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1章
6話
しおりを挟む【隷王の書】というスキルを使い、狂精霊から精霊に変わった少年、ノールを連れ、僕は【狂精の墓場】からの脱出を目指していた。
「グレイさんすごいです! ササッって狂精霊の攻撃を避けて、シュバババっておっきい剣で斬って、物語の中の英雄さんみたいです!」
そう言って精霊の少年、ノールは興奮して僕を褒めちぎる。そうなのである。あれから【狂精の墓場】から脱出すべく彷徨い歩いていた僕達は何度か狂精霊と遭遇したのだ。しかし、その度に何故か部屋で目覚めてから急に強くなった体を使って、僕は狂精霊達を倒してきたのだ。今ではレベルも7まで上がり、少し前に狂精霊に大苦戦していた自分は何だったのかといった具合である。
僕はノールからの賞賛を聞きながら、【狂精の墓場】の中で足を進める。
(そういえば、精霊になってからのノールのステータスを見てなかったな……)
僕は【女面鳥王の眼】をノールに発動する。
名前 : ノール
種族 : 精霊
Lv:5
スキル
【土属性魔法 : Lv 2】
主人:グレイ
(名前の文字化けが消えている! やっぱり普通の精霊になったってことなんだろうか……。僕以外の人は見えなかったスキル欄が見える! それに僕が主人って……。うーん、ノールに元々、狂精霊だったことを伝えた方が良いだろうか?)
ノールに本当のことを伝えるべきか悩む。そんな僕を見てノールは不安そうな目で僕を見る。僕はその目に気づかないフリをして、洞窟の外を目指して足を進める。
ーーーーーーーーーー
しばらく歩いていると、遠くから光が見える。出口に着いたのだろう。ノールはまだ気づいていないようだ。
「ノール、出口だぞ! 【狂精の墓場】から出られるぞ!」
思わずテンションが上がり、ノールにウキウキで出口が見えたことを伝える。僕が出口が見えたことを伝えてもノールの表情は沈んでおり、その表情は晴れない。
「…………」
「ノール、どうしたんだ? 出口だぞ」
「…………」
「ノール……」
「……グレイさん、教えてください。グレイさんは……私が【狂精の墓場】にいた理由、知ってるんですよね?」
僕はノールの言葉に思わず口をつぐむ。
(……確かに僕はノールが元々狂精霊だったことを知っている。しかし、言っていいものなのか?)
僕は判断に迷いかね、思わずその場で唸る。
「お願いします! 何を聞かされてもグレイさんのことを恨んだりしません! 教えてください!」
僕はノールの必死の剣幕に折れ、ポツポツと語り出す。
「実は……」
ーーーーーーーーーー
「……ということなんだ。」
僕は【隷王の書】のことはボカしながら、ノールに伝えた。僕がとある力でノールを使役していること。ノールが元々狂精霊であったことなどを話した。
「そう……ですか。僕が狂精霊……ですか……。」
ノールはかなりのショックを受けたようで俯いたままその場から動かない。
(そりゃそうだよな。自分が元は狂精霊だったなんて聞かされたら誰だってショックだよなぁ。)
落ち込むノールを見て、なんて声をかけたら良いか分からずその場に立ち尽くす。
「つまり今僕は……グレイさんの物ってことですか」
しばらくショックを受けていたノールはたどたどしく話し出す。
「まぁ物っていうのもなんだけど……大体そんな感じかな。あはははは……」
僕は少しでも場の空気を明るくしようと笑うことを試みるも空笑いになってしまう。すると、そんな僕を見てノールがクスリと笑う。
「クスッ。……でも良かったです。正直今の状況を受け入れられているかって言えばそんなことはないですけど……僕のご主人様がグレイさんならなんか何でも解決してくれそうですもん!」
そう言ってノールは僕にとびきりの笑顔を見せてくれる。そんなノールの様子に僕も自然と笑みを浮かべる。
「ノールの期待に応えられるか分からないけど……精一杯頑張らせてもらうよ」
「はい!」
ノールは僕の言葉に元気に返事をする。
「それじゃ行こうか」
「はい!」
僕達は遠くに見える光に向かって共に歩き出す。少しして遂に外が見えるぐらいまで近づく。
(やっと……やっとだ! 遂に出られる! 散々酷い目にあったけど、やっと出られる!)
僕は虹色の結界が張ってある洞窟から出ようとして、結界に弾かれた。
(えっ……! 一体どういうことだ!)
ノールの方を見ると、ノールは問題無く結界の外に出ていた。
(なんでノールは出れて僕は出れないんだ!?)
僕が混乱していると、ノールがこっちを向き、僕の様子を見て驚く。
「えっ……! グレイさんどうしたんですか!?」
「うーん、どうやら僕はココから出られないみたいだ。出ようとしても結界に阻まれてしまうんだ」
僕は【狂精の墓場】から出られないことをノールに伝える。
「そっ、そんな……!」
僕は目の前でガーンと僕以上にショックを受けるノールを見て、少し冷静になる。
「うーん、僕はなんとか他の出口がないか探してみるからさ。ノールは先に外に出てなよ」
「そんな……! 僕はグレイさんから離れませんよ! 僕はグレイさんがいなかったらココから出られたかも分からないんです! 僕はグレイさんから離れませんよ!」
そう言ってノールは僕の話を頑とはねつける。
(うーん、困ったなぁ。かといって危険な【狂精の墓場】の中を連れて行く訳にはいかないしなぁ……。何か手があれば良いんだけど……)
『【ノール】を【ボックス】にしまいますか?』
『はい いいえ』
悩んでいると、機械音のアナウンスと共に目の前にウィンドウが現れる。僕は困惑しながらもウィンドウの『はい』を押す。
すると、ノールは光を放った後、目の前から消え去る。
『【ノール】を【隷王の書】の『ボックス』にしまいました。ステータス欄から確認できます』
(目の前にいたノールが消えた!? 【ボックス】とかいうのにしまったのか?)
慌てて自分のステータスを確認する。
名前:グレイ
種族:せ◾︎レi
Lv:7
【無属性魔法 : Lv MAX】、【隷王《れいおう》の書 : Lv 1】、【女面鳥王《ハーピリア》の眼 : Lv 1】
(確か【隷王の書】って言ってたよな?)
僕はスキル【隷王の書】を凝視する。
【隷王の書】
《一章》 『使役』
『ボックス』
・〈ノール〉
(いた! ノールだ!)
僕は詳細を見ようと『ボックス』と〈ノール〉の部分を凝視する。
『ボックス』
《使役した生物を異空間にしまうことができる》
『残り容量9です』
〈ノール〉
『取り出し可能です。取り出しますか?』
『はい いいえ』
ウィンドウが現れると、僕はすぐに『はい』を選択する。すると、光を放ち、ノールが僕の前に現れる。
「あっ、あれ? 僕綺麗なお花畑にいたはずなのに……ってグレイさん!」
ノールは始め、混乱していたようだが、すぐに僕の方を向いて笑顔を浮かべる。
「……やぁ、ノール。お花畑が何なのかは分かんないけど、ノールは僕の力で異空間にいたんだ。急にやっちゃってごめんね」
僕は額から汗を流しながらノールに何が起きたかを説明する。ノールは最初こそ浮かない顔をしていたが、話を聞くと顔に笑顔を浮かべた。
「それじゃあ、さっきの力を使えばグレイさんの迷惑にならずにグレイさんの側にいれるってことですね!」
ノールは嬉しそうに話し出す。
(たっ、確かに! 『ボックス』を使えば安全にノールを連れて洞窟内を探索できる。しかし、うーん……)
しばらく悩んだ後、僕は結論を出す。
「……分かったよ。ノールも連れてここ以外の出口を探す。それでいいな?」
僕はノールの剣幕に折れ、ノールを連れて行くことにする。
「はい!」
僕はノールを再度、『ボックス』へしまい、また洞窟の中へ足を進めるのだった。
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