彼女の危機と何とか彼女を守りたかった僕の話

河内ひつじ

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1984年(昭和59年)11月24日(土曜日)

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国電の切符売場で切符を買い、駅員の入鋏を受けて改札を抜け赤羽線ホームへの階段を登り、既にホームに停車していた池袋と赤羽の間を往復している電車に乗り込んだ。
僕が乗ってすぐに発車ベルが鳴ってドアが閉まり電車が動き出した。
車窓の外を繁華街のネオンが流れ、その後平坦な土地にずっと住宅地が建ち並んでいる風景に変わった。
僕はドアの脇に立って外の景色を眺めるとも無く眺めていた。
池袋と赤羽の間には板橋、十条と途中駅は二駅しか無い。
電車が走り出してしまえば僕の家がある十条までは10分もかからない。
腕時計を見るともう八時を回っていたけど、今日の僕は帰る時間なんて気にする必要が無かった。
名古屋に単身赴任中の父はこの連休中には家に戻らない事になっていたし、母も静岡県の富士宮市にある実家に用があって帰っている。
だから一人っ子の僕はこの連休中は一人で家に過ごす事になっている。
電車が板橋に到着し、ドアから多くの人を吐き出して、何人かの乗客を乗せた後、再びドアを閉めて出発した。
それにしても腹が減った。
ドアの脇に立って外を眺め続けたまま、僕は思った。
家に誰もいないのは、たまには気楽でいいのだけれど、晩飯をどうするのかを考える必要があった。
考えている内に電車はすぐに十条駅に着いた。
電車を降りてすぐ正面にある北口改札を抜けてロータリーの脇を歩き、取り合えず十条銀座のアーケードの中に入ってみる。
アーケード内にはまだそれなりに人が歩いていて様々な音が反響していた。
パチンコ屋のドアが開いて人が出て来る時に店の中で台が玉を吐き出している、チンジャラチンジャララという音が聞こえて来た。
商店街の中を少し歩いて行けばいろんな惣菜を売っている店があったけれど、おかずを買って帰っても米を炊いて無かったので、まず米を炊かなきゃならない。
時間が掛かるし面倒臭いので外で適当に食ってから帰ろうかと考えてみる。
駅の近くに定食のメニューを大きな看板に掲げた食堂があるし、通りに出れば牛八もある。
他だとラーメンは安くても350円位はするけれど、篠原演芸場近くの中華屋は一杯280円で食べられる。
いろいろ考えたけど、結局コンビニで弁当を買って帰る事にした。
商店街を途中で右に曲がって踏切を渡り幅の狭い道の両側に小さな店はずっと並んでいる演芸場通りを演芸場に向かって歩く。
途中の右の路地を入って十条銀杏座のアーチ型のネオンの手前にあるサンチェーンで弁当を買い、再び通りに戻って歩いた。
篠原演芸場の近くの路地を入って少し行った所に僕の家はある。
何の変哲も無い2階建ての一軒家だ。
鍵を開けて誰もいない家の中に入り電気を点ける。
とりあえず、居間に入り荷物を置くと僕はソファーに身を沈めてぐったりとした。
連休中の一日が何も無いままに、何だか無為の内に終わった様な気がした。
...

(牛八 かつて十条にあった牛丼屋)
(十条銀杏座 1985年頃まであった映画館)
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