壊れた王のアンビバレント

宵の月

文字の大きさ
上 下
43 / 66

無言の夜 ★

しおりを挟む



 高くあげさせた尻。指で押し広げた秘裂が、潤んでいる光景をカーティスは侮蔑の視線で眺めた。

 「兄様……お願い……話を……!!ああっ!!」

 アルヴィナの悲鳴を無視して、カーティスは血管が浮き出て怒りに猛った怒張をあてがった。
 愛液を含んだ肉襞が、押し入って隘路を進む怒張に媚びて絡みつきながら蠕動し歓迎してくる。
 脊髄を這い上がる熱く蕩ける快楽が、よりカーティスの憎悪を煽る。
 根本まで咥え込ませ、アルヴィナの肩に両手をかけた。体重をかけて華奢な肩を寝台に押し付ける。

 「兄様……お願い……」
 
 か細い懇願を振り切るように、一切の加減も遠慮もせず抽挿を開始する。

 「あぁ!!やぁ!兄様!あっ!あっ!あっ!」

 じゅくじゅくと潤んだそこは、犯すたびに蜜を溢れさせ、絶え間なく粘膜を擦り立てる怒張に掻き出された、泡立つ蜜を垂れ流した。
 
 「ああ!あぁ!兄様!兄様!ああ!いやぁ!」

 押し付けられてくぐもる嬌声は、間違いようもなく甘く翻っている。カーティスを受け入れるそこも、ぐにゅぐにゅと快楽に身悶え、カーティスの怒張に絡みつく。
 カーティスはそれを嘲った。生存が本能に刻まれた欲求なら、快楽もまた否応なく植え付けられた本能で、カーティスが教え込んだ快楽にアルヴィナは間違いなく堕ちている。
 屈辱的に犯されていても、甘く啼き中は媚びてうねる。

 「あぁ……兄様!待って!待って!ふっ!ああ!」

 慄くような快楽に歯を食いしばり、カーティスは美しい肢体に乱暴に律動を繰り返す。結合する水音と、肉を叩きつける音が室内に響き渡った。
 身体の下で成すすべなく啼く、アルヴィナは甘く美しい。この女を犯し、穢し、壊したいと願わない男はいない。

 「あぁ……!もう……だめ!だめ!いや!あぁ!あぁ!」

 切実なアルヴィナの悲鳴が上がり、カーティスを咥え込むそこが締め付けを増す。痙攣するように蠕動し始める肉壁に、骨髄に痺れるような快楽が駆け上がる。

 「ああああぁぁぁーーーー!!」

 押さえつけた身体が絶頂し、突っ張るように強張った。カーティスを飲み込んだそこは、搾り取るように波打ち、カーティスの射精を促す。

 「ぐぅっ………!!」

 その愉悦に堪えきれず、カーティスは息を詰め最奥に白濁を吐き出した。緩く腰を穿ちながら吐き出した白濁で、隙間なくアルヴィナを穢す。

 「あぁ……あぁ……はぁ……はぁ……」

 余韻に甘く声を震わせるアルヴィナに、心が震えカーティスは唇を噛み締めた。
 もう戻れずもう許せない。欺き裏切られた絶望が、アルヴィナの言葉を拒否していた。

 「あっ!あっ!待って!待って!お願い!兄様!兄様!」

 怒りが再びカーティスを猛らせる。再びアルヴィナを犯し始めるカーティスに、アルヴィナは悲鳴を上げた。
 空が白むまでカーティスはアルヴィナを犯し、部屋を出ていった。
 
 「兄様……」

 あの日以来、カーティスは王妃の閨に行っていた日にだけ、アルヴィナを抱きに来るようになっていた。
 ただ抱き、気が済むと出ていく。言い訳も謝罪も全てを拒み、ただアルヴィナを身篭らせるためだけに訪れる。

 カーティスは一度も顔を見ることも、名前も呼ぶこともしなかった。それでも少しずつ知った過去が、アルヴィナにカーティスを呼び止めさせる。
 カーティスの望んだ結末が何なのか。その答えが聞きたかった。

 
※※※※※
 
 
 白亜宮の中庭で向かい合うエクルドが、何通かの封書を差し出した。

 「玉璽文書のおかげで、特別法が執行できます。影響が大きい所から順に手続きを進めています。」
 「そう……」

 ぼんやりと封書を受け取ったアルヴィナの様子に、エクルドが口を開きかけた。

 「アルヴィナ妃。リーベンからの返信です。」

 キリアンの声に顔を上げたアルヴィナが、差し出された封書を受け取った。俯いて封書を見つめるアルヴィナに、エクルドとキリアンは顔を見合わせた。
 憔悴した様子に何も言葉が見つからず、エクルドは結局黙り込む。

 「……ノーラは元気でいますか……?」
 「はい。ネロと共にキロレスの医療記録をログナーク仕様に書き起こしています。」
 「そうですか……あの、兄様は……」
 
 口籠ったアルヴィナに、エクルドは隣接する翠蒼宮にちらりと視線を投げかけた。窓の人影にため息を噛み殺す。

 「この件が恙無く完了したら、どこかの離宮で過ごすことを許してくださると思いますか……?」
 「それは……」
 「謝罪どころか目を合わせることもできない……それに……」

 アルヴィナは泣くのをこらえるように顔を歪めた。エクルドとキリアンは目を見開いて、慰めを口にしようとするも、その前にアルヴィナは立ち上がった。
 
 「………部屋に、戻るわ……」

 力なく笑みを浮かべてアルヴィナは戻っていき、エクルドはもう一度翠蒼宮を振り返った。人影が窓から離れ、再びため息を吐き出した。

 「……キリアン卿、何とかしてください。」
 「…………」
 「………救済政策の件は陛下に話されましたか?」
 「……いえ……」
 「ではそれも合わせて、私が話をしてきます。」
 「……ですが。」
 「このままにしておけば、大詰めを前に何もかも不意になってもおかしくない。」
 
 戸惑ったように瞳を揺らしたキリアンに、エクルドは眉根を寄せた。

 「アルヴィナ妃がいなければ、私は反旗を翻していました。」
 「……やはり、そうでしたか……今も、ですか……?」
 「………今は……不忠を詫びねばならないと思っております。」
 
 キリアンはホッと顔色を緩めた。その上で敢えてエクルドに向き直った。

 「………もし婚姻誓約の内容が分かったとしても、心が変わることはなかったのですか?」

 エクルドはゆっくり首を振り、キリアンを見据えた。

 「貴方にもおわかりでしょう。婚姻誓約の内容を明かし、解毒薬を公表。キロレスの医術開示。それでも碁盤は覆らなかったと。」
 「………そう、ですね。」
 
 キリアンは拳を握りしめた。

 「粛清の不信は利益では取り戻せない。臣民の心を取り戻すには、それでは足りなかった。陛下にも分かっていたはずです。」
 「カーティスは……」

 その先を言葉にすることはできず、キリアンは俯向いた。カーティスは完全な対策を、用意することはしなかった。

 「……疲れて、いらしたのでしょう。」

 エクルドのぽつりと落とした呟きに、キリアンの瞳が涙で潤んだ。カーティスも限界だったのだと理解はできても、胸が詰まった。
 エクルドは慰めるようにキリアンの肩を叩いた。

 「キリアン卿は懸命に力を尽くしておりました。我々が追い詰めたのです。詫びねばなりません。」
 「………」
 「救済政策はこれからが佳境です。キリアン卿にもお分かりでしょう?アルヴィナ様だからこその政策だと。」
 「……はい。」
 「陛下との関係が改善しなければ、アルヴィナ様は……。そうなればもう止める手立てはない。」
 「……ええ。分かっています。」
 
 カーティスの執務室を見上げ、キリアンは重々しく頷いた。危ういバランスだったカーティスとアルヴィナ。
 避妊薬が発覚したことで、今は完全に拗れてしまった。エクルドが話したところで、その心を変えるのは難しく思えた。
 かつてのダンフィルを取り戻すためだけに、無理を重ねてきたカーティス。その心を支えていたアルヴィナの避妊……。

 (カーティス……)

 キリアンはただ、ため息を吐き出した。

 
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

束縛婚

水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。 清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...