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いちご白書を一度
その2 いちご白書を一度 3
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午後4時半を少し回った頃、駅から通りの方に向かって伸びている細い道をジャージから私服に着替えた市原朋子が自転車に乗ってこちらに走って来るのが見えた。
私服姿の彼女を見るのは初めてだった僕は少しドキッとした。
「お待たせ。結構待った?」
自転車を停めてこちらにやって来た市原が言った。
「いや、そんなにでもない」
僕が答えた。
待合室の中はまだ少し熱気が籠っていたので僕ら2人は待合室を出てホームで電車を待つ事にした。
ホームに出てみるとひらがなで駅名が書かれた柱のプレートやホームに立てられた駅看板等が駅舎同様に相当長い年月を経たもので何だか昔の映画の場面に出てくる駅が少し小振りになった様な感じだった。
ホームと線路の向かい側には今は使われなくなった列車交換の為のホームと線路の跡が草に覆われ朽ち果てた姿で残っている。
何でもこの軽便鉄道は昔、10年位前まではずっと北の方にある別の町まで延びていたらしい。
ホーム下のレールが撤去された跡には生い茂った草の中に何故だか古タイヤが等間隔で並べて置かれていた。
「来たよ」
市原が言って、彼女の視線の先を見ると町の方角から、白い車体に赤いラインの入った1両だけの小さな旧型電車が、幅の狭い線路の上をコトコトと小さく揺れながらこちらに近付いて来るのが見えた。
電車がホームに入って来て停まり、開いた扉から乗り込んでみると、がらがらに空いているにも関わらず少し窮屈さを感じさせる狭い車内は、この電車の小ささを外から見るよりもより一層実感させる。
僕と市原朋子が車内に乗り込むと、運転士が音の出の悪いブザーを短く鳴らして扉を閉め、電車は唸る様なモーター音を上げながら再びゴトゴトと動き出した。
車内には運転席でレバーを握っている運転士の他には、小柄なお婆さんが一人と小さな男の子を連れた中年の女性が乗っているだけだった。
僕と市原はロングシートの席に並んで座った。
通路が狭く向かい側のロングシートの斜め前に座っているお婆さんとの距離がかなり近く感じられ、お婆さんの後ろの窓の外を流れて行く古い住宅地の景色も間近に迫って見えた。
この町に転校して来る前は、大阪と京都を結んでいる私鉄沿線に住んで電車に乗っていた僕にとっては随分物珍しい車内風景だった。
「ウチ、この電車乗るの久し振りじゃわ」
僕のすぐ隣で市原が言った。
「まるで遊園地の中を走っている電車を少し大きくしたみたいだ」
僕は思っていた事をそのまま口にした。
線路は半島の山の麓まで来ると左に大きくカーブを描き、ひっそりとした場所にある短いホームだけのまるで路面電車の停留所の様なホームに停まり、誰も乗せる事も降ろす事も無く再び出発した。
その後電車は山に沿った緩やかな勾配を大きな唸りをあげながらガタゴトと登って行った。
しばらくすると窓の外にくっきりした青さの瀬戸内海が見えて来て眼下には僕らが今暮らしている町が見下ろせた。
町の沖には小さな三角垂の形の島と鯨の形をした島が見えた。
私服姿の彼女を見るのは初めてだった僕は少しドキッとした。
「お待たせ。結構待った?」
自転車を停めてこちらにやって来た市原が言った。
「いや、そんなにでもない」
僕が答えた。
待合室の中はまだ少し熱気が籠っていたので僕ら2人は待合室を出てホームで電車を待つ事にした。
ホームに出てみるとひらがなで駅名が書かれた柱のプレートやホームに立てられた駅看板等が駅舎同様に相当長い年月を経たもので何だか昔の映画の場面に出てくる駅が少し小振りになった様な感じだった。
ホームと線路の向かい側には今は使われなくなった列車交換の為のホームと線路の跡が草に覆われ朽ち果てた姿で残っている。
何でもこの軽便鉄道は昔、10年位前まではずっと北の方にある別の町まで延びていたらしい。
ホーム下のレールが撤去された跡には生い茂った草の中に何故だか古タイヤが等間隔で並べて置かれていた。
「来たよ」
市原が言って、彼女の視線の先を見ると町の方角から、白い車体に赤いラインの入った1両だけの小さな旧型電車が、幅の狭い線路の上をコトコトと小さく揺れながらこちらに近付いて来るのが見えた。
電車がホームに入って来て停まり、開いた扉から乗り込んでみると、がらがらに空いているにも関わらず少し窮屈さを感じさせる狭い車内は、この電車の小ささを外から見るよりもより一層実感させる。
僕と市原朋子が車内に乗り込むと、運転士が音の出の悪いブザーを短く鳴らして扉を閉め、電車は唸る様なモーター音を上げながら再びゴトゴトと動き出した。
車内には運転席でレバーを握っている運転士の他には、小柄なお婆さんが一人と小さな男の子を連れた中年の女性が乗っているだけだった。
僕と市原はロングシートの席に並んで座った。
通路が狭く向かい側のロングシートの斜め前に座っているお婆さんとの距離がかなり近く感じられ、お婆さんの後ろの窓の外を流れて行く古い住宅地の景色も間近に迫って見えた。
この町に転校して来る前は、大阪と京都を結んでいる私鉄沿線に住んで電車に乗っていた僕にとっては随分物珍しい車内風景だった。
「ウチ、この電車乗るの久し振りじゃわ」
僕のすぐ隣で市原が言った。
「まるで遊園地の中を走っている電車を少し大きくしたみたいだ」
僕は思っていた事をそのまま口にした。
線路は半島の山の麓まで来ると左に大きくカーブを描き、ひっそりとした場所にある短いホームだけのまるで路面電車の停留所の様なホームに停まり、誰も乗せる事も降ろす事も無く再び出発した。
その後電車は山に沿った緩やかな勾配を大きな唸りをあげながらガタゴトと登って行った。
しばらくすると窓の外にくっきりした青さの瀬戸内海が見えて来て眼下には僕らが今暮らしている町が見下ろせた。
町の沖には小さな三角垂の形の島と鯨の形をした島が見えた。
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