STAY GOLD(黄金旅程)/その他の短編

河内ひつじ

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卒業

その4 卒業 5

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県立鷹野高校入学式の日、僕は自分と同じ新入生の中に5年前、美奥温泉郷で1度だけ見かけた事のある女の子の姿があるのを見つけた。

もちろん、彼女はまだ子供だった5年前とは違いむしろ周りよりも大人っぽく見える位の少女に変貌を遂げていた。

僕が真新しい制服に身を包んだ彼女の姿を見つけた時、彼女は同じ中学出身らしい2人の女子と一緒にいたのだけど、彼女だけは生徒で溢れている周囲を見渡しても、一際目を引く容姿だったので僕は一瞬で彼女が5年前のあの時の女の子だった事に気付いた。

入学式の後、何日か経ってわかった事だが彼女の名は久々原(くぐはら)綾といった。

高校生になった僕は毎朝自転車に乗って家を出てローカル線の駅まで行き、そこから山北本線の鷹野駅まで気動車やデイーゼル機関車が引く客車に乗って学校に通う様になった。

僕は高校でも陸上部に入り中距離を専門にした。

部活でずっと陸上の中距離を選んでいるのは単純な理由からだ。

グランドや外を走っている間だけは、いろんな煩わしい考え事からとりあえず逃げ続ける事が出来るからだ。

一方、久々原綾は音楽部に所属し、よく音楽室でピアノを弾いていた。

結局、僕は高校の3年間を通じて、久々原綾とはずっとクラスも違っていたし、言葉を交わした事すら一度も無かった。

もちろん3年もの歳月を同じ校舎の中で過ごして来たのだから、そういう機会を得ようと思えばいくらでもそう出来ただろうと思う。

正直な所を言えば僕は3年もの間、彼女と面と向かって言葉を交わす機会が訪れる事を何と無くずっと避け続けて来た。

それでいながら僕は3年間、久々原綾の事がずっと気になり続けていた。

僕が校内で彼女の姿を見かけた時、彼女は大抵何人かのクラスメートと一緒にいる事が多かった。

彼女は容姿が良くて成績もかなり良く、それでいて性格は控え目でありながら、分け隔てなく誰にでも気さくに接するので、周囲の誰もが彼女には好感を持っていたと思う。

しかし僕にはいつも静かに慎ましい笑みを浮かべている彼女の表情の中に、時折孤独の影が潜んでいる様に感じる事があった。

そして彼女の周囲の彼女に対する視線や表情の中に度々何か特別なものが微かに感じ取れる気がした。
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