彼女の危機と何とか彼女を守りたかった僕の話

河内ひつじ

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1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)

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「ワタシ今はちゃんとお金持ってるから自分の切符は自分で買うよ」

僕が地下鉄丸ノ内線の切符券売機で切符を2枚買おうとすると後ろから加奈が言った。

「君が持ってるお金は今はとりあえず自分で大事に持っていた方が良いよ」

僕は言ってそのまま池袋迄の切符を2枚買って1枚を彼女に手渡した。

「君のお陰で僕の財布は今信じられない位分厚くなってるんだから、全然気にする事ないよ」

僕は言って改札の方に歩き出した。
2人で自動改札を抜けて階段を上がってホームに出た。

「地下鉄は駅員さんが切符パチパチやらないんだね」

加奈が切符を眺めながら言った。

「地下鉄は自動改札が多いからね」

僕は答えた。

「ワタシは切符をパチパチやって貰うの、あれやって貰う時に何だか緊張しちゃうんだよね」

「そりゃ将来は当然国鉄も自動改札になってるだろうからね」

「国鉄はJRって会社に名前が変わったんだよ。それにワタシはいつもPASMO使ってたから切符って殆ど買った事が無いんだよね」

「パスモ?」

「うん交通系ICカード。これにお金をチャージしておけば電車やバスに乗れてコンビニとかで買い物だって出来るんだよ」

彼女はそう言って僕にPASMOという灰色のカードを見せてくれた。

「へえ」

まあ33年も経てば世の中はいろいろと便利になっているんだろう。
何しろ彼女がいたのは(スマホ)があるような時代だ。
それにしても国鉄はJRって名前に変わっているのか。

「昭和の時は東京メトロは営団地下鉄って名前だったんだね」

加奈が言った。
そんな話をしている内に列車がホームに入って来て、僕らは開いたドアから車内に乗り込んだ。
ドアが閉まり列車が動き出すと、僕は吊革に掴まりながら、さて今日はこれからどうしようかと考えた。

「加奈ちゃんのお陰で大きな臨時収入が入ったからさ。今日はこれから池袋の何処かで美味しいものでも食べようよ」

僕は加奈に言ってみた。

「そうだね。今日は儲かったもんね」

彼女は微笑みを浮かべて言った。
彼女はその後吊革に掴まって目の前の窓の外をぼんやりと眺めながら彼女自身の物思いの中に入ってしまった。
恐らく今彼女が心の中に1人で抱え込んでいるモノはとても彼女1人では抱えきれないモノなんだろう。
彼女の今の状況と、取り合えずの今後の事を考えると彼女が、或いは彼女の為にはひとまずやらなければならない事が幾つかはある気がする。
でも僕は今日は取り合えずそんな事は束の間忘れてほんの少しでも彼女に楽しく過ごして貰って明日の事に備えたいと思った。
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