上 下
22 / 52
1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)

10

しおりを挟む
福沢加奈がコーヒーを入れたカップを2つ盆に載せて居間に戻って来た。

「どうもありがとう」

僕は新聞を置いてカップを手に取りコーヒーを飲んだ。
僕らは再び束の間ののんびりとした時間の中で寛いだ。

「ちょっとその新聞読ませて貰ってもいいかな?」

彼女が言ったので僕は手元にあった新聞を彼女に差し出した。
彼女は新聞を手に取って、彼女にとっては33年前に起こった出来事が書かれている記事を熱心に読み始めた。
僕はコーヒーカップを手に、少し不思議な気がしながら彼女が新聞を読んでいる姿を眺めていた。
当たり前の事ながら僕には今後33年の間に世の中でどの様な事が起こるのか何一つわからない。
しかし今目の前にいる少女は少なくともある程度は僕の知らない歴史や出来事を知っている筈だ。
昨日の夜、彼女が見せてくれた(スマホ)は今後33年間の技術進歩がどれ程のモノかを現物で物語っていた。
今後世の中は一体どの様に変わって行くのだろう。
ふとそんな興味が湧いて来る。
今目の前の彼女の姿を見ている限りでは少なくとも今後33年の間に世界で全面核戦争が起こってしまう様な事は無いみたいだ。
僕は今、将来に起こる出来事を彼女に聞いてみる事が出来る状況にある。
だけど僕は彼女と違って1984年11月25日日曜日の朝を自然な時空の流れの中で生きている人間だ。
そんな僕が本来知る筈の無い、将来の出来事を知ってしまった場合、一体どういう事になるだろうかという得体の知れない不安もある。
例えばもし彼女が知っている彼女にとっての過去の出来事を将来僕が変えてしまったとしたら、それが一体どういう結果をもたらす事になるのか僕にはわからない。
そこには何と無く、ある種の危険の可能性が潜んでいる様な気がしなくもない。
でもやっぱり少し位は知ってみたいと云う衝動もある。

「ところでさ」

結局僕は思い切って話を切り出した。

「うん?何?」

彼女は新聞から顔を上げて僕を見た。

「今から33年後の世界では世の中がどんな風に変わっているのか少しだけ聞いてみたいと思ってさ」

「うーん、そりゃ色々あるとは思うんだけどさ。例えばどんな事?」

彼女はそう言ってコーヒーを一口飲んだ。
そう言われてみると、すぐには質問が思い付けなかった。
僕は慎重に質問を考えた。

「うーん、そうだな。例えば2017年にはアメリカとソ連の関係は一体どうなっているんだろう?」

僕は言いながら、多分この両国間の関係は30年以上経ったとしても、本質的には何も変わってないんだろうなと内心思っていた。

「ソ連?ソ連って昔のロシアの事だよね?
ソ連っていう国はワタシが生まれた時には、もうとっくの昔に無くなってたみたいだよ」

「えっ?そうなの?本当に?」

いきなり物凄い大スクープが飛び込んで来たので僕はとても驚いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

小説投稿サイトの比較―どのサイトを軸に活動するか―

翠月 歩夢
エッセイ・ノンフィクション
小説家になろう エブリスタ カクヨム アルファポリス 上記の4つの投稿サイトを実際に使ってみての比較。 各サイトの特徴 閲覧数(PV)の多さ・読まれやすさ 感想など反応の貰いやすさ 各サイトのジャンル傾向 以上を基準に比較する。 ☆どのサイトを使おうかと色々試している時に軽く整理したメモがあり、せっかくなので投稿してみました。少しでも参考になれば幸いです。 ☆自分用にまとめたものなので短く簡単にしかまとめてないので、もっと詳しく知りたい場合は他の人のを参考にすることを推奨します。

少女のモンタージュ

根本 九ツ
ライト文芸
あの人たちどうして付き合っているのだろう。 この子ならもっといい人がいるだろうに。 お互い妥協しあう恋人達。 傍からみると不思議な恋愛が世の中に溢れている。 この物語はそんな恋の物語。 彼の恋は傍から見れば異常だ。 彼の眼にはどう映るのか。 恋の終わりはハッピーエンドとは限らない。 ※計4万字程です。小説家になろう様と重複投稿をしています。こちらの方が一話先行して公開しています。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

地球のために

須賀マサキ(まー)
ライト文芸
夏休み直前に出された宿題に戸惑うハヤト。毎日を精一杯生きる中学生には、なかなか思いもよらないテーマだった。 宿題の行方を片隅におきつつ、ハヤトと仲間たちは中学二年の夏休みを、恋愛やバンド活動をして楽しく過ごす。 そしてひと夏を終えたとき、ハヤトの得たものとは?   ☆  ☆  ☆ ロックバンドのメンバーとその仲間たちを描いた「オーバー・ザ・レインボウ」シリーズの番外編です。 『あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて』でキーパーソンとなるハヤトを主人公にした話です。『あなたの……』の大きなネタバレを含んでいるので、未読の方は読後にお読みすることをお勧めします。

リリィエステートへようこそ!

楠富 つかさ
ライト文芸
 ここはリリィエステート。女性に優しい物件を多く取り揃えた、女性五人で切り盛りするほんの少しだけ変わった不動産屋さんである。  これは私、有働七瀬が初めての職場で悪戦苦闘しながら少しだけ成長する物語だ。

王太子殿下の小夜曲

緑谷めい
恋愛
 私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

処理中です...