い部分があったし、今思えば彼女以外で重要そうな人物は一人もいなかった。
「なぁ、宇佐美。でも、逆恨みで王島家の方が報復してくるって事は無いかな?」
俺の疑問に宇佐美は、首を横に振って即答する。
「それは無いね。王島家自体も現状の力関係のバランスを崩す気は無いみたいだから。もし、宇佐美家が潰れれば、力の均衡が崩れて地獄絵図になるのは目に見えてるからね」
宇佐美は真剣な顔で今後は大丈夫だという事を言っているのだが、正直、細かいことは俺には分からなかった。でも、宇佐美が大丈夫って言うんなら、大丈夫なんだろう。
こんな短期間の内に色んな事に巻き込まれてしまった。それは宇佐美と関わったからかもしれない。でも、俺は宇佐美から離れるつもりは無い。今回のように宇佐美がピンチの時は俺が助けたい。それが、俺の願いだからである。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる