イクリプスサーガ

紫眞

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第2章

2-5 いざ、学校案内!

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 白浜先生はを収め、雪月と空の席を指定する。
 空は桜の隣の席となり、桜が空の学校案内を担当することになった。そんな願ってもない好機に、桜は自然と口元が緩み、浮足立つ。
 せっかく仲良くなれるチャンスが目の前にあるのだ。これを生かさない手はないだろう。そう思い、桜は小声ながらも、元気よく空に声を掛けた。

「よろしくね、空ちゃん。私頑張って案内するから!」
「ふぇ? あっ! えっと……ありがとうございます……!」

 桜の勢いのある挨拶に、空は若干気圧されつつも、ぎこちない笑顔で返事を返す。桜は空の返事に、これは後でちゃんと仲良くなるように話さなければ……。と、固く心に誓ったのだ。
 その後、何事もなく朝のホームルームは終了した。

 朝のホームルームの後、桜は早速空に話しかけようと、椅子に座ったまま、体を横に向け、空へと向かう。桜の行動に、空は少し身構えて体を強張らせる。桜は満面の笑みを浮かべ、元気よく空へと自己紹介を始めた。

「改めまして。私は西連寺桜! よろしくね空ちゃん」

 桜の人のよさそうな笑顔と挨拶に、空はぎこちないながらも精一杯笑顔を作る。そして、まるで先輩を相手にするかのような挨拶を返してきた。

「はっはい。よろしくお願いします!」

 空の挨拶にかなり不満そうに桜は口を尖らせ、ふて腐れる。その桜の表情を見て、空は顔を真っ青にして桜を見やる。

「あ、あの……すみません。何か気に障る事でも──」
「敬語っ! いらないからね? 同い年なんだしせっかく隣の席になったんだから、もっと仲良くしようよ」

 空の謝罪を遮り、桜は半ば空に言い聞かせるようにそう叫ぶ。空は一瞬ポカン、と口を開け硬直する。

「……うん。ありがとう。そうさせてもらうね?」

 しかし、すぐに軽く口角を上げて、先ほどより気安い口調で桜に語りかけた。それに桜は満足したように頷く。
 そして桜は思い出したかのように、唐突に話題を変えた。

「あ、そうだ。学校案内だけど、昼休みでいいかな?」
「うん。大丈夫だよ。なんか貴重な昼休みにごめんね」

 空は右手で軽く頭を掻きながら、申し訳なさそうに桜にそう言う。その反応に、桜は再び唇を尖らせ、不満げな顔をする。

「友達と一緒に学校歩き回れるなんて、私は楽しいけどな」
「ふぇ!? うっ……そ、そうだね。えっと、私も楽しみだよ。よろしくね、西連寺さん」
「あ、桜でいいよ? 私も空って呼びたいし! ダメかな?」
「えっと……うん。あの、大丈夫……だよ、桜。……ありがとう」

 空は桜の提案に戸惑いつつも軽く微笑んで了承する。その微笑みに、桜は若干違和感を覚えた。ちょっと攻めすぎただろうか? なんだか空は必死に何かを取り繕って、無理をしているように、桜は感じたのだ。初めての場所で緊張しているだけと言えばそうなのだが。桜は空の表情から、人間関係そのものに、と思った。桜の一言一言に、神経を研ぎ澄ませ、機嫌を伺っているようだと、今更ながら感じたのだ。桜がその違和感を指摘しようとしたその時、

 キーンコーンカーンコーン

 と、一限目を告げる鐘が鳴り、結局聞くことは出来なかった。その後、海月との挨拶やら、世間話で盛り上がり、桜はすっかり違和感の事を忘れてしまい、昼休みとなった。雪月はどうやら翔に案内してもらうようだ。それを知った桜は、せっかくなら五人で一緒に学校をまわろう。と、翔たちに持ち掛けた。
 そして結局、お昼を食べ終えた後、空に海月、翔と雪月、そして桜の五人で、学校をまわることに決定した。長門は生徒会の仕事があるため昼食を生徒会室で食べるから今回はパスとのこと。玲一も同様に、長門の手伝いの為、来られないと言われた。なので、二年三組の五人だけで、クラスの机をくっつけ、昼食をとることにした。

「待ちに待ったお弁当! もうお腹すきすぎて死にそうだったよー」

 桜は大げさにそう言った後、お弁当箱を開け、目を輝かせる。そして卵焼きを一口で平らげ、大げさに顔を綻ばせる。そんな桜の様子に、他の四人は苦笑しながらも、自分たちの昼食を各々取り始めた。

「あっれ、雪月と桜の弁当の中身って全く一緒じゃない?」

 不意に、翔が驚いたようにそう言い、まじまじと二人のお弁当を見比べる。雪月は少し困ったように返答を考えていた。しかし、桜は特に迷うことなく、翔の問いに答えた。

「へ? だって作ったの雪月君だもん」

 何てことないように返答した桜に、雪月を除く三人は目を丸くした。そして雪月は少々苦い顔をしたものの、否定することなく沈黙する。そのことに翔は顔を青ざめさせ、絶句していた。
 しかし、海月は驚いたように声を上げ、桜に詰め寄る。

「えっ!? じゃあ桜ちゃんの言ってた同居人さんって零峰君の事だったの?」
「うん、そうだよ。色々あって家で同居してるんだ」

 海月の質問に、桜は笑顔で返答する。そんな桜の返答に、翔は一瞬、面白くなさそうな顔をする。しかし桜たちがそのことに気付く前に表情を戻し、笑顔を作った。唯一、雪月だけはそのことに気付いたが、それを桜たちに言うことはなかった。

 そんなこんなで、昼食を終え、五人は学校巡りをすることにした。

「んで、最後が屋上! 普段は立ち入り禁止だから入れないけど、たまーに吹奏楽部とかが許可もらって使ったりするよ!」

 数十分後、一通り学校を案内し、最後に桜が屋上の説明をして、案内を締めくくろうとしていた。この時、既に昼休み終了まで残り僅か。桜はチラリと時計を確認し、不服そうに唇を尖らせた。

「うぅー。もうこんな時間かぁ。ねぇ、みんなさえ良ければ、放課後親睦会しよ? あ、どうせなら長門と玲一も呼んでさ!」
「ばーか。ただでさえ転入初日で二人とも疲れてるのに、これ以上無理させようとするなよ。親睦会ならまた今度でいいだろ?」

 桜の提案に、翔が間髪入れずに、そう突っ込みを入れた。翔の突っ込みに、桜は少し反省した様子で雪月と空を見やり、謝罪する。

「ご、ごめん。雪月君と空のこと、ちゃんと考えられてなかった。また今度、別のクラスにいる友達も紹介したいし、良ければ親睦会来てくれないかな?」
「気にしないで! 私達の為に誘ってくれたんでしょ? 親睦会、とっても楽しみだよ。ありがとう、桜」
「あー。まぁ気にするな。……お前の行動力は既に嫌というほど知っているしな」

 二人の返事、に桜はホッと胸をなでおろす。しかし反対に雪月の発言で、翔と海月が複雑そうな表情をする。だがそのことには雪月以外気が付かない。雪月は複雑そうな顔をする二人を見て、何故か少し気分が高揚した。そんなこと、絶対顔にも口にも出さないが。

 その後、五人は雑談をしながら教室へ戻り、五限目が始まった。
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