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1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)
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「今日は思ってもみないお金が入って来た事だし晩御飯は何処かに美味しいものでも食べに行こうよ」
僕は隣を歩いている加奈に向かって言った。
「うん」
彼女は小さく頷いた。
「何か食べたいものとかある?」
「ワタシは恭介クンが食べたいものでいいよ」
「じゃあとりあえず何処か店を探そう」
僕が言って僕らは通りの人混みの中を周囲の看板や窓を見回しながら歩いた。
時々目についた店もあったりはしたけれどもはっきりとは決められないままサンシャイン60通りを抜けてしまって駅の東口に通じている大通りの大歩道まで来てしまった。
まだ6時を回ったばかりだし、周囲は無数の人々のざわめきと靴音で賑わっていた。
時々大通りを走る車の短いクラクションが聞こえて来た。
「まだ結構時間もあるし一度西口の方に行ってみようか」
僕は歩道をそのまま駅の方に向かって歩きながら加奈に聞いてみた。
「うん。ワタシはそれでも良いんだけど、でも多分あっちも何処も人が一杯なんじゃないかな」
「それじゃあ、どうしよう。十条まで帰ってあっちで焼肉でも食べる?」
「ワタシはその方がいいな。どうもこの時間の池袋を歩いてると昨日の事を思い出しちゃって。恭介クンには悪いんだけど」
加奈はそう言って少し泣き笑いの表情を浮かべた。
「そうか。だったら一度十条の方に帰ろう」
僕が言って、僕らは駅に向かって歩いて行った。
途中、駅前の交差点で信号待ちをしている時に何気無く振り返ってサンシャイン60を眺めてみた。
喧騒に溢れた地上から夜空に向かって突き出たその高い建築物の姿を見ている内に何故だか昨年の夏頃に上映されていた映画に流れていた音楽を思い出した。
戦争中の捕虜収容所でのクリスマスの夜のエピソードが映画のタイトルになっている映画だった。
その映画の中で流れていた切ない音楽を頭の中で思い出している内に、ふと目の前に高く聳え建っているビルがかつての巣鴨プリズンの跡地に建てられている事を思い出した。
「ねえ恭介クン」
信号が変わりかけた時、加奈が言った。
「うん?」
「ワタシがこの時代にいる間はずっとワタシの友達でいてくれててね」
彼女はそう言って僕の手をとって握った。
「いいよ、約束するよ」
僕は答えた。
信号が青に変わって僕らは手を繋いだまま横断歩道を歩いて渡り始めた。
僕ら二人は周囲を歩いている多くの大人達と比べれば頼り無く危うい存在かもしれないけれども、こうして二人でしっかりと手を繋いで離さない様にして歩いて行けば明日からの日々を何とか渡って行ける様な気がした。
僕は隣を歩いている加奈に向かって言った。
「うん」
彼女は小さく頷いた。
「何か食べたいものとかある?」
「ワタシは恭介クンが食べたいものでいいよ」
「じゃあとりあえず何処か店を探そう」
僕が言って僕らは通りの人混みの中を周囲の看板や窓を見回しながら歩いた。
時々目についた店もあったりはしたけれどもはっきりとは決められないままサンシャイン60通りを抜けてしまって駅の東口に通じている大通りの大歩道まで来てしまった。
まだ6時を回ったばかりだし、周囲は無数の人々のざわめきと靴音で賑わっていた。
時々大通りを走る車の短いクラクションが聞こえて来た。
「まだ結構時間もあるし一度西口の方に行ってみようか」
僕は歩道をそのまま駅の方に向かって歩きながら加奈に聞いてみた。
「うん。ワタシはそれでも良いんだけど、でも多分あっちも何処も人が一杯なんじゃないかな」
「それじゃあ、どうしよう。十条まで帰ってあっちで焼肉でも食べる?」
「ワタシはその方がいいな。どうもこの時間の池袋を歩いてると昨日の事を思い出しちゃって。恭介クンには悪いんだけど」
加奈はそう言って少し泣き笑いの表情を浮かべた。
「そうか。だったら一度十条の方に帰ろう」
僕が言って、僕らは駅に向かって歩いて行った。
途中、駅前の交差点で信号待ちをしている時に何気無く振り返ってサンシャイン60を眺めてみた。
喧騒に溢れた地上から夜空に向かって突き出たその高い建築物の姿を見ている内に何故だか昨年の夏頃に上映されていた映画に流れていた音楽を思い出した。
戦争中の捕虜収容所でのクリスマスの夜のエピソードが映画のタイトルになっている映画だった。
その映画の中で流れていた切ない音楽を頭の中で思い出している内に、ふと目の前に高く聳え建っているビルがかつての巣鴨プリズンの跡地に建てられている事を思い出した。
「ねえ恭介クン」
信号が変わりかけた時、加奈が言った。
「うん?」
「ワタシがこの時代にいる間はずっとワタシの友達でいてくれててね」
彼女はそう言って僕の手をとって握った。
「いいよ、約束するよ」
僕は答えた。
信号が青に変わって僕らは手を繋いだまま横断歩道を歩いて渡り始めた。
僕ら二人は周囲を歩いている多くの大人達と比べれば頼り無く危うい存在かもしれないけれども、こうして二人でしっかりと手を繋いで離さない様にして歩いて行けば明日からの日々を何とか渡って行ける様な気がした。
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