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1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)
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僕は加奈を連れて演芸場通りを横切って反対側の路地を少し歩いた場所にある銭湯に行って男湯と女湯に分かれて入った。
入口の靴箱にサンダルを入れて番号が大きく書かれた木製の鍵を抜き取って、中に入り番台に座っているおじさんに280円払って、脱衣場で服を脱ぐ。
全部脱ぎ終わってロッカーを閉めた後、ゴムの付いた鍵を腕に巻き、石鹸シャンプー等を入れた洗面器を抱えて、洗面器を置く音や、湯を流す音が反響している浴室に入った。
浴室には白髪頭の老人、背中から腕にかけて刺青の入った痩せた中年の男の他に2、3人の先客がいた。
僕は洗い場に座り押して出る蛇口を押して湯を洗面器に溜めて体にお湯を掛けた後、頭と体を洗ってから湯船に浸かった。
季節が寒い時期になって来ると湯船に浸かった時、心も体もホッとして、本当に寛いだ気分になる。
僕も銭湯に来るのは何年振りかなので、こうして大きな浴槽にゆったりと浸かり高い天井を見上げていると、家の近所にいるのに少し何処か見知らぬ土地に来てしまった様な気分になった。
しっかりと肩まで湯の中に浸かり十分に暖まってから湯船から出て洗い場で洗面器の湯で体を流してから浴室を出た。
少し時間をかける為に脱衣場で少し体を冷ましたりしてから体を拭いてゆっくりと服を着ると僕は銭湯を出て前の道端で加奈が出て来るのを待った。
僕は暗い路上で白い息を吐きながら洗面器を抱え出入口に彼女の姿が見えるのを待っている内に何だかまるっきりフォークソングの世界そのものだなと感じた。
女湯の方から中年の女性が外に出て来て僕の前を通り過ぎて行った。
それから少ししてから加奈が出て来て出入口近くにある靴箱からサンダルを履いて僕の方に歩いて来た。
「お待たせ。結構待たせちゃったかな?」
洗面器を両手で抱える様にして持っている加奈が言った。
「いや、それほど待ってないよ」
僕は湯上がり姿の彼女を見て少しドキドキしながら言った。
僕らはお互い洗面器を抱えて、外灯の明かりがぽつぽつとあるだけの路地道を演芸場通りに向かって歩いた。
並んで歩いていると時々、彼女の首筋辺りから石鹸の香りが微かに漂ってくる。
「何かこんなフォークの歌があったよね?」
加奈が白い息で笑いながら言った。
「石鹸箱が音をたてて鳴るヤツ?」
「うん、そんな歌詞の歌」
「今の僕らはまさにその歌の歌詞通りだな。多分あの歌に出て来るには僕らはちょっと若過ぎる気がするけど」
僕は笑って答えた。
入口の靴箱にサンダルを入れて番号が大きく書かれた木製の鍵を抜き取って、中に入り番台に座っているおじさんに280円払って、脱衣場で服を脱ぐ。
全部脱ぎ終わってロッカーを閉めた後、ゴムの付いた鍵を腕に巻き、石鹸シャンプー等を入れた洗面器を抱えて、洗面器を置く音や、湯を流す音が反響している浴室に入った。
浴室には白髪頭の老人、背中から腕にかけて刺青の入った痩せた中年の男の他に2、3人の先客がいた。
僕は洗い場に座り押して出る蛇口を押して湯を洗面器に溜めて体にお湯を掛けた後、頭と体を洗ってから湯船に浸かった。
季節が寒い時期になって来ると湯船に浸かった時、心も体もホッとして、本当に寛いだ気分になる。
僕も銭湯に来るのは何年振りかなので、こうして大きな浴槽にゆったりと浸かり高い天井を見上げていると、家の近所にいるのに少し何処か見知らぬ土地に来てしまった様な気分になった。
しっかりと肩まで湯の中に浸かり十分に暖まってから湯船から出て洗い場で洗面器の湯で体を流してから浴室を出た。
少し時間をかける為に脱衣場で少し体を冷ましたりしてから体を拭いてゆっくりと服を着ると僕は銭湯を出て前の道端で加奈が出て来るのを待った。
僕は暗い路上で白い息を吐きながら洗面器を抱え出入口に彼女の姿が見えるのを待っている内に何だかまるっきりフォークソングの世界そのものだなと感じた。
女湯の方から中年の女性が外に出て来て僕の前を通り過ぎて行った。
それから少ししてから加奈が出て来て出入口近くにある靴箱からサンダルを履いて僕の方に歩いて来た。
「お待たせ。結構待たせちゃったかな?」
洗面器を両手で抱える様にして持っている加奈が言った。
「いや、それほど待ってないよ」
僕は湯上がり姿の彼女を見て少しドキドキしながら言った。
僕らはお互い洗面器を抱えて、外灯の明かりがぽつぽつとあるだけの路地道を演芸場通りに向かって歩いた。
並んで歩いていると時々、彼女の首筋辺りから石鹸の香りが微かに漂ってくる。
「何かこんなフォークの歌があったよね?」
加奈が白い息で笑いながら言った。
「石鹸箱が音をたてて鳴るヤツ?」
「うん、そんな歌詞の歌」
「今の僕らはまさにその歌の歌詞通りだな。多分あの歌に出て来るには僕らはちょっと若過ぎる気がするけど」
僕は笑って答えた。
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