彼女の危機と何とか彼女を守りたかった僕の話

河内ひつじ

文字の大きさ
上 下
44 / 52
1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)

32

しおりを挟む
「ワタシがこの昭和の時代に置き去りにされてからとうとう丸一日が過ぎちゃった」

公園の真ん中の外灯に照らされた中で加奈が言った。

「そして明日もその次の日もきっとワタシはこの昭和の世界から抜け出せないままなんだろうね」

「...」

僕には何も言えなかったので黙っていた。

「もしずっとこのままだとしたら、お父さんとお母さんやお姉ちゃん達ともう会う事も出来ないし学校の友達とももう二度と会えない」

「ワタシはワタシを知っている人が誰もいない世界で1人で生きていかなきゃならなくなっちゃう。そんなの無理だよ!」

彼女の目が潤んでたちまち涙が溢れ出て頬を流れた。
僕は黙って彼女の肩にそっと手を置いた。
彼女は僕の胸に頭を押し付けて激しく泣きじゃくった。
僕は彼女の髪と肩に手を回してそっと抱きしめた。
僕には今の彼女に掛ける言葉が見つけられなかったし、それ以上は何も出来なかった。
そのまま5分か10分位の時間が流れた。

「このままだとワタシどうなっちゃうのかな?」

少し泣き止んできた時、加奈がしゃくりあげながら言った。

「こんな事を言っても慰めにはならないかもしれないけど、少なくとも君は今いるこの世界で全くの一人っきりなんかじゃない」

僕は彼女をそっと抱きながら言った。

「僕には何の力も知恵も無いかもしれないけど、僕は加奈ちゃんの為に出来る限りの事をするつもりだよ。
今の僕に言える事は例えどんなに先が見えなかったとしても希望だけは捨てちゃ駄目だと言う事だよ。
それだけは絶対に失わない様にしてしっかりと持っていなくちゃ駄目なんだよ」

僕は言って彼女の髪を優しく撫でた。

そっと触れているだけでも彼女の体は思っているよりもとても脆くて消えてしまいそうな気がした。

「うん。そうだね」

僕の胸に頭をつけている加奈が小さく言った。

「恭介クンが一緒にいてくれてるからワタシ何とか頑張る」

彼女は言って頭をあげ小さく微笑んだ。

「僕もベストを尽くして頑張ってみるよ」

僕も笑って言った。

「ワタシこの時代で最初に出会ったのが恭介クンで本当に良かったよ。決してお世辞なんかじゃ無くって」

「正直な事を言えば僕は加奈ちゃんに出会えた事は僕自信にとってはとても嬉しいんだよ。
僕らは本当は出会うべきじゃない2人だったとしても。
でも僕らの出会いはあまりに特別過ぎて何だか複雑なんだけど」

「そうだね。ワタシと恭介クンが一緒にいる事は本当は有り得ない事だもんね」

「でももし良かったら加奈ちゃんがこの時代にいる間僕と友達でいてくれるかな?」

僕は言ってみた。

「もちろん喜んで。だって恭介クン今のワタシのたった一人の友達だもん。もう色々と迷惑かけちゃってるんだけどもし良かったらこれからも友達でいてて欲しいな」

彼女は言って僕に手を差し出した。

僕と彼女は夜の公園の真ん中で握手を交わした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

金字塔の夏

阿波野治
ライト文芸
中学一年生のナツキは、一学期の終業式があった日の放課後、駅ビルの屋上から眺めた景色の中に一基のピラミッドを発見する。親友のチグサとともにピラミッドを見に行くことにしたが、様々な困難が二人の前に立ちはだかる。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

処理中です...