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3章
プロローグ
しおりを挟む王島英梨香による誘拐事件から数日後、俺は未だに自室での怪我の療養に努めていた。誘拐事件の翌日、医者が俺の部屋に現れ、1週間~10日間の安静を告げたのだ。
医者を直接家に呼ぶとかさすが宇佐美だなぁ。ていうか、あの医者はどうやら宇佐美家の専属の医者であるらしく、普段から宇佐美家の関係者以外では一切診てもらえないという医者らしい。
まぁ、あの事件以来、俺は体のあちこちが痛かったので、医者の診断自体には文句はない。無いのだが……
「はい、あ~んですよ」
「うっ、宇佐美! 自分で食べられるから!」
ここ最近は自室で療養中の俺に宇佐美が突撃してくるのだ。別に治療の邪魔をしている訳ではなく、むしろ甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれるのだが、やられる俺としては溜まったものじゃない。
宇佐美のお世話に俺は毎度、タジタジになっていた。毎日のようにそれはそれは甲斐甲斐しく世話をしてくれるのだ。確かに、男冥利に尽きると言えるかもしれないが、なんと宇佐美は1度だけだが、俺の入浴までお世話をしようと突撃してきた事があったのだ。
幸い、後から来た二条さんが暴走する宇佐美に『お嬢様、さすがにそれはアウトです』と言い、回収してくれたので、実際に入浴をお世話されることは無かったが、あの時は胸のドキドキでどうにかなりそうだった。
元々、宇佐美は積極的だったが、あの事件以来、さらに積極的になった気がする。そして今も、二条さんが持ってきてくれた昼食を俺に食べさせようと俺の部屋に突撃していた。
いつもは止めてくれる二条さんも『まぁ、これはセーフでしょう』とか言って、そそくさと部屋から出ていってしまった。宇佐美にストップをかける者がいなくなり、俺は恥ずかしさを堪えながら、宇佐美のあ~んを大人しく受け入れるしかなかった。
「はい、あ~ん」
「あ、あーん」
その後、食事が終わるまで宇佐美のあ~んが続けられたのは言うまでもないだろう。
食事が終わり、俺はふと気になったことを宇佐美に訊ねる。
「なぁ、宇佐美」
「なんですか、ハル君?」
「あれから王島英梨香から何かされたりしていないのか?」
「ええ、とりあえずは」
「そうか……」
さすがに懲りたのかな? そうだといいなぁ……。もう一度、王島英梨香の執事、神崎と言ったか? あの男と戦うのだけは勘弁願いたい。正直、倒せたのだって偶然だ。おそらく、次は勝てないだろう。
「そんなに心配しなくてもいいよ、ハル君。
一応、釘を刺しといたから」
「釘を刺すって……何をしたんだ?」
「私のお爺ちゃんに頼んだだけだよ。そしたら、解決するように動いてくれるって」
「へぇー」
「それに今回の件は王島さんの暴走みたいだったらしいから、王島家全体で私を潰そうとしに来てた訳じゃないみたい」
王島英梨香の暴走だったのか……。まぁ、確かに色々と詰めが甘い部分があったし、今思えば彼女以外で重要そうな人物は一人もいなかった。
「なぁ、宇佐美。でも、逆恨みで王島家の方が報復してくるって事は無いかな?」
俺の疑問に宇佐美は、首を横に振って即答する。
「それは無いね。王島家自体も現状の力関係のバランスを崩す気は無いみたいだから。もし、宇佐美家が潰れれば、力の均衡が崩れて地獄絵図になるのは目に見えてるからね」
宇佐美は真剣な顔で今後は大丈夫だという事を言っているのだが、正直、細かいことは俺には分からなかった。でも、宇佐美が大丈夫って言うんなら、大丈夫なんだろう。
こんな短期間の内に色んな事に巻き込まれてしまった。それは宇佐美と関わったからかもしれない。でも、俺は宇佐美から離れるつもりは無い。今回のように宇佐美がピンチの時は俺が助けたい。それが、俺の願いだからである。
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