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1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)

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僕と加奈は覚めない興奮と喜びでじっとしていると落ち着かなかったので場内を何処に行くともなくただ歩いた。
歩いている内に東京競馬場の着順表示板を映したモニターに確定前ながら2着から4着迄の写真判定の結果が出て10、4、12、7、6と5着迄の到達順位が点滅していた。
1着10番カツラギエース、2着は1馬身半差で4番ベッドタイム、3着アタマ差で12番シンボリルドルフ4着はハナ差で7番マジェスティーズプリンスだった。
やがてレース確定のランプが点灯して払い戻し金額が表示された。

東京10レース ジャパンカップ払い戻し

単勝 10番 4060円

複勝 10番 680円 
    4番 210円 
   12番 250円

枠番連勝式 3ー6 8110円

僕は1枚が10万1500円になる馬券5枚を各階を次々に回って5回に分けて払い戻した。
加奈も昭和58年の(最後の100円ちゃん)で買った馬券を8110円に払い戻した。
全ての払い戻しが終わった後で場外馬券場の外に出た時には、目の前の後楽園球場の上空には既に夕暮れ近くの空が広がっていた。

「ワタシ達、急にお金持ちになっちゃったね」

加奈はそう言って愉快そうに笑った。

「これも全部君の確実な情報のお陰だよ」

僕も笑って言った。
つい2時間位前にこの後楽園に来た時には僕の所持金は聖徳太子の一万円札が1枚と伊藤博文と夏目漱石の千円札が2枚ずつ、それに小銭が少々だった。
それが一時的には千円と少しに減ったけれど、今は僕の財布の中は51万円近くの今まで持った事が無い金額の現金で分厚く膨らんでいる。
しかも50枚もの1万円札全てが僕が初めて手にする福沢諭吉だった。
僕らは再び後楽園ゆうえんちに沿った道を地下鉄丸ノ内線の駅に向かって歩いた。

「ねえ、恭介クン」

歩きながら加奈が言った。

「うん?」

「今、恭介クンの財布の中に白い千円札が入ってるよね?」

「白い千円札?ああ伊藤博文の事?」

「その白い千円札を1枚、ワタシの夏目漱石と交換して貰っても良いかな?」

「ああ全然構わないよ」

僕は自分の財布の中から1枚だけあった伊藤博文を抜き出して、彼女の差し出した夏目漱石と交換した。

「わあ、ありがとう!」

加奈は、はしゃいで受け取った伊藤博文の千円札をとても珍しそうに、しばらく眺めた後、それを大事そうに自分の財布の中にしまった。
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