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海が見える喫茶店と銀行強盗の話

その3 海が見える喫茶店と銀行強盗の話 1

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僕は小学校が休みの土曜日の午後、一人で街に出てまず本屋に入り本屋を出た後、アーケード商店街の中を駅前の方に向かって歩く。

アーケードを出て視界が開けると1月の冬空は曇っている。

厚い雲に覆われた寒々しい空の下に広がるいつもより薄暗い町並みは僕の気分をより一層暗くさせた。

小学4年の今年2学区初めに東京の小学校から、この瀬戸内海に面した青海市内の今の小学校に転向して来てから、もう4か月以上経つけれど、僕は新しい学校生活にまだ上手く馴染めないでいる。

僕は前の学校でもどちらかと言えば目立たない生徒だったかあら、それ程クラスに馴染んでいた訳では無かったけれど、今の学校に来て当初の転校生と云う目新しさが消えてからは、孤立まではしていないとしても大抵の時間は周囲から忘れ去られていた。

僕は学校の休み時間とかには図書館で過ごす事が多く、放課後や休みの日には市役所の近くにある市立図書館に行く事が多かった。

ネットもそうだけど、図書館には学校のクラスメイト達があまり話題にしない事やまだ授業では教えられていない事、或いは恐らく教えられる事が無いだろうと思える事柄や知識について書かれた本が館内に溢れている。

そこには10歳の僕にとっては、かなり衝撃的な社会の現実の姿があったりもした。

僕はそう言ったいろんな物事を本を通じて知る内に、社会正義だとか人生の価値観だとか云ったものは、他人が言っている事や教えられた物事だけで判断したり理解するものでは無い気がした。

それに図書館はずっと一人きりで過ごしていても不自然では無い所で僕にとっては居心地の良い場所だった。

今日も他には行く所も思い付かないので駅前通りを図書館のある市役所方向に歩いて行った。

「吉岡クン!」

銀行の前を通りかかった時、駐車場の方から僕の名前を呼ぶ若い女の人の声が聞こえた。

振り向くと駐車場に停めた赤いトヨタ ヴィッツの所に担任の渡辺センセイが手を振っていた。

「こんな所で一人で何しよるん?」

渡辺センセイが僕に向かって聞いた。

「これから図書館に行く所です」

僕は答えた。

「一人で?」

「ええ」

僕は頷いた。

「ふうん、そうなん」

渡辺センセイはそう言った後、腕時計をチラリと見た。

「あんな吉岡クン、先生アンタに前から話したい事があったんよ」

「僕にですか?」

僕は少し驚いて聞き返した。

「そうじゃ。じゃけん吉岡クン、これからちょっと先生に付き合わん?」

「これからですか?」

「そうじゃ。ちょっと位じゃったらええじゃろう?」

「まあ、いいですけど」

断る理由が無かったので僕は頷いた。

「じゃったら、ちょっと先生の車に乗りんさい」

僕は言われた通りにセンセイのトヨタヴィッツに乗り込んだ。

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