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聴取
しおりを挟む執務を終えカーティスは地龍宮に向う。伝統的に国賓のために使用された宮は、来客の体裁を守るために地下牢が設えられている。
地下に近づくにつれ、耳障りな喚き声が音量を増した。
「黙らせろ。」
扉を開けると同時に、カーティスは冷徹に言い渡した。
「カーティス陛下!もう全てお話しました。どうか!どうか慈悲を!!」
顔をしかめたカーティスに、キリアンは急いで消音魔石を発動した。受け取った調書に目を通し、そのままキリアンへと手渡した。
「あらかた確認は取れたな。」
「はい。」
「ベルタングは?」
「向かっております。」
タイミングよく扉が開き、血の気が失せたセレイアとメナードが、騎士に囲まれ地下牢に到着した。
ニイッと笑みを浮かべ、カーティスが手をあげた。消音魔石が解除され、ゲダートとヘレナの叫びが戻る。
「どうか!どうかもう!!」
「やめてくれ……頼む、もうやめてくれ……」
暴れる二人は騎士に取り押さえられ、無理やり小瓶を流し込まれる。口と鼻を塞がれて、のけぞらされた喉元が上下すると、騎士は手を離した。
「聴取はだいたい終了したが、もてなしが不十分では面目がたたない。
ベルタングにはキロレス使節のもてなしを任せていたからな、最後まで役目を果たせ。」
皮肉に唇を歪めたカーティスに、セレイアとメナードは震え上がった。
「あああああーーーーー!!!」
絶叫が上がり幻覚が現れ始めたヘレナとゲダートが、のた打ちながら痴態を晒し始める。
「貴様らが我が国に広めた薬物の味だ。存分に味わえ。」
狂気に爛々と目を見開き、二人を蔑むカーティスの横で、メナードとセレイアはその醜悪な様から目をそらした。
「セレイアーーーーーー!!」
ヘレナが憎悪に血走らせた目で、セレイアをにらみつける。
「呼んでいるぞ?応えてやれ。」
「……………」
「なぜ目を逸らす?私の執務室に乗り込むほどキロレスの使節の権限を欲しがっていただろう?」
くつくつと嗤うカーティスに、何も答えられず震えるばかりの二人を、カーティスは睥睨する。
「どうした?もてなせ。」
「いやだあああーーーーー!!」
絶叫を上げる二人の瞳孔が開き始め、カーティスが手を上げた。再び騎士が取り押さえ、解毒薬が流し込まれる。瞳孔が収束し、絶叫が止まる。
「解毒薬も効果は十二分に視察できただろう。」
ゼイゼイと荒い息をつきながら、ヘレナがセレイアに手を伸ばした。
「セレイア!!あんたのせいで!!能無しが!!許さない!!許さない!!」
真っ青になって小刻みに震えるセレイアをせせら笑い、カーティスが顎をしゃくった。
「王妃、随分怒らせたようだが何か無礼でも働いたか?」
「知らない……知らない……私は何も知らない……何も知らない!!」
呆然と呟いていたセレイアは、カーティスを振り返り睨みつける。
「私は何も知らない!!」
「………そうか。」
ニヤリとカーティスは嗤った。再び薬が流し込まれ、地下牢に絶叫が響き渡る。
「使節は2刻後にキロレスに出立する。お前達が最後まで丁重にもてなせ。」
立ち上がったカーティスに、メナードが震える声を投げかけた。
「………や、薬物中毒者の証言は、証拠にならない!」
「そうだな。」
「聴取調書は証拠にならない!」
「その通り。それで?」
「…………」
唇を震わせて睨みつけるメナードに、カーティスは昂然と顎をそらした。
「そもそも他国の大公を、我が国が裁く理由もない。証拠もない。」
「……ならなぜ……」
「もてなせ。そういったはずだが?」
「………」
「しっかりと目に焼き付けるといい。蔓延した薬物に侵される末路を。
二人とは今生の別れになるやもしれぬ。キロレス公国は薬物中毒者の証言も証拠となる。
知っていたか?証言に出てきた人物は入国制限がかかるそうだ。万が一名前が出るようなら、キロレスへは立ち入りできない。旅行も亡命も無理だろう。」
「………っ!?」
歯を食いしばったメナードを、目を細めてじっくりと睨めつけた。キリアンが持つ調書を、メナードが食い入るように見つめる。
「お前の言うとおり、我が国では薬物中毒者の証言は証拠にならない。
証拠がなければ法に照らし、裁くことはできない。法ではな。」
びくりと目を見開いたメナードに、薄く笑みをはいた。
「リース、大公と公女は定刻通り送り出せ。
予定通りツベリア領に500待機させている。襲撃には交戦を許可する。
非公式とはいえまだ大公。ダンフィル内で暗殺でもされたら責任を擦り付けられかねない。」
メナードが拳を握りしめ、カーティスはそれを嘲笑った。
「見送りはベルタングに任せる。最後まで見届けさせろ。」
「はい。」
「では、任せたぞ。」
皮肉げに片頬を吊り上げ、背後の絶叫と怨嗟に、笑みを浮かべながら、カーティスは地下牢を後にした。
「キリアン、調書と映像記録をまとめ3日以内にキロレスへ送れ。」
「はい。」
カーティスの嫣然と美しい横顔をチラリと見つめ、キリアンはため息を吐いて調書を握りしめた。とてもアルヴィナには話せない。
(多少は頭が回るメナードの退路は断った。セレイアは決して王妃の座を諦めはしない……)
そもそも法で裁く気など、カーティスは毛頭ない。
(むしろ法に照らして裁かれたほうが、その末路はまだマシだろう……)
青ざめて震えていたベルタングの二人を思い起こし、キリアンはこぶしを握りしめた。
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「カーティス、アルヴィナ妃が泣いていた。」
「………そうか。」
静かに夜を照らす月を見上げ、カーティスが口元に微笑みを刻むのを見つめた。
(カーティス。お前にはまだアルヴィナ妃がいるだろう……?)
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