彼女の危機と何とか彼女を守りたかった僕の話

河内ひつじ

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1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)

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僕の質問攻めが終わると、僕らは会話が途切れてしまい、福沢加奈は再び新聞に目を通し始めた。
僕は彼女に聞いてしまった事で受ける事になった衝撃の余韻が暫くの間収まらなかったけど、少し収まって来ると、さてこれからどうしようかと考えた。
しかしいくら思案を巡らせても何も思い浮かんでは来なかった。

「ちょっと、これ!」

新聞の紙面をじっと睨んでいた彼女が突然叫んだ。

「えっ?何?どうした?」

僕は聞いてみたけど、彼女は何も言わず暫くの間、難しい顔をして新聞の紙面のどこか一点をじっと凝視していた。

「40、1倍」

また彼女が唐突に叫んだ。

「40、1倍?」

僕は何の事だかさっぱりわからず聞き返した。
彼女は突然ソファーから立ち上がり、新聞を手にしたままテーブルの向かい側に座っていた僕の所にやって来た。
僕は彼女が突然、体がくっ付く位の所まで近寄って来たので思わずドキッとした。

「これ!このジャパンカップで勝つのはこの馬だよ!」

彼女は顔がくっ付く位の距離まで寄って来て全国紙のスポーツ面の下の方にある一点を指差した。
彼女が指していたのは今日の東京競馬場メインレース、ジャパンカップの小さな出馬表だった。
「えっ?」
僕は思わず彼女の指先に目を凝らした。
「ほら、このカツラギエースっていう馬!」
僕は新聞を手に取って小さく出ている出馬表をじっくりと眺めた。
スポーツ紙と違い、全国紙のスポーツ面に載っている競馬の出馬表には出走馬や前売り単勝オッズ等が簡単に記されているだけだ。
6枠10番カツラギエース(日本)
下の方に出ている前売り単勝オッズを見ると、この馬の単勝オッズは彼女の言う通り40、1倍となっていて、他の馬のオッズと比較してみると14頭の出走馬中10番目の人気だった。
「何でこの馬が勝つってわかるのかな?」
僕は彼女に聞いてみた。
「割と最近、偶然見た事があるから」
彼女は答えた。
「割と最近、偶然見た事がある?」
僕はよくわからなくて、そのまま繰り返した。

「ワタシの友達のお父さんが競馬好きらしくてさ」

彼女は話し始めた。

「で、その友達がお父さんに今までで一番思い出に残っている馬の名前を聞いてみたんだって」

「へえ」

僕は相槌を打った。

「そうしたらお父さんはカツラギエースって馬だって答えたんだって。まあ、その時は、へえって思っただけだったんだけど、そのあと、暇潰しにネットしてて何故だかその話を思い出しちゃってさ」

「なる程」

「何だか妙に気になったんでYOUTUBEでググってみたらこのジャパンカップってレースが出てきたんで観てみたらこのカツラギエースって馬が勝ってたんだよ!」

「要するに今日これからやるレースを実際に見たって言う事?」

彼女の話の中には(ゆうちゅうぶ)とか何とか、よくわからない部分があったけど一先ずそれは置く事にした。

「そうだよ!そう言う事なのよ!」

彼女が興奮気味に答えた。
僕も彼女が言わんとしている事がわかって思わず緊張と興奮が込み上げて来た。
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