31 / 52
1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)
19
しおりを挟む
僕らは改札出口に向かう人の流れに続いて改札を抜け、人でごった返している地下通路を地下鉄丸ノ内線の方に向かって歩いた。
「昨日の夜は一人っきりで、この辺りを宛もなくただ歩き回ってた」
加奈が無表情に行き交う人々を眺めながら言った。
「そうか」
僕はその時の彼女の心情を考えるとそれ以上は言えなかった。
「その時には、次の日の昼間にこの同じ場所を同じ歳のの男の子と一緒に歩いてるなんて想像も付かなかったな」
彼女はそう言って僕に向かって微笑んだ。
「実は僕も昨日君と同じ位の時間に一人で池袋に来てたんだよ」
「えっ、そうなの?」
「その時には次の日に、この場所を同じ歳の女の子と歩いてるなんて想像も付かなかった」
僕はそう言って彼女に向かって笑ってみせた。
「じゃあワタシ達、本当は昨日この池袋の何処かですれ違ってたのかもしれないね」
彼女はそう言ってくすくすと笑った。
僕はそんな彼女を見て、この子は笑うと本当に可愛いと思った。
丸ノ内線で切符を買い改札を抜けると僕らは既にホームに入線していた車両に乗り込んだ。
車内に入ると僕と彼女はホーム側とは反対側のドアの所に向かい合う様にして立った。
やがて発車ベルが鳴ってドアが閉まり列車は照明の列が続いているだけの地下トンネルの中へ走り出した。
列車が動き出すと僕はGパンの後ポケットに筒の様に丸めて差し込んでいたスポーツ新聞を取り出してジャパンカップの出走表を眺めた。
その間、加奈は闇の中に照明の列が規則的に流れて行く窓の外の光景をぼんやりと眺めていた。
「ねえ、競馬場の馬券ってワタシ達が行ってもちゃんと買えるのかな。大丈夫?」
「多分、大丈夫なんじゃ無いかな?」
特に根拠も無く僕は答えた。根拠は無いけど多分大丈夫だろう。
勿論、高校生は馬券なんて購入出来ない事になっているけれど、今の僕らはそんな事を言っていられる状況では無かった。
少し子供っぽい顔をしている彼女には確かにちょっと難しい気がするけれど、僕はもし誰かに何か言われたとしても大学生だと言い張れば何とかなりそうな気がする。
「そういえばワタシ後楽園球場ってテレビとかでも見た事が無い気がする」
列車が新大塚駅を出た頃に彼女が言った。
「長島さんの引退式の映像なんて2017年にはもうテレビに映ったりしないのjかな?」
「あっ,、あの長島さんが(不滅です)とか言うヤツ」
「そう、それ。あの引退式やってるのが後楽園球場だよ」
「そっか、あれが後楽園球場か」
彼女はそう言って納得した様に頷いた。
「昨日の夜は一人っきりで、この辺りを宛もなくただ歩き回ってた」
加奈が無表情に行き交う人々を眺めながら言った。
「そうか」
僕はその時の彼女の心情を考えるとそれ以上は言えなかった。
「その時には、次の日の昼間にこの同じ場所を同じ歳のの男の子と一緒に歩いてるなんて想像も付かなかったな」
彼女はそう言って僕に向かって微笑んだ。
「実は僕も昨日君と同じ位の時間に一人で池袋に来てたんだよ」
「えっ、そうなの?」
「その時には次の日に、この場所を同じ歳の女の子と歩いてるなんて想像も付かなかった」
僕はそう言って彼女に向かって笑ってみせた。
「じゃあワタシ達、本当は昨日この池袋の何処かですれ違ってたのかもしれないね」
彼女はそう言ってくすくすと笑った。
僕はそんな彼女を見て、この子は笑うと本当に可愛いと思った。
丸ノ内線で切符を買い改札を抜けると僕らは既にホームに入線していた車両に乗り込んだ。
車内に入ると僕と彼女はホーム側とは反対側のドアの所に向かい合う様にして立った。
やがて発車ベルが鳴ってドアが閉まり列車は照明の列が続いているだけの地下トンネルの中へ走り出した。
列車が動き出すと僕はGパンの後ポケットに筒の様に丸めて差し込んでいたスポーツ新聞を取り出してジャパンカップの出走表を眺めた。
その間、加奈は闇の中に照明の列が規則的に流れて行く窓の外の光景をぼんやりと眺めていた。
「ねえ、競馬場の馬券ってワタシ達が行ってもちゃんと買えるのかな。大丈夫?」
「多分、大丈夫なんじゃ無いかな?」
特に根拠も無く僕は答えた。根拠は無いけど多分大丈夫だろう。
勿論、高校生は馬券なんて購入出来ない事になっているけれど、今の僕らはそんな事を言っていられる状況では無かった。
少し子供っぽい顔をしている彼女には確かにちょっと難しい気がするけれど、僕はもし誰かに何か言われたとしても大学生だと言い張れば何とかなりそうな気がする。
「そういえばワタシ後楽園球場ってテレビとかでも見た事が無い気がする」
列車が新大塚駅を出た頃に彼女が言った。
「長島さんの引退式の映像なんて2017年にはもうテレビに映ったりしないのjかな?」
「あっ,、あの長島さんが(不滅です)とか言うヤツ」
「そう、それ。あの引退式やってるのが後楽園球場だよ」
「そっか、あれが後楽園球場か」
彼女はそう言って納得した様に頷いた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
ヒロイン失格 初恋が実らないのは知っていた。でもこんな振られ方ってないよ……
ななし乃和歌
ライト文芸
天賦の美貌を持って生まれたヒロイン、蓮華。1分あれば男を落とし、2分あれば理性を壊し、3分あれば同性をも落とす。ところが、このヒロイン……
主人公(ヒーロー役、京一)を馬鹿にするわ、プライドを傷つけるわ、主人公より脚が速くて運動神経も良くて、クラスで大モテの人気ナンバー1で、おもっきし主人公に嫉妬させるわ、さらに尿漏れオプション持ってるし、ゲロまみれの少女にキスするし、同級生のムカつく少女を奈落の底に突き落とすし……、最後に死んでしまう。
理由は、神様との契約を破ったことによる罰。
とまあ、相手役の主人公にとっては最悪のヒロイン。
さらに死んでしまうという、特殊ステータス付き。
このどん底から、主人公は地獄のヒロインを救い出すことになります。
主人公の義務として。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
おにぎりが結ぶもの ~ポジティブ店主とネガティブ娘~
花梨
ライト文芸
ある日突然、夫と離婚してでもおにぎり屋を開業すると言い出した母の朋子。娘の由加も付き合わされて、しぶしぶおにぎり屋「結」をオープンすることに。思いのほか繁盛したおにぎり屋さんには、ワケありのお客さんが来店したり、人生を考えるきっかけになったり……。おいしいおにぎりと底抜けに明るい店主が、お客さんと人生に悩むネガティブ娘を素敵な未来へ導きます。
アラサー独身の俺が義妹を預かることになった件~俺と義妹が本当の家族になるまで~
おとら@ 書籍発売中
ライト文芸
ある日、小さいながらも飲食店を経営する俺に連絡が入る。
従兄弟であり、俺の育ての親でもある兄貴から、転勤するから二人の娘を預かってくれと。
これは一度家族になることから逃げ出した男が、義妹と過ごしていくうちに、再び家族になるまでの軌跡である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる