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1章

2話

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 【狂精の墓場】の中は暗く、手に持っているランタンから先は吸い込まれそうな闇が広がっているのみだった。僕は恐る恐るといった感じで歩みを進める。
 ちなみに僕の今の装備は、短剣が2本に丸い鉄製の小盾が一つである。

 その他に、僕自身が元々持っていた能力が2つある。一つ目は【ステータス閲覧】、二つ目は僕自身が無属性の精霊であるため、【無属性魔法】である。
 【ステータス閲覧】は相手の名前と種族、レベルが見ることができる能力である。実際にアリシアを見た時のステータスが……


名前 : アリシア
種族 : 精霊
Lv:24


 これである。ちなみに僕自身を見た時は少しだけ違って……


名前:グレイ
種族:精霊
Lv:1

スキル
【無属性魔法 : Lv 3】、【ステータス閲覧 : Lv ーー】


 といった感じでスキルの欄が追加される。しかし、それだけである。僕にとっては相手との実力差を確かめるだけの代物になっている。

 二つ目の【無属性魔法】はある意味、魔法の属性、四大属性より有名な属性である。世界の誰でも扱える扱える魔法、しかし、強みにはなり得ない他の魔法を覚えるための魔法というのが世界中の共通認識である。

 最初は僕も(鍛えれば最強になれるはずだ……!)と思って無属性魔法を強化しようとした。しかし、結果は無属性魔法の初期からある【魔弾マジックショット】に【防壁シールド】と【身体強化】が増えただけである。
 このように僕の能力はお粗末なものである。

 僕は洞窟の中を足を進め、後ろを振り向いてもすっかり何も見えなくなった頃、早速後悔し始めていた。

(なんで僕はこんなバカなことをしたんだ……。でっ、でもこれ以上搾取されるのは嫌だ……! そっ、そうだ! いっ、一匹! 一匹倒したら帰ろう。狂精霊倒したとなったら皆も見直してくれるはずだ!)

 僕はそう自分に言い訳をしながら、【狂精の墓場】のさらに奥へと足を進める。
 すると程なくして、獣のうなり声のような声が前方から聞こえ、だんだん近づいてくる。

「ひっ……!」

 ランタンを足元に置き、左手に小盾を右に短剣を構える。近づいて来ていたそれはすぐに姿を表した。
 それは150センチ位の人型で一見すると人間のようだ。しかし、その体表は暗い紫色で覆われており、頭部からはあちこちから角のようなものが突き出している。その体はひどく痩せ細り、骨と皮だけで出来ているようで、仏教で言うところの餓鬼を彷彿とさせる風体である。

(あれが本物の狂精霊……! 本でしか見たことなかったけど、想像以上に見た目がグロい!)

「ぐるるるる……!」

 狂精霊は僕を見定めると、歯を剥き出しにして威嚇をしてくる。僕は恐怖に後退りながら、【ステータス閲覧】を行う。


名前 : 迢らイセ髴
種族 : 精霊
Lv:3


(名前がバグってる!? でもレベル3! これなら……僕でもなんとかなるかもしれない!)

 沈んでいた気持ちを引き締め直し、僕自身に【身体強化】と【防壁シールド】をかける。

 【無属性魔法】の【身体強化】は僕が【無属性魔法】をレベル3になった時にできるようになった魔法で、込めた魔力に応じて身体能力を強化するという魔法である。しかし、僕の魔力保有量では100メートル走、12秒ジャストだったのが、11秒80になった位の差しか表れず、体感的にも感じづらく、無いよりマシという程度のものになっている。

 そしてもう一つの【無属性魔法】、【防壁シールド】は魔力を込めて、その名の通り、防壁を張るというものである。

 魔法を使うと、体に若干力がみなぎり、正面に2メートル四方の半透明の薄い壁ができる。目の前に現れた半透明の壁に警戒したのか、狂精霊は僕をじっと睨みつけ、その場を動かない。

「「………………」」

 僕と狂精霊の間に静寂が流れる。1分か、2分か、それとも15秒ほどだったかもしれない。
 狂精霊が静寂を破り、咆哮を上げながら飛びかかる。

「キシャァーーーーーー!」

 狂精霊が【防壁】に当たり、【防壁】がパリンッと粉々に砕け散る。しかし、半透明の壁はしっかりと役割を果たし、狂精霊は体勢を崩す。刹那、僕は右手に握った短剣で突貫する。

(狙うのは魔物の核、魔石がある場所、心臓!)

 魔物は共通して弱点といえる場所がある。それが心臓に埋め込まれた魔石である。ここを完璧に破壊すれば、どんな魔物に限らず倒れる。

 狂精霊は迫る僕を見て、苦し紛れに鋭い爪のついた左腕を振ってくる。僕は突貫しながらそれを体を捻り、間一髪で避ける。狂精霊は腕の薙ぎ払いを避けられ、更に体勢を崩す。

(体勢を崩して心臓が剥き出しだ! )

 僕は心臓があるだろう場所へと短剣を向ける。

「いっけぇぇぇーーーーーー!」

 ズプリ。鈍い感触を伴って、狂精霊の心臓部に短剣が突き刺さる。短剣が刺さると、即座に狂精霊から飛び退く。

(やったか!?)

 狂精霊は刺さった短剣の場所を押さえて、苦しそうにしながらその場に蹲る。そして、刺さっていた短剣を心臓から抜き取り、堰を切ったように聞くに耐えない叫び声を上げだす。

「グギャァァーー! ギャギャァーーーー!」

(どういうことだ! 確かに僕は心臓を刺したはず……。もしかして魔石が無いのか! 狂精霊は魔物化した精霊なんじゃないのか!)

 僕は一向に頭の中で想像していた風景に現実がならないことに焦り、混乱する。狂精霊はそんな僕の状態に気づいたのか、右腕を振り上げ、強襲する。

「キシャーー!」

 僕は咄嗟に左手に持っていた小盾で防ぐ。
 ドゴッ! 鈍い音が響き、怪物の膂力をもって僕は後方に吹き飛ばされる。

「ぐっ!」

 後方に吹き飛ばされた時に体を打ちつけ、痛みが体中に広がる。体に広がる痛みのせいか、混乱していた頭が冷静になる。

(ふぅ……。魔石がないのは想定外だけど、よく見れば最初より狂精霊は酷く弱っている。【防壁】を使いながらじわじわ削れば勝てるはずだ。)

 僕はレッグホルスターに収めていた予備の短剣を取り出し、狂精霊に短剣を正眼に構える。

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