イクリプスサーガ

紫眞

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第2章

2-23 現状整理回! しかしヒーロー少女は空気!

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 西連寺宅にて。
 激しい戦いを終え、身も心も疲れきった桜達は、とりあえず夕食を取ってから話し合いをしようという方向に纏まり、夕食を食べた。
 今日の夕食は優人のお手製コロッケに、野菜の盛り合わせと大根の味噌汁だ。桜がたくさん食べるせいか、つい先程居候することになった空の分まできちんと夕食が用意されていた。……その分、今日のお代わりはいつもより少なくなったのだが。
 その後、兄の優人が自室へ戻ったのを確認した後、三人はリビングの机に集まり、話し合いを行っていた。

「……なるほどね。つまり、私は『ジョーカー』を殺して神になる権利を与えられた参加者ピューパってのになっちゃったわけか……」
「まぁ、簡潔に言うと、な。お前は普通なら参加者ピューパとして己の力を高め、ジョーカーを探し出し、殺さなければいけない。使徒ヴォイドにもよるが、やる気のないものを『間引き』するやつも、『拷問』する奴もいる。……それほど、奴らはこのゲームに賭けているんだ」
「ッ……。なに……それ……」

 空は冷静を装いつつも、その言葉の端々に焦りを滲ませながら言葉を紡ぐ。その様子に、桜は空の背中を擦りながら、二人の会話を黙って聞いていた。
 ここで口を出して空を慰めることは簡単だ。しかし、言葉だけでは救えないことを、桜は知ってしまった。空も、そして自分も、今置かれている現状をしっかり把握しなければ。把握した上で、空にはこれからのことを選んで欲しいと、桜は思っていた。
 なので、今はショックを受けている空に、桜は何も声をかけなかったのだ。
 そして、空がショックで何も言えないでいると、唐突に雪月が口を開いた。

「……お前は幸運な方だ。西連寺桜に助けられ、普通の参加者ピューパの枠から逸脱したのだから」 
「え……。いつ、だつ……? それってどういう……?」
「そのままの意味だ。桜がお前を助ける『望み』を口にしたから、俺はそれを叶えられるよう最善を尽くしている。だからお前と契約した使徒ヴォイド……ナイトメアとの繋がりを絶った。つまり、お前は無理してジョーカーを殺して神になろうとしなくてもいいってことだ」

 雪月の言葉に、空は目を大きく見開く。そして、段々雪月が言った言葉を理解していったのか、ホッと息を吐き、肩の力を抜いた。

「そう……なんだ。よかった……。じゃあ私は桜のやりたいことを全力で手助けするだけでいいってこと?」
「まぁ、そういうことになるな。さて、これまでの説明でなにか質問は?」

 雪月の言葉に、空は顎に手を当ててしばらく考え込む。だが、すぐに顔を上げ、雪月を訝しげに見つめ、質問を口にした。

「じゃあ君って結局なんなのか教えてよ。ナイトメアがチラッと言ってたけど、普通の使徒ヴォイドじゃないんでしょ?」

 空の質問に、雪月は少し渋い顔をする。しかし、直ぐにいつもの無表情を作り、平坦な口調で空の質問に答え始めた。

「そうだな……。ナイトメア達の役割が参加者ピューパを選別することなら、俺の役割はこのゲームを管理すること、だな。そして、俺の役割のことを管理者……フィクサーと呼ぶ」
「フィクサー……ね。でもウィングキルって聞いてる限り神様が管理してるゲームっぽいんだけど?」
「ははっ。まぁ、そう思うよな。だが、神は傍観者を好む。お前ら人間が苦悩する様を眺めるのが好きなんだよ。……そして、俺ら使徒ヴォイドでさえも、神にとっては玩具だ。だから毎回ゲーム事に管理者フィクサーを作り、自分はただ見ていることだけに徹する」

 空の的を射た質問に、雪月は自嘲気味に笑う。そして徐に桜の方を向き、目を細め、複雑な表情を向けた。

「……だから。正直今でも信じられない。あの神が。例え俺の体を借りてだとしても、お前の前に現れたことが」
「ふえっ? えっ。そなの? めっちゃナルシストで話好きな感じしたんだけど……」
「あー。まぁ間違いではない。だが何分性格が……な。自分が関わって変化をもたらすより、人間同士の醜い争いが好きなんだよ」
「えぇー。なんか神様なのに人間っぽいね。変なの!」
 
 桜の言葉に、雪月は苦笑いを浮かべ、曖昧な笑みを返す。しかし、すぐに空に視線を移し、説明を続けた。

「さて、じゃあ次に『異能スキル』について話そうと思う……と、その前に」

 雪月はそう言いながら、自身の影からそれ以上の大きさの脚付きホワイトボードと、ボードマーカーを取り出す。
 突然の出来事に、空は目を見開き驚く。桜はと言うと、驚きも確かにあったが、それ以上に、雪月君の影って便利道具入れなのでは? と、斜め上のことを考えていた。
 桜と空が驚いている間に、雪月はホワイトボートにこれまで説明したことのまとめを書く。それはとても分かりやすく、桜は思わず、雪月君って先生の才能あるよね。と、感心したほどだった。

「これでいいか。待たせたな。次は郡空の異能スキルについてだったな。って言っても、郡自体は知ってると思うが」
「あーうん。一応ね。異能スキル? ってのを貰った時に、勝手に脳に流れ込んできたよ。確か……『何でも切れる大鎌を作り出す異能』だよね?」
「あぁ、間違ってはいない。……ふむ、じゃあ軽く触れる程度の説明をするが、まず、郡空の異能スキルはお前の言う通り『なんでも』切れる。例えばとんでもなく硬い岩も、高層ビルさえも豆腐のようにスパッと切ることが出来る」

 雪月の言葉に桜は口をあんぐり開け、驚愕する。そして、空の大鎌って切れ味抜群だったんだ!? よく生きてたな私! と、桜は今更ながらに自身の生存力に感心していた。
 しかし、桜のそんなツッコミなど露知らず、雪月と空は真面目な顔で話を続ける。

「成程ね。シンプルだけど強そうな異能スキルだね」
「……だが、お前の異能スキルの真の力はそんなものでは無い。お前の異能スキル……『存在否定デリートトリガー』。この異能スキルはありとあらゆるものを否定し、切り裂く。……当然、相手の異能スキルを斬ることも可能だ」
「はぁ!? それって相手の異能スキル消しちゃうってこと!?」
「あぁ。そうだ。郡空の異能スキルは正直、可能性を秘めすぎていて俺でも把握しきれないが……異能スキルが進化すればするほど何でも斬れるようになるだろうな。異能スキルを斬れるとは言ったが、あまりにも強すぎる異能スキルは現時点では斬れないしな」

 雪月の衝撃的な発言に、空は目を大きく見開き、彼を凝視する。自分の中に埋め込まれた異能スキルの知識よりも大分強力であった異能スキルに、驚きを隠せなかったのだ。

「すごい……。この力があれば私、桜の役に立てる……っ! ねぇ、異能スキルの進化って、具体的に何をすればいいの?」

 空は興奮気味に自分の右手を見つめ、強く握りしめる。そして、徐に雪月の方を向き、希望に満ちた目を向け、質問を口にした。
 しかし、空のその希望はすぐに打ち砕かれることとなる。雪月は空の言葉に表情を変えず、一拍置いた後に衝撃の言葉を放ったのだ。

「……異能スキルの進化は基本、ほかの参加者ピューパを殺すことで起こる。前に言っただろ? ウィングキルに参加したからには安寧はないと思え、って。まぁ、稀に戦いの最中成長する場合があるが、それも微々たる成長だ。フィクションで起こる劇的な成長は参加者ピューパを殺すことでしか得られないと思え」
「ッ!? なっ……。そ、そういうことね……。確かにこのゲームのルールで私が命を狙われるのって変だなって思ってたけど……それなら納得……ッ」

 自分の命が狙われる理由が分かり、空はより強い恐怖を抱く。しかし、今更そんなことで立ち止まる訳にはいかない空は、何とか狂うことなく冷静を装い、話を続けた。

「……とりあえず、私の現状は理解したよ。じゃあ次に私がなっちゃった『あの状態』について教えて」
「あぁ……『反転リベリオン』についてか。そうだな、アレを一から説明すると主に桜の頭がパンクするだろうから簡単に説明するとだな、『力』の暴走だ。あの状態は本人にとっても、世界にとってもあまりよくない。主に力の強いものが精神的に負荷がかかったり、死にそうな目にあうと起こりやすい現象だな。……あのまま暴走を続けていればお前は確実に死んでいた」
「そ、そう……なんだ……。いや、覚悟はしてたよ。でも……やっぱり私は危険な状態だったんだね……」
「あぁ、そうだな……っと。よし、こんなもんか」

 雪月は空の怯えたように震えた言葉に対し、淡白な様子で返事を返す。そして、ホワイトボードに説明したことを分かりやすく絵や文章などで書きこんでいく。
 そんな淡白な様子の雪月に、空は苛立ちを覚えるがぐっと堪え、口を開いた。


「……知りたいことは他にもあるけど、どうせ全部は答えてくれないだろうし、最後に一つだけ聞かせて」
「どうぞ。だが、答えるかどうかは質問次第だな」
「わかってるよ。戸倉先輩……いや、『戸倉柊夜』について、話せる範囲でいいから教えて。なんであいつは私を狙ったの? そして、今あいつはどこにいるの?」

 空の質問に、雪月は顎に手を当て、少しの間考える。しかし、すぐに視線を空へと戻し、語り始めた。

「そうだな……。まず、あいつはお前に……郡空に惚れて、お前を神にすべく計画を立てた。俺から奴について言えるとしたらこのくらいだな。それで、あいつの現在地だが……知らん」
「なっ! 零峰さんは管理者フィクサーなんでしょ!? なら参加者ピューパの居場所位把握してないの!?」
「あー。まぁ知ろうと思えば、な。だが、別に知ろうと思ってないし、知らん」

 雪月の突き放すような言葉に、空は不満げに目を細める。しかし、雪月は特段気にした様子もなく、涼しい顔をしていた。

「もういいよ。あいつに固執しているより、桜の役に立つ方が大事だし」
「そ、そうか……。お前も大概ぶっとんだ思考してるのな……。自分に恋心を抱いていることに驚きもしないし、神にされそうになってたこともどうでもいいとは……。まぁ、本人がいいのならいいんだけど」
「そゆこと。あいつは見つけ次第ぼこぼこにするとして、次は桜について教えてほしいな。桜は参加者ピューパじゃないんだよね? なら何でそんなにすごい力を持ってるの? そして、どうして管理者フィクサーである零峰さんと一緒に居るの? どうして、桜はそこまで頑張って戦うの?」

 と、空は努めて明るい声を出し、矢継ぎ早に質問攻めする。その質問に、雪月は少し難しい顔をした後、桜に視線を移した。

「それについては……桜。お前が直接説明してやるといい」
「ふぇいっ!? あっ、そうだよね。私の事だしね!」
「お前……ちょいちょい意識飛んでないか……?」
「失礼な! ちゃんと聞いてるよ! ……ただ、理解するのに時間がかかるだけで……ッ!」

 雪月のフリに、桜は素っ頓狂な声を出す。それに雪月は呆れた顔で桜を見やり、ため息まじりに言葉を放つ。当然、桜はムッとした顔で雪月に反論する。しかし、雪月は桜の反論に目を細めて、咎めるような口調で言葉を放った。

「知るか。お前には散々説明してやっただろ。そんなことより郡空に説明しろ」
「ぐぅ。わ、わかってるよ……! ご、ごめんね空。えっと、私が戦う理由だっけ?」

 雪月の冷たく突き放すような言葉で、コントじみたやり取りを終わらせる。桜は消化不良ながらも、グッと堪え、空に視線を向け、語りかけた。
 そんな桜の言葉に、空は真剣な表情で見返し、首を縦に振る。

「うん。お願い。私は桜の役に立ちたいの。……私は、桜の為に何をすればいい?」
「あはは。空は真面目だなぁ。えっとね」

 と、桜は自分の身に起きたことを話し始める。空はそれを無言で相槌をうち、桜の話を真剣に聞いた。

「ってわけ。だから私の戦う理由は『このゲームを終わらせ、翼を助ける。そして、こんなことを続けている神をブッ飛ばす!』 だよ!」
「なるほど……。まさか東雲さん……翔君のお兄さんが『ジョーカー』なんて……」
「あははー。まぁ空にとっては東雲と言えば翔だもんね。そのへんはふわっとした理解でいいよ!」

 桜の説明を聞き、空は驚きつつも冷静に情報を整理する。しかし、空はそもそも桜の事情に関しては全くの部外者だ。そのため、人々の記憶から消えた少年について、まるで実感がわかなかったのだ。

「うーん。ごめんね、桜。でも、桜にとってすっごく悲しいことだってことは分かるよ。……それにしても、桜の力って結局なんなんだろうね?」
「うむむ……。なんだろ? あんまり深く考えたことなかったなぁ。こう……正義の心が呼び覚ました熱き力! 的なものなのかと」
「いや馬鹿だろ!? 何だよその認識! お前もっと自分に関心を持てよ!?」

 と、桜と空の会話に、雪月が突然鋭い突っ込みを入れ、割り込んでくる。雪月の発言に、桜はムッとした表情になり、不満げに雪月を見やった。

「む。なにさー! 私だって自分に関心くらいあるよ! ただ突然手に入れた力なんて分かるわけないじゃん!」
「俺に質問すらしなかったくせに……」
「うぐっ、だ、だって翼の事とかでそれどころじゃなかったんだよ……!」
「つまり気にしてなかったんだろーが……。はぁ、得体のしれない力使って平気で戦ってるとか……」
「ぬぐぅーー! じゃあ雪月君は知ってるの!? 私のこの力!」
「あぁ。ある程度はな」

 桜の怒声に、雪月は涼しい顔をして返答を返す。まさか雪月が自分の力について知っているとは思わず、桜は口をあんぐりと開け、間抜け顔をさらした。

「……へ? な、なんですとーーっ!? わ、分かってるなら早く教えてよーー!」
「いや、といっても『可能性』としての推測だし。確定じゃないから聞かれるまで黙ってた」
「それでもいいよ! 可能性でもいいから教えてよー!」
「はいはい……。わかったから落ち着け」
「うぬぬ。はぁい……」

 流石の桜も興奮し過ぎたと反省したのか、雪月の言葉で大人しくなる。しかし、まだ拗ねた小学生の様に唇を尖らせており、雪月は深くため息を吐いた。

「じゃあ、桜。お前の力について、俺の推測を話していくぞ」

 そう言い、雪月は真っ直ぐ桜を見やり、真剣な表情で語り始めた。
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