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第1話
ハジメさん
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「あの、…もしかして『しお』さんですか?」
何とか時間ギリギリに着いた先で、1人の男が声をかけてきた。
『しお』は俺のSNSのニックネームだ。
どうやらこの人が『ハジメ』さんらしい。
瞬間的に営業スマイルになる。
「あ!そうです~。よろしくお願いします。」
日夜接客業で培ってきた、落ち着いているがはっきりとした声を出す。
予想が的中し、待ち合わせ場所の居酒屋で少し飲んでいくことになった。
店内はすでにサラリーマンのグループがいくつか飲み会をしていた。
ハジメさんは少しキョロキョロと周りを見渡しながら席に座る。
「…あ、ここ初めて入ったんですけど、やっぱり雰囲気良いですね~」
「そうなんですか!?ここの卵焼き美味しいんですよ~」
お酒と、それぞれ選んだおつまみを分けっこしながら在り来たりな話をする。
ハジメさんはちゃっかり卵焼き頼んでいた。
…可愛い。
ハジメさんは黒い短髪で、正直顔は平凡。
俺と同じくラフな服装だが、身なりには気を使っているようで、清潔で爽やかな印象を与えてくれる。
彼自身も穏やかな人で普段は中小企業で働いているらしい。
少し話した後、彼は「はぁ~~」と笑いながらため息つく。
「正直初のオフで怖くて不安だったんだ~安心したよ~」
「あはは、僕もネットの人とは殆ど会ったことないので同感ですー」
これは嘘。
自分をよく見せるための嘘だ。
俺は事実に嘘少々を織り混ぜて自分を伝える。
悪い印象を与えないように。言葉をよく選んで。
酔いが程よく回ってきた頃、
「……そろそろ、行きますか?」
アルコールに弱いフリをしながらお誘いする。本来はこんな薄いサワー2杯くらいじゃ、全っ然酔わない。
「そうです、ね」
本来の目的を忘れてたのか、ハジメさんの顔が少し赤くなっていた。
それぞれの会計を済ませて外へ出る。
辺りはもう真っ暗で、先程よりも寒くなっていた。
「寒…………ん?」
ハジメさんが周辺を警戒したような顔つきで見渡している。
どうしたんだろ………。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「え!!あ、すいません!!今から行くところどっちだっけと思って…」
あはは、と軽く笑いながら行きましょ、と手を差し伸べてきた。
俺は迷うことなく手を繋いだ。
居酒屋のある大通りから一本入るとすぐにホテル街の派手な看板や電飾が目につく。
平日なのでいつもより人通りは少なかった。
俺は少し大胆になって、ハジメさんの腕に抱きつく。
チラッと上目遣いで顔を覗き込むが、ハジメさんは緊張した面持ちでこちらのことは見ない。
というより、さっきから周りを注意して見ているような……。
そんなこんなで、目的地のホテルにたどり着いた。
「あ!僕、ここのクーポン持ってるんで出しますねー」
建物の入り口で以前、雑誌についてたクーポンをバッグから出そうとした時だった。
ゴッッッッッッッッッ
物凄く鈍い音と共に、少し後ろにいたハジメさんが吹き飛んだ。
何とか時間ギリギリに着いた先で、1人の男が声をかけてきた。
『しお』は俺のSNSのニックネームだ。
どうやらこの人が『ハジメ』さんらしい。
瞬間的に営業スマイルになる。
「あ!そうです~。よろしくお願いします。」
日夜接客業で培ってきた、落ち着いているがはっきりとした声を出す。
予想が的中し、待ち合わせ場所の居酒屋で少し飲んでいくことになった。
店内はすでにサラリーマンのグループがいくつか飲み会をしていた。
ハジメさんは少しキョロキョロと周りを見渡しながら席に座る。
「…あ、ここ初めて入ったんですけど、やっぱり雰囲気良いですね~」
「そうなんですか!?ここの卵焼き美味しいんですよ~」
お酒と、それぞれ選んだおつまみを分けっこしながら在り来たりな話をする。
ハジメさんはちゃっかり卵焼き頼んでいた。
…可愛い。
ハジメさんは黒い短髪で、正直顔は平凡。
俺と同じくラフな服装だが、身なりには気を使っているようで、清潔で爽やかな印象を与えてくれる。
彼自身も穏やかな人で普段は中小企業で働いているらしい。
少し話した後、彼は「はぁ~~」と笑いながらため息つく。
「正直初のオフで怖くて不安だったんだ~安心したよ~」
「あはは、僕もネットの人とは殆ど会ったことないので同感ですー」
これは嘘。
自分をよく見せるための嘘だ。
俺は事実に嘘少々を織り混ぜて自分を伝える。
悪い印象を与えないように。言葉をよく選んで。
酔いが程よく回ってきた頃、
「……そろそろ、行きますか?」
アルコールに弱いフリをしながらお誘いする。本来はこんな薄いサワー2杯くらいじゃ、全っ然酔わない。
「そうです、ね」
本来の目的を忘れてたのか、ハジメさんの顔が少し赤くなっていた。
それぞれの会計を済ませて外へ出る。
辺りはもう真っ暗で、先程よりも寒くなっていた。
「寒…………ん?」
ハジメさんが周辺を警戒したような顔つきで見渡している。
どうしたんだろ………。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「え!!あ、すいません!!今から行くところどっちだっけと思って…」
あはは、と軽く笑いながら行きましょ、と手を差し伸べてきた。
俺は迷うことなく手を繋いだ。
居酒屋のある大通りから一本入るとすぐにホテル街の派手な看板や電飾が目につく。
平日なのでいつもより人通りは少なかった。
俺は少し大胆になって、ハジメさんの腕に抱きつく。
チラッと上目遣いで顔を覗き込むが、ハジメさんは緊張した面持ちでこちらのことは見ない。
というより、さっきから周りを注意して見ているような……。
そんなこんなで、目的地のホテルにたどり着いた。
「あ!僕、ここのクーポン持ってるんで出しますねー」
建物の入り口で以前、雑誌についてたクーポンをバッグから出そうとした時だった。
ゴッッッッッッッッッ
物凄く鈍い音と共に、少し後ろにいたハジメさんが吹き飛んだ。
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