壊れた王のアンビバレント

宵の月

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アンビバレント2 ★

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 引き合うように口付けて、互いの吐息を交換し合う。舌を絡ませ合いながら、互いの衣服を引き剥がすように取り去った。

 「カーティス……カーティス……」

 顕になったカーティスの肌に刻まれた、いくつもの傷跡に瞳が潤む。悪夢を駆け抜け、いくつもの命を切り捨ててきたことの証明。
 熱に浮かされたように、アルヴィナは刻まれた罪の証一つ一つに、唇を寄せ舌を這わせた。駆り立てたのが愛ならば、その罪を自分だけは肯定し、全てを赦したかった。

 「はぁ……あぁ……アルヴィナ……アヴィー……」

 もどかしい熱を擦り付けるように肌を寄せるアルヴィナを、カーティスは寝台に押し付けた。
 全てを奪われたあの夜のように、アルヴィナの肌に血が滲む刻印が散らされていく。罪人の烙印のようだった歯型は、愛憎と執着の鎖となって肌に刻まれていく。

 「カーティス……カーティス……もっと……もっと強く……」

 アルヴィナは余すところなく、全てを奪われ縛られることを自ら望んだ。優しく柔らかい幸せな恋は、燃えるような愛に置き換わった。

 「アヴィー……私のものだ……私だけの……アヴィー……」

 呪詛のように漏れるカーティスの掠れる声が、アルヴィナを心を絡めとる。
 乱暴に肌をねじ上げるような愛撫に、肚に灯った熱が身のうちからアルヴィナを炙った。

 「あぁ!カーティス!あぁ……ああっ!」

 怒りにも似た欲望。憎悪に見える執着。その根幹は、死さえ厭わない底の見えないほどの深い愛だともう知っている。
 悪夢に捻れて堕落に歪み、それでもなお消えない魂に刻んだ愛。
 同じものがアルヴィナの心にも根付いている。

 「アヴィー!」
 「ああっ!カーティス!カーティス!あああーーー!!」

 ねじ込まれた灼熱の執着に、アルヴィナは弓なりに身体をそらせ悲鳴を上げた。メリメリと隘路を押し進み、最奥まで貫かれる。
 猛り狂った雄の陵辱の衝撃に、アルヴィナは息が止まり、圧倒的な質量に内臓が悲鳴を上げる。
 それでも繋がりたい欲求が苦痛を上回る。無意識にカーティスの腰に両足を回し、アルヴィナは腰を揺らした。

 「アヴィー!アヴィー!お前は私の女だ!逃さない!私のものだ!」

 内臓をかき回すように何度も穿ちながら、カーティスは獣じみた咆哮を上げアルヴィナを犯す。
 
 「あぁ!あぁ!カーティス……カーティス……」
 
 愛と憎しみに快楽が混じる。苦痛と快楽がない混ぜになり、高ぶり続ける熱に浮かされ、アルヴィナを狂わせていくようだった。
 もうとうに狂ったようなアイスブルーの瞳に、自分だけが映る悦びにアルヴィナは甘く啼く。
 セレイア、ヘレナ。カーティスがもし誰かと肌の熱を分け合い、脳を溶かすような快楽を共にしていたとしても、今この時は自分だけのものだ。芽生えた嫉妬が渇望をわき立たせ、ひどく肌を熱くさせる。

 「カーティス……愛してる……もっと……もっと……」
 「アヴィー!アヴィー!」

 身体が上擦るほど激しい律動を繰り返し、獲物を食いちぎろうとするように、カーティスは何度も肌に歯を立てた。

 「アヴィー……アヴィー……」

 縋るように抱き締めて、互いの汗ばむ肌を何度も擦り寄せる。華奢な身体をきつく閉じ込め、狂ったように犯しながら、カーティスにももう愛したいのか壊したいのか分からなかった。
 
 「アヴィー!あぁ……アヴィー!」
 「ああっ!あぁ……カーティス……あぁ……もう……あぁ…ああっ!」

 押さえつけて最奥を突き破るほど、激しくアルヴィナを穿つ怒張が締め上げられる。身を焦がす熱に浮かされながら、猛り狂う愛憎に急かされ、苦痛にも似た快楽を貪る。

 「あぁ!カーティス!いく……いく……もう……ああ!ああああーーー!!!」

 身体を強張らせたままびくびくと痙攣して、アルヴィナが絶叫して絶頂を迎える。
 カーティスを咥え込んだそこが、逃さないとばかりにギチギチに締め付けた挙げ句、蜜を滴らせたうねる肉壁で貪るように絡みついてきた。

 「あぁ……アルヴィナ!アヴィー……アヴィー……あぁ!」

 強制されるように絞られ、カーティスもアルヴィナの最奥に放つ。脳髄を走り抜けるような快楽に震え、腹筋を痙攣させながら吐精する。
 詰めた息を吐き出した途端、カーティスの瞳に涙が溢れた。

 「アヴィー……アヴィー……どうかもう……私を一人にしないでくれ……」

 抱きしめたアルヴィナに縋り、消え入りそうな呟きが漏れた。

 「カーティス……愛し、てる……カーティス……」

 掠れるアルヴィナの声に、カーティスの涙はとめどなく溢れた。熱く汗ばむ柔らかなアルヴィナを抱き寄せる。命がいつか尽きるなら、今ここで尽きてくれることを願った。


※※※※※


 何度も絡み合い奪い合うようにして互いを貪り、意識を手放すようにして眠り、アルヴィナは隣にカーティスが眠る初めての朝を迎えた。

 「……カーティス……」

 陽の光に照らされた神が丁寧に作り込んだような美貌が、安らかな寝息を立てている。胸を握りこまれるような愛しさがこみ上げ、アルヴィナの瞳が揺らいだ。
 
 「カーティス……」

 泣きたくなるような幸福と、植え付けられた幻覚がいつか実現するかもしれない恐怖に喉が震える。
 幼かった心は苛烈な愛憎の焔に焼かれ、深い愛は人を生かしもし、殺しもするのだと教えた。知らなかった頃にはもう戻れない。
 プラチナブロンドの睫毛が震え、ゆっくりとカーティスが瞼を開けた。

 「……アヴィー……私の、アヴィー……」

 かすれた声で名前を呼びながら、伸ばされた腕がアルヴィナを抱き込む。つむじに柔らかい唇が落ちる感触に、嗚咽がもれないように唇を引き結んだ。

 愛憎に狂乱した夜が明け、カーティスのいない5年をどう生きてきたのか、アルヴィナはもう思い出せなかった。
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