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1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)

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僕らは改札出口に向かう人の流れに続いて改札を抜け、人でごった返している地下通路を地下鉄丸ノ内線の方に向かって歩いた。

「昨日の夜は一人っきりで、この辺りを宛もなくただ歩き回ってた」

加奈が無表情に行き交う人々を眺めながら言った。

「そうか」

僕はその時の彼女の心情を考えるとそれ以上は言えなかった。

「その時には、次の日の昼間にこの同じ場所を同じ歳のの男の子と一緒に歩いてるなんて想像も付かなかったな」

彼女はそう言って僕に向かって微笑んだ。

「実は僕も昨日君と同じ位の時間に一人で池袋に来てたんだよ」

「えっ、そうなの?」

「その時には次の日に、この場所を同じ歳の女の子と歩いてるなんて想像も付かなかった」

僕はそう言って彼女に向かって笑ってみせた。

「じゃあワタシ達、本当は昨日この池袋の何処かですれ違ってたのかもしれないね」

彼女はそう言ってくすくすと笑った。
僕はそんな彼女を見て、この子は笑うと本当に可愛いと思った。
丸ノ内線で切符を買い改札を抜けると僕らは既にホームに入線していた車両に乗り込んだ。
車内に入ると僕と彼女はホーム側とは反対側のドアの所に向かい合う様にして立った。
やがて発車ベルが鳴ってドアが閉まり列車は照明の列が続いているだけの地下トンネルの中へ走り出した。
列車が動き出すと僕はGパンの後ポケットに筒の様に丸めて差し込んでいたスポーツ新聞を取り出してジャパンカップの出走表を眺めた。
その間、加奈は闇の中に照明の列が規則的に流れて行く窓の外の光景をぼんやりと眺めていた。

「ねえ、競馬場の馬券ってワタシ達が行ってもちゃんと買えるのかな。大丈夫?」

「多分、大丈夫なんじゃ無いかな?」

特に根拠も無く僕は答えた。根拠は無いけど多分大丈夫だろう。
勿論、高校生は馬券なんて購入出来ない事になっているけれど、今の僕らはそんな事を言っていられる状況では無かった。
少し子供っぽい顔をしている彼女には確かにちょっと難しい気がするけれど、僕はもし誰かに何か言われたとしても大学生だと言い張れば何とかなりそうな気がする。

「そういえばワタシ後楽園球場ってテレビとかでも見た事が無い気がする」

列車が新大塚駅を出た頃に彼女が言った。

「長島さんの引退式の映像なんて2017年にはもうテレビに映ったりしないのjかな?」

「あっ,、あの長島さんが(不滅です)とか言うヤツ」

「そう、それ。あの引退式やってるのが後楽園球場だよ」

「そっか、あれが後楽園球場か」

彼女はそう言って納得した様に頷いた。
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