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2章
プロローグ
しおりを挟む王島財閥の1人娘、王島英梨香は彼女が望んだ事なら、なんでも叶った。物語の中にあるようなお城が欲しいと望めば、お城が手に入ったし、気に入らない同級生の女の親元の会社が欲しいと望めば、すぐに手に入れ、女の屈辱的な顔を楽しんだ。勉強や運動でも、彼女に並び立つものはいなかった。
自分以外の人間は全部格下、それが彼女が幼少の頃より学んできた彼女の常識だった。
しかし、彼女が東凰学園の中等部に入った時、彼女は初めて自分にも手に入れられないものがあると知った。彼女に初めての挫折を味合わせた人物、それは中等部から学園に入学してきた宇佐美家の次期当主、宇佐美杏であった。
宇佐美杏は、何でも彼女の1つ上をいった。勉強でも、運動でも、とにかくありとあらゆる分野で宇佐美杏は彼女の上をいった。唯一、実家が持つ権力だけは彼女に並ぶことが出来たが、将来的には家の権力の全てを振るえる宇佐美杏と違い、代々男系の当主を引き継いできた自分の家では、婿養子を取り、その人を自分がサポートするという将来になることが分かっていた。
そうなれば、自分の振るえる力では、宇佐美杏に叶うことはなくなるだろう。将来には、あらゆるものが宇佐美杏に叶わなくなると悟った彼女は、初めて他人に嫉妬した。嫉妬というものは、もたざるもの達だけが抱く感情だと思っていた彼女は、自分が嫉妬という感情を抱いたことに気づき、自分を持たざるものだと認識した。
そこから、彼女は宇佐美杏の弱点をあらゆる手を使って調べたが、いつまで経っても弱点と思わしきものは1つも見つからなかった。ああ、自分はこの感情を永遠に持ったまま生き続けなければいけないのか、彼女がそう思い始めていた時、宇佐美杏の付き人、周王春樹が現れた。
半ば諦めかけていた彼女は周王春樹という存在を調べ、歓喜にその身を震わせた。この男を利用すればあの女に勝てる! 彼女はその時、狂ったように笑い続けた。そして、満足するまで笑うと、周王春樹を利用した宇佐美杏陥落までの計画を立て始めるのだった。
ーーーーーーーーーー
「ん?」
宇佐美と一緒に登校していると、何気なく開いた下駄箱の中に何か薄っぺらいものが入っていることに俺は気づく。
「なんだこれ?」
気になった俺は下駄箱にあるそれを手に取る。俺が手に取ったそれは、手紙のようだった。ラブレター? いや、転校してきたばっかりでそれはないか。不思議に思いながら、俺が手紙をカバンにしまおうとすると……。
「ハル君……それなんですか?」
表情を失くして、俺が手に持っている手紙をじっと見る宇佐美がいた。その目からは光が消えていた。宇佐美の視線は終始、手紙に注がれ、手紙をじっと見たまま、宇佐美は俺に訊ねる。
「それ……中身読まないんですか?」
「いっ、いやぁ、後で読もうかなぁって」
「へー、そうなんですか……」
俺が返事を返しても、宇佐美はどこかうつろな様子で生返事を返すだけで、一向に便箋から視線を外さない。
なんか……ヤバい!?
何か危険なものを感じた俺は、すぐに手紙をカバンにしまう。
「ほっ、ほら、教室に行こうぜ宇佐美!」
「そうですねー」
俺が教室へ向かおうと促しても、宇佐美は生返事を返すばかりで、一向に動かない。こりゃ、いかんと俺は思い、宇佐美の手を取り、教室まで引っ張っていこうとする。そして、手紙に対してある提案をする。
「おい、宇佐美。そんなに便箋の中身が気になるなら昼ごはんの時に一緒に見るか?」
俺が提案すると、宇佐美の目にパッと光が宿る。そして、動揺してあたふたとし出す。
「そっ、そんなこと手紙を出した人に悪いよ!? もし、ラブレターだったらいけないですし!?」
「宇佐美なら、中身を見ても言いふらしたりしないだろ?」
「う、う~ん。いいんでしょうか?」
「それに、ラブレターだったとしても俺の答えはNOって決まってるしな」
「そっ、そうなんですか!? う~ん、だったら良いのかな?」
「大丈夫さ! それに……」
俺が好きなのは宇佐美だしな……。俺の提案に少しの間、考えていた宇佐美だったが、悩んだ末に俺の提案を了承する。
「う~ん、なら、一緒に見ましょっか?」
「ああ」
そう言って、いつもの宇佐美に戻る。話し合いを終えた俺たちは、教室に向かって一緒に歩き出す。
ーーーーーーーーーー
4時限目の授業を終え、俺と宇佐美はお昼ごはんを食べるため、屋上に向かう。もちろん、手紙はしっかり持っていった。
屋上に着いた俺たちは、いつも通り屋上の縁の方へ腰を下ろし、弁当を取り出す。お昼ごはんを食べようと俺が蓋を開けようとすると、隣でソワソワとしている宇佐美の姿に気がつく。
「宇佐美、どうしたんだ?」
「いっ、いえ……いつ、手紙を読むのかな~、なんて」
そう言われて、宇佐美がソワソワとしている理由におれは気づく。そして、宇佐美に俺は訊ねる。
「今すぐ読んだ方がいいかな?」
「いっ、いえ、ちょっと気になっただけなので!」
そう言って、お昼ごはんの準備を始めようとする宇佐美だったが、明らかに動揺していることが見て取れる。
「それじゃ……今から読むか」
そう言って俺は、制服の内ポケットに入れていた手紙を取り出す。俺が手紙を取り出すと、宇佐美の動揺がより大きくなる。
「いっ、いいんですか?」
「別に昼ごはんを食べた後に読んでも、食べる前に読んでも結論は変わらないからな」
それに、ラブレターの可能性は低いだろうしな……。俺の言葉を聞いて宇佐美も覚悟を決めたようで、姿勢を正し、手紙に熱心に視線を注ぐ。
「それじゃ、開けるぞ」
「はっ、はい!」
緊張している宇佐美の様子に俺は苦笑をしながら、手紙を開ける。手紙の中には折り曲げられた1枚の紙が入っており、俺は折り曲げられた紙を開く。すると、紙には……
『周王春樹様。以前からあなたの事が気になっていました。どうしても、私の素直な気持ちを伝えたいので、今日の放課後、体育館裏でお待ちしています。あなたが来るまで、いつまでも待ち続けます』
と言った内容が書かれていた。もしかしなくてもこれは……
「ラブレターじゃないですか!?」
「ああ……そうみたいだな」
手紙がラブレターだと知り、宇佐美は酷く動揺した様子で俺に訊ねる。
「は、はははははハル君!? どうするんですか!?」
「とりあえず伝えるさ……。ごめんなさいって」
俺の言葉を聞き、宇佐美は大きくハァーッと息を吐く。
「そっ、そうですか……。それじゃあ、今日学校が終わったら、私は校門の方で待ってますね!」
「ああ、終わったらすぐに行く」
「「……」」
俺の言葉を皮切りに、俺たちの間に沈黙が流れる。俺は変になった空気を誤魔化すように、宇佐美にご飯を食べようと促す。
「昼ごはん……食べるか?」
「うん!」
そうして、俺たちは昼ごはんを食べ終えると、昼休みいっぱいまで談笑するのだった。
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