STAY GOLD(黄金旅程)/その他の短編

河内ひつじ

文字の大きさ
上 下
4 / 35
STAY GOLD(黄金旅程)

STAY GOLD(黄金旅程) 4

しおりを挟む
僕と杏子センパイは車内に入ると自由席の2人掛けシートに並んで座った。

「ところで仁クン、今新聞の前売りオッズを見てて思ったんだけど」

列車が発車して田園地帯の中を走り出してしばらく経った頃センパイが口を開いた。

仁クンが買うって言ってた6点馬券だけどこれ8ー14、12ー14だと、もし的中したとしても配当が6倍も付かないよ?」

「それでもその組合せは外せないと思うんですよ」

僕は答えた。

昨晩、出馬表に出ているデータとネットで検索出来た情報だけを頼りに初めて競馬のレース予想をしてみた結果、初めはゴールドシップとフェノーメノの馬番連勝馬券7ー8だけを買ってみようかと思った。

確か前日のオッズでは18倍位だったと思う。

しかしどうにも自信が持てなかったので、結局は実績、人気が共に上位の4頭の馬を馬番連勝のボックスで買う事にした。

一度は7ー8の一点買いに決めようかと思った理由はこの2頭の馬が共にステイゴールド産駒で今がゴールデンウィーク中だという実は杏子センパイと同じ発想からだった。

しかし僕の場合はネットで検索してみた2頭の馬の父親であるステイゴールドという馬の現役時代のエピソードが中々興味深いものだったと言う理由もあった。

ステイゴールド...現役時代、レースでは善戦する事が多かったが中々勝つ事が出来ず、重賞レースに勝つ事が出来たのはデビュー5年目、29連敗を続けた後の38戦目に挑んだ目黒記念が初めてだった。

更に時を経てデビューから50戦目、海外での引退レースとして、香港ヴァース(国際G1)に出走してこのレースで優勝、20回目の最後のG1挑戦で悲願の勝利を納めて現役生活を終えた。

種牡馬になってからは史上7頭目の3冠馬で昨年の有馬記念で後続に8馬身差の圧勝劇を演じて引退したオルフェーブルや今日の天皇賞に出走するゴールドシップやフェノーメノ等これまでに8頭のG1馬を輩出している。

ステイゴールドが最後のレースに出走した時、香港、沙田(シャンテン)競馬場でステイゴールドの馬名は(黄金旅程)と紹介された。

...

僕とセンパイはしばらくの間列車に揺られながらそれぞれの想いに浸っていた。

「ところで仁クンさあ」

不意にセンパイがそう言って意味ありげな笑みを僕に向けた。

「君が今夢中にあのコの事、君はこれからどうするつもりなのかな?」

そう言って興味津々な表情で僕の顔を覗き込んだ。

「どうするって、別にそんな事は何も考えて無いですよ」

僕は急にそんな事を聞かれて困ったのでそう答えた。

「ふうん、そうなの」

センパイはつまらなそうな顔をして再び手にしたスポーツ新聞の方に視線を戻した。

「でもさ、仁クン」

「えっ?」

「出来るだけの事を精一杯やってその結果駄目だったのと、何もしないままにそのまま駄目になっちゃうのはまるで全く違う事なんだよ」

新聞に目を向けたまま、何気無い調子でセンパイは言った。

「本当にそのコの事が好きなんだったら、何だかんだ理由付けたりして、何時までもグズグズしてない方がワタシは良いと思うよ」

「...」

僕は何て答えていいかわからなかったので黙っていた。

僕らの乗った特急列車は千葉駅を出発すると千葉西部の市街地を走り抜け江戸川を渡って東京都内に入り、更に荒川を越えるとやがて錦糸町駅に停車した。

僕とセンパイはここで列車を降りた。

ホームに降り立って北の方角にはスカイツリーがかなり近くに見えた。

僕らは人の流れの中を階段を降り改札を抜けると南口の方に歩いて行った。

外に出るとゴールデンウィーク中、晴天下の駅前広場は人でごった返していた。

僕らは広場から通りを隔てて見えているWINS(場外馬券場)のビルに向かって歩いて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

カンナの選択

にゃあ
ライト文芸
サクッと読めると思います。お暇な時にどうぞ。 ★ある特別な荷物の配達員であるカンナ。 日々の仕事にカンナは憂鬱を抱えている。 理不尽な社会に押し潰される小さな命を助けたいとの思いが強いのだ。 上司はそんなカンナを優しく見守ってくれているが、ルールだけは破るなと戒める。 しかし、カンナはある日規約を破ってしまい、獄に繋がれてしまう。 果たしてカンナの選択は? 表紙絵はノーコピーライトガール様よりお借りしました。 素敵なイラストがたくさんあります。 https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...