聖騎士様の信仰心

宵の月

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第二章 聖騎士様の復讐心

一人だけ有意義な休暇 ★

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―――ああ、神よ……僕は今最高に幸せです。

 有意義に休暇を満喫してるリュカエルは、美しい紫の瞳を細めて夢見るようにうっとりと微笑みを浮かべた。
 その笑みにゾクリと肌が粟立つのを感じて、アンナは熱く吐息を漏らして縋り付く。どこもかしこもドロドロに溶けてしまったように、自由にならずただもうずっと気持ちいい。

「リュカ……も……ダメ……もう無理なの……」
「ああ、トロトロだね……すっごいかわいい……大好きだよ、アンナ……」

 アンナの肌を辿る指は僅かな躊躇もなく、何度も何度も丁寧に暴き出したお気に入りを絶え間なく愛でている。
 リュカエルの指先に過剰に反応するようになってしまったあちこちが、どうしようもない熱を帯びてアンナを追い詰めた。

「やぁ……も、やだ……それ以上は怖いの……」

 火照って上気した目元に涙を浮かべ、もう本当に無理と窮状を訴えたアンナに、リュカエルは一瞬動きを止めて目の色を変えた。ダメな方に。
 宝物の感触を確かめるようだった手つきが、獲物を捉えて貪る肉食獣の不穏さを漂わせ始めるのを感じてアンナが震えた。
 ずっと出ていってくれない緩やかな芯を保っていたリュカエルが、はっきりと血管が浮き出るほど形態変化をし始めてアンナは泣き出す。

「リュカぁ……なんでぇ……もう無理なの……やだぁ」

 年上の威厳とか言っていなられなくなったアンナに、リュカエルは嬉しそうに笑った。

「駄々をこねるアンナ、かわいいな……」

 リュカエルのはちみつまみれの囁きに、アンナは視線をあげて青ざめた。さっきまで子犬だったのに、見下ろす視線は完全に肉食獣。
 獲物アンナを丸呑みにするタイミングを見計らう捕食者リュカエルは優しく髪を撫でながら、怯える獲物アンナを優しく宥めた。

「アンナがかわいくて、どうにもならないんだ。ごめんね。一緒におかしくなって? 僕がそっちに行くよ。アンナ……」

 燃えるように体温を上げた熱い肌を押し付けられ、アンナの最奥が歓喜するように引き上がる。駆け抜けた快楽に嬌声が漏れた。また右も左もわからなくなってしまう前に。アンナは最後の抵抗を試みる。

「リュカ……お願い……」

 細い細い最後の理性の糸に縋るような、アンナの懇願への返事はいつもと同じだった。

「アンナ、愛してるよ」
 
 とろりと甘い囁きでの最後通牒。脈打つ凶器はなんの躊躇いもなく、ぐずぐずに溶かされた隘路を擦りたて始める。抵抗どころか歓迎するように、アンナはずっと我が物顔で占領を続けている熱杭に絡みつき吸い付き始めた。
 眼裏に星屑が飛び散り、リュカエルにむき出しにされた神経が、逆撫でられたように刺激を拾い始める。

「やぁ! リュカぁ! やだぁ……!」
「ああ、アンナ……いい……すごい、いい……好き、アンナ……大好き……」

 隘路を擦られるたびにせり上がってくる快楽に、アンナがか細い悲鳴をあげた。その甘い声に舌なめずりしながら、リュカエルが掠れた睦言を何度も吹き込む。
 徐々に速度を上げる抽送に、アンナの唇からひっきりなしに、甘えたような嬌声がこぼれ落ちた。

「愛しているよ、アンナ」

 ―――僕は本当に幸せです。

 ふと頭によぎった祈り似た想いを最後に、リュカエルはなけなしの理性を進んで手放した。愛しくてたまらない体温を絶対に逃さないように閉じ込めて、味わうように深く穿つ。揺さぶるほどに深まる快楽に吐息をこぼしながら、心に浮かぶままに愛を囁きかける。

《……休暇を満喫しているな》

 リュカエルだけが。激しく軋む寝台の横に転がったまま、天井の模様を無心で数えていたアイギスが、疲れたようにため息をこぼした。


※※※※※


『……代行者よ、いい加減愛し子をベッドから出してやれ』

 結局活動限界を迎えるまでアンナは離さなかったリュカエルを、アイギスが咎めるように叱りつけた。

『あと、ゆっくり寝かせてやるんだ!』
 
 眠った後すら構い倒すのやめれ。髪を梳き撫で、愛を囁きまくり、あちこちにキス落とし、とにかく匂いを嗅ぐ。そんなん絶対ゆっくり寝れない。間違いなく悪夢を見る。気がすむまで構い倒してからやっと綺麗にしてもらえるのすごく不憫。舐め転がすように愛で、舐め転がし倒している。
 疲労を濃く浮かべて眠るアンナに同情のため息をつきながら、アイギスが軽蔑したように自重を増す。リュカエルが濡れ髪を拭く手と鼻歌を止めた。

「反省はしています。ですがアンナがかわいすぎるんです」

 しゃーしゃーと答えるリュカエルに、アイギスは呆れたようにカタカタと揺れる。

『せめて反省してるふりくらいはしたらどうだ。愛し子は抵抗し拒否し、懇願していた』
 
 我、見てた。アイギスの非難の声に、リュカエルは真面目な顔で頷いた。

「ずいぶん長く片思いしていたせいですね。正直まだ全然足りません」
『……なぜ遡って取り立てるのか……片思いの精算を愛し子に求めるな……』

 勝手に片想いしてたくせに。アイギスの疲れたような呟きに、リュカエルが眉を顰めた。

「……神が僕のアンナを寵愛しなければ、もっと早くアンナは僕のものだったんです!」
『は? 男として見られてもなかったくせに。なんでもかんでも神のせいにするな! いいか? 貴様がもっと早く子犬をやめて、変態の本性を剥き出していたら、いかな愛し子とてドン引きだ! 神の寵愛でブレーキがかかっていたから受け入れたまである! むしろ神に感謝すべきだ!!』
「そんなわけないでしょう。アンナはどうあっても僕のものになりました。大体僕は変態ではなく、ただ心からアンナが好きなだけです」
『貴様が変態じゃないなら、世の中に変態は存在しない! 貴様はどこに出しても恥ずかしい変態だ。いいか? 普通は愛しているからと言って、下着を盗んで自己処理を見せつけない。証拠が欲しいというのなら教えてやる! 貴様は暇さえあれば愛し子の匂いを嗅いでいるが、それこそが変態の所業だ。犬でも貴様ほど嗅いだりせん!!』
「……アンナのそばで許されることは、匂いを嗅ぐことくらいだったんです。手を出さずに匂いだけで我慢したことを褒めて欲しいですね」
『……褒める要素もないし、許されてもいないからな?』

 なんで許可とったみたいに言ってるのか。なんなら匂いを嗅ぐ許可を取ること自体がアウトだ。リュカエルはムッっとしたように眉を顰めるとアイギスを睨んだ。

「……アンナは気にしていないのでいいんです」
『……それはそうだろうよ……』
 
 長年ピッタリとくっついていた奴が、常に匂いを嗅いでれば気にもしなくなる。もうそういうもんだと思い込んでしまっている可能性すらある。匂い嗅ぐやつが変態じゃないわけないのに。
 長年かけて普通と思わせるほどの執着に、アイギスはもう口を閉じた。言っても無駄。アイギスが黙り落ちた沈黙に、階下の呼び鈴の音が響いて、リュカエルが立ち上がった。

「ギース?」

 小首を傾げながらシャツを引っ掛けるリュカエルに、アイギスが反論した。

『いや、そんなわけない』

 エリスコア家の執事、ギースが呼び出され用事を言いつけられたのが二日前。いくら優秀なエリスコア家の執事でも、あの注文をこなすのに二日は無理だ。

『我はたとえ生まれ変わっても、エリスコア家の執事にだけはならない……』

 リュカエルに運ばれながら、アイギスがキーンと高く鳴いた。急に呼びつけられ着くなり用事を言い渡されると、休む暇なくトンボ帰りして行った。アイギスは力強く決意表明した。性格悪くて人使いの悪い主人とか最悪すぎる。

「エリスコア家の賃金は王都最高額ですよ」
『……心の安寧は金で買えないのを知らないのか?』

 アイギスの憎まれ口を聞き流し、リュカエルは玄関扉を開けた。そこに立っていた人物に目を見開くと、ゆっくりと口角を引き上げる。

「……ああ、貴方ですか」

 リュカエルの瞳がゆっくりと不穏に色を濃くし、目の前に立つ訪問者を見据えた。

 ―――神よ、僕は幸せです。……ですがご存じでしたか?

「今か今かとお待ちしていたんですよ」

 愛想のいい美声を穏やかに紡ぎながら、リュカエルは笑みを深めた。

 ―――人の願う幸せに果てはないことを……

 ひんやり底冷えするように冷えていく空気に、アイギスはそっと屋敷をたずねてきた男を盗み見た。
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