彼女の危機と何とか彼女を守りたかった僕の話

河内ひつじ

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1984年(昭和59年)11月24日(土曜日)

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ようやく脱水が終わって脱水機の回転が止まると、僕は中の物を取り出して乾燥機の中に移し変え30分ぶんの100円硬貨を投入口に入れると再び椅子に座った女の子の前を通ってコインランドリーの外に出た。
また一度家に戻ってもう一度寒い外に出て来るのも面倒だったので、僕は外で時間を潰す為に演芸場通りから踏切を渡って十条銀座の中に入って行った。
もう11時を少し回っているので商店街の殆どの店はシャッターを降ろしていてまばらに歩いている人の足音だけがアーケードの中に響いていた。
僕は何処に行く宛も無く商店街の中を歩きながら、どうしてあの子はこんな時間にあんな所にいるんだろうと考えた。
家出でもして行く場所が無くてあんな所にいるのかも知れない。
だけどあんな寒い所で小さい椅子に座ったまま一晩を過ごすのは辛くて無理だろうし、当然コインランドリーの利用者や前を通りかかる人達には不審がられる事になる。
パトロール中の警察官が彼女を見れば当然事情を聞く事になるだろう。
いずれにしても、下手に関わったりすればロクな事にはならなそうだった。
僕は結局アーケードの中を端から端までを意味もなく歩き、それでも思ったより時間が潰せなかったので、また踏切を渡って演芸場通りに戻った。
銀杏座の路地を通り過ぎた所にある自動販売機で暖かい缶コーヒーを買って飲みながら時間が来るのを待った。
乾燥機が止まる時間が近付いて再びコインランドリーに向かって歩き出す。
時間はもう11時半近くになっていた。僕は彼女がまだコインランドリーの中にいるのかどうかが気になった。
コインランドリーに戻ってみると相変わらず彼女は顔を伏せたまま椅子に座っていた。
僕は三度彼女のすぐ前を通り抜けて既に止まっていた乾燥機の中から乾いた洗濯物を取り出してスポーツバッグの中に詰めていった。
彼女が不意に顔を上げて僕の方を見ているのに気付いた。
しかし僕は彼女の方にはなるべく視線を向けない様にして自分の作業を続けた。

「ねえ君、高校生?」

彼女が僕に向かって訊ねてきた。
多分僕の体操着に縫い付けてある2ーBと書いてあるネームを見て彼女はそう訊ねたのだろう。

「そうですけど」

僕は彼女の歳がはっきりとはわからなかったので敬語で答えた。

「ワタシも君と同じ高校2年生だよ」

彼女は言った。
彼女の顔を良く見てみると長い間、顔を伏せたままだったからか目が少し充血していた。
少し子供っぽくも見えたけど可愛い顔をしていると思った。

「そうなんだ」

僕は素っ気なく答えた。
「高校生が何でこんな時間にこんな所で洗濯なんかしてるの?」
彼女は更に聞いて来る。

「今、家の洗濯機が壊れてて。それに今日は家に僕一人しかいないから」

答えながら必要以上に正直に答えてしまったと思った。

「どうして家に誰もいないの?」

「父は仕事で名古屋にいるし、母は今、静岡の実家に帰ってる」

仕方なく僕は答えた。
彼女はなるほどというように無言で小さく頷いた。彼女はそれ以上は何も訊ねてこなかった。
その間に僕は洗濯した物を全部スポーツバッグの中に詰め終わった。
僕はバッグのチャックを閉めて肩に担ぎ、彼女に軽く会釈して彼女の前を通り、扉を開けた。

「あの、ちょっと」

扉の外に出ようとした時、彼女が椅子から立ち上がって僕を呼び止めた。
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