彼女の危機と何とか彼女を守りたかった僕の話

河内ひつじ

文字の大きさ
上 下
29 / 52
1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)

18

しおりを挟む
昼食の後、僕と加奈は午後1時過ぎに家を出た。
演芸場通りを国鉄十条駅の方に向かって歩き、池袋方面ホームの改札になる南口は演芸場通りとは反対側のホームの端にあるので僕らは踏切手前の狭い路地をホームの裏側に沿って歩いた。
今、僕の財布の中には虎の子の聖徳太子が1枚と千円札が4枚、五百円札が1枚と小銭が少々入っている。
今月初めに新札が出回る様になったけれど僕の財布の中にはまだ福沢諭吉の新1万円札が入った事が無かった。
後、2時間と少しに迫ったジャパンカップで50万円の配当を受ける事になったら初めて手にする福沢諭吉はかなりの人数になるだろう。
しかしそんな事は実際に手にする迄はまだわからない。
そう思うとそう思うと期待と不安、緊張と興奮で気分が昂る。
南口改札口の券売機で池袋までの切符を2枚買って1枚を加奈に手渡し2人で改札を抜ける。

「ワタシ駅員さんに切符パチパチやって貰うの初体験」

切れ込みの入った切符を珍しそうに眺めながら加奈が小声で言った。
すぐにホームの両端にある通りの踏切が順番に鳴り始め、赤羽方向から黄色い電車が入って来て僕らは車内に乗り込んだ。

「赤羽線って赤羽から走ってるの?」

電車が走り出してすぐに加奈が僕に訊ね
た。

「そうだよ」

ドアの脇に立って窓の外を流れて行く住宅を眺めながら僕は答えた。

「赤羽から何処まで?」

「終点の池袋まで」

「赤羽から池袋迄って途中2つしか駅無いじゃん」

「まあ、そうだね」

「ワタシの頃にはこの線は埼京線になってて行き先もずっと延びてたよ」

「うん、もうすぐそうなるみたいだね」

来春に埼京線が開通する事は僕も知っていた。
そんな事を話している内に電車は板橋駅に着いて、乗客の乗り降りの後すぐに出発した。
板橋駅を出れば電車はすぐに池袋の街並みに近付いてやがて繁華街が見えて来る。

「ねえ、ト〇コ風呂ってどういうの?」

西口近くの繁華街の景色を眺めていた加奈が突然あどけない声で言ったので僕は慌てた。
周囲の視線と耳がさり気なく僕ら2人に集まっているのを感じた。

「えっ、やっぱりソープランドの事なの?」

周囲の様子に気付いたらしい加奈が急に小声になって僕に聞く。
僕は無言で加奈に目で合図を送り、彼女を制した。(ソープランドって一体何だ?)
僕らは電車がホームに着いてドアが開くとそそくさとホームに出て出口に向かう人混みに紛れた。

※東京特殊浴場協会がトルコ人留学生の抗議を受け名称をソープランドに改称する事を発表したのは1984年12月19日の事。
それ以外にも新宿にあった(大使館)という店が電話帳に(トルコ大使館)と褐載されていた為に駐日トルコ大使館から抗議された事があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

金字塔の夏

阿波野治
ライト文芸
中学一年生のナツキは、一学期の終業式があった日の放課後、駅ビルの屋上から眺めた景色の中に一基のピラミッドを発見する。親友のチグサとともにピラミッドを見に行くことにしたが、様々な困難が二人の前に立ちはだかる。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...