壊れた王のアンビバレント

宵の月

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撒き餌 ★

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 白亜宮での執務を言い渡されてからも、カーティスの訪れは途切れなかった。カーティスはきっかり決まった時間に訪れた。

 薄闇の中で吐息が絡む。獣のような激しく深い抽挿も、いつからか苦しさから目が眩む快楽に成り代わった。

「ああっ!ああっ!カーティス……カーティス……どうかもうっ!」

 何度も執拗に快楽を覚え込まされた身体は、もう絶頂への欲求を我慢できなくなっていた。
 痴態を取り繕う余裕はなく、もっともっとと縋りねだる。
 薄く笑ったカーティスが、突き入れた楔を最奥で抉るように擦りあげらる。

 「ああっ!!」

 仰け反った身体を押さえつけ、何度も押し上げるように突きあげられる。下腹部からせり上がる快楽の波に、喘ぐ声すら失ってアルヴィナは肩に手を縋らせた。

 「あぁ……悦いぞ、アヴィー……もっとねだれ。私を締め付けろ……」

 情欲にギラつく瞳に、見据えられぞくりとアルヴィナは身体を震わせる。

 「あぁ……カーティス……カーティス……」

 昇り詰めるさまを見据えるアイスブルーを見つめたまま、アルヴィナは縋った肩に爪を立てた。

 「あっあっ!カーティス!ああっ!ああああーーー!!」

 深く抉るような抽挿の衝撃に、合わせていた視線が途切れた。限界まで膨れ上がった熱が弾けて、ふわりと浮かび上がるような快楽に真っ白に染まる。
 少し遅れて最奥に熱が叩きつけられ、もう一度身体が跳ねた。ゆらゆらとたゆたうように弛緩する自分の身体を感じながら、アルヴィナは目を開けた。
 汗に濡れたカーティスの身体がゆっくりとアルヴィナから離れる。隣に身体を投げ出したカーティスが、アルヴィナの下腹部をなでた。

 「アヴィー、ノーラの診察は受けているか?」
 「……はい。」

 背中から抱きすくめられていた、アルヴィナは顔を見ずにすむことに感謝した。

 「一日でも早く私の子を孕め。アヴィー、それがお前が最も優先すべきことだ。」

 甘く柔らかな声で囁かれる言葉は、アルヴィナにはどこか脅迫めいて聞こえた。肚を撫でていた手が、腰に巻き付き引き寄せられる。

 「……ああっ!」

 背後から熱くそり立つ楔が、予告なく突き入れられる。アルヴィナの狭い隘路は、快楽に蠕動しながらそれを受け入れた。
 ズリズリと膣壁を擦りたてられ、再びアルヴィナは快楽の波に引きずり込まれ、切なげに喘ぎを上げた。

 「アヴィー……アヴィー……」

 顔が見えないカーティスの肩口で囁く声が、ひどく優しく、切実に縋るようにも聞こえた。
 振り返りたくても抱きすくめられ、その表情を確かめることはできない。

 「カーティス……ああっ!あぁ……兄様……あぁ……」

 揺さぶられ続ける奥は昂り続け、吹き込まれる声の切なさに誘われるように、アルヴィナは喘ぎを溢した。

 「アヴィー……もうすぐだ……早く……」

 切実な身体の希求に惑乱し、囁かれる声がかつてのカーティスに重なる。それが現実なのかさえも分からないまま、懐かしい響きがアルヴィナを高める。

 「兄様……兄様……あぁ……兄様……」

 熱く濡れた身体が絡み合い、空が白むまで続いた深い結合に、アルヴィナが抱いた違和感は眠りの底に落ちていった。


※※※※※
 
 
 書類をパラパラと捲り、カーティスは顔を上げた。

 「白亜宮の庭園入り口に向けて、等間隔に通信魔石を増設しろ。……まぁ、進入まではしないだろうがな。」
 「はい。白亜宮のナイトメアですが、隔離の手配は……」
 「静観だ。」
 「陛、下……。あの……」
 「毛髪検査で判明だったな?そこまで深く洗脳状態なら問題ない。静観しろ。」
 「しかし……」
 「ノーラとマルクスは把握しているか?」
 「はい。ですが……」
 「ノーラとマルクスに手を出させるな。監視を徹底させ、逐次報告しろ。」
 「……アルヴィナ妃の安全に万全を期すのならば……」
 「静観だ。心配ない。奴らはアルヴィナを殺しはしない。」
 「………」
 「下がれ。」

 リースは何も言えず、礼をして退室した。知らずため息が溢れる。
 セレイアが騒ぎを起こしてから、カーティスは徹底して白亜宮への訪れの時間を統一している。まるで見せつけるように。

 (これでは撒き餌だ……)

 通常、暗殺や襲撃を難しくするために、動きを把握させないよう行動の固定はしない。それはカーティスも心得ているはず。王宮は盲目の寵愛などと噂しているが、明らかに狙った行動だった。

 (アルヴィナ様……)

 フォーテル公爵の訃報からすぐ、リースは直々の命を受け、彼女のリーベンでの監視の任に就いた。
 いつからか贖罪するかのような静かな日々を、心から見守る気持ちが芽生えていった。
 笑うこともなく、時々寂しげにダンフィルの方角の空を見つめる儚げな美しい姿。

 (幸せになっていただきたい)

 痛々しく傷ついた姿を長年見守り、ダンフィルへと連れ戻した時、リースは心から祈った。例えそれが難しいことだと分かっていても。
 現実に聞こえてくる噂は、予想していたよりも随分酷いもので、その度にあの儚げなアルヴィナの姿が蘇る。
 どれほど傷つき、打ちのめされていることか。国を見捨てた側妃。それでも見守り続けてきたリースは、アルヴィナを責める気にはなれなかった。

 (せめてキロレスは……なぜ待たれなかったのか……)

 リースの忠誠はカーティスにある。それでも非難めいた気持ちが湧き上がる。全てを終えてからアルヴィナを迎えれば、もっと心安く過ごせたはずだった。

 (王妃とは明らかに違うだろうに……)

 代償を求めるように追い詰め貶める。リースにはアルヴィナが、側妃としての尊厳を守るようには見えなかった。
 側妃としてではなく、ダンフィルに繋がる空を見上げていたあの少女が、哀しげに泣いているように見えた。
 カーティスの怒りに燃える瞳にはそれが見えていないようで、リースの心に不安を掻き立てる。

 リースは静かに歩き始めた。白亜宮でナイトメアの洗脳者が確認されたのに命令は静観。

 (陛下は何かを待っているようだ……)

 排除は許されないなら、徹底した監視をするのみだ。何も知らされず餌のように差し出されているアルヴィナに、せめて些細な危険も及ばぬように。

 (マルクス殿は果たして堪えてくれるだろうか……)

 重いため息を飲み込んで、騎士宮へと向かいながら、カーティスを襲撃しかねないマルクスを思った。


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