13 / 43
第1章
1-10 神という存在
しおりを挟む
「嘘……だろ……?」
蚊が鳴くような声でそう呟いたのは、先程廃工場で桜を襲った、使徒だった。実は、使徒は、桜が毒嶋に追いかけられている時からずっと見ていたのだ。つまり、桜が殺されそうになっている時も、ただ黙って見ているだけだった、ということだ。
使徒は、桜の心臓が止まり、毒嶋が高笑いをしているまでを見届けた。そこまで見て、使徒は踵を返し、その場を立ち去ろうとしたのだ。
────しかし、桜は生き返った。それどころか、神の力を授かっている毒嶋遼真相手に、まるで赤子の手をひねるが如く、容易く勝利を収めてみせたのだ。
記憶の操作が効かないことといい、生き返った後の現象といい、まるで桜には───。と、ここまで使徒が思考したところで、ようやく桜が使徒の存在に気づいた。桜はあげていた両腕を下げ、得意げな顔をし、使徒と対峙した。
「え、あれ。いつの間に居たの? まぁいいや! それよりも見た!? 私すっごく強かったでしょ!?」
「は? あ、いや……そう、だな?」
使徒は、桜の突然の自慢に、理解が追いておらず、生返事を返す。しかし桜はその返事を真に受け、自分が認められたと思い、さらに笑みを深めた。
「ふっふっふ! 桜ちゃんは日々どころか、毎秒進化する天才なのだよ!」
調子に乗った桜は、鼻高々にそう宣言し、胸を張る。
そんな桜を見て、使徒は困惑しつつも、こいつの頭大丈夫かな……。と、内心引いていた。それはそうだろう。今しがた毒嶋と死闘を繰り広げ、よく分からない力を手にしたばかりなのだ。なのに、何故そんなに笑っていられるのか。少なくとも常人にはできない芸当だろう。と、使徒は桜の異常性にドン引きしていた。
しかし、使徒に分析されているなど想像していない桜は、上機嫌のまま使徒を勢いよく指さし、
「これでもう君に惨敗することもないよ! さぁ、来るならこーいっ!」
と、叫ぶ。そんな桜に対し、本格的に脳内お花畑だな。、と使徒は深くため息を吐く。今しがた手に入れた力で、自分に勝てると思われていることも心外だったのだが。
────と、そう思ったところで、使徒の意識は途切れた。
否。使徒の意識が侵食されたのだ。
「フハッ、フハハハハッ! 愉快! 実に愉快だ、人間ッ!」
突然、先程まで沈黙気味だった使徒が、両手を上げて笑い始めた。そんな使徒の突然の奇行に、桜は目を丸くし、警戒態勢をとる。警戒する桜を見て使徒は、高笑いをやめ、桜を正面に見据えた。
「あぁ、すまない。初めて味わう感動だったからつい、気が昂ってしまったよ」
「はぁ……? え、ってか口調変わった……?」
男の人は、気が昂ると高笑いをする生き物なのだろうか……。この行動で、桜は毒嶋のことを思い出し、げんなりする。使徒はとても無口で大人しいイメージがあったが、今はまるで別人のように明るい。というか口調すら違う気がする。猫を被っていたにしては、やけに冷たい雰囲気を纏っているし……。一体どういう心境の変化なのだろう……? などと考え、桜が訝しげな表情で使徒を細めで見る。すると笑みを浮かべていた使徒が一変、呆れ顔に代わり、桜を見やった。
「ふーむ。もしや私がこの使徒風情だと思っているのか? 失敬な。今は確かにこいつの器から話しかけているが、私は『神』だ。そこの所は間違えないで欲しい」
呆れたように使徒──もとい神は語る。
桜は内心、そんなことわかるかっ! と悪態を吐く。しかし、別に喧嘩がしたい訳では無いので、そこは空気を読んで言わなかった。
神はそんな不満げな顔の桜を見て、愉快そうな調子を戻し、再び語り始める。
「ククッ、感情を隠せん奴よな。まぁいい。お前は私を楽しませた。褒美にお前の知りたがっていたことを教えてやろう」
神が大仰な身振りで両手を広げ宣言した言葉に、桜は目を見開く。引き気味だった姿勢を前のめりに変え、目を輝かせながら神を見た。
「本当!? 翼について教えてくれるの!?」
正直、この言葉で、神と名乗る男の正体なんて、桜にはもはや二の次になっていた。今は翼について知れるかどうかの一点のみが、桜にとって最重要事項となっているのだから。
そして桜の返事に、神は満足気に頷き、桜を見やる。
「さて、説明するにしても内容が内容だ。お前に理解させるためには、丁寧に教えてやる必要がある。翼について一刻も早く知りたいだろうが、あやつが巻き込まれている事態も、少しは知っておくべきだ。長くなるが、いいな?」
「勿論! こっちは訳わかんないことが多すぎて、モヤモヤしっぱなしだからね!」
神の言葉に、桜はとても威勢のいい返事をする。実は神の言葉は遠回しに、桜の頭が悪いから丁寧に教えなければならない。と、言っているのにも気づかないで。桜的には、丁寧に教えてくれる神様ありがたいなー。くらいにしか考えていないので、知らぬが仏、というやつだろう。
「では、始めよう」
神のその言葉の後、桜は神を食い入るように見つめ、話を聞いた。
蚊が鳴くような声でそう呟いたのは、先程廃工場で桜を襲った、使徒だった。実は、使徒は、桜が毒嶋に追いかけられている時からずっと見ていたのだ。つまり、桜が殺されそうになっている時も、ただ黙って見ているだけだった、ということだ。
使徒は、桜の心臓が止まり、毒嶋が高笑いをしているまでを見届けた。そこまで見て、使徒は踵を返し、その場を立ち去ろうとしたのだ。
────しかし、桜は生き返った。それどころか、神の力を授かっている毒嶋遼真相手に、まるで赤子の手をひねるが如く、容易く勝利を収めてみせたのだ。
記憶の操作が効かないことといい、生き返った後の現象といい、まるで桜には───。と、ここまで使徒が思考したところで、ようやく桜が使徒の存在に気づいた。桜はあげていた両腕を下げ、得意げな顔をし、使徒と対峙した。
「え、あれ。いつの間に居たの? まぁいいや! それよりも見た!? 私すっごく強かったでしょ!?」
「は? あ、いや……そう、だな?」
使徒は、桜の突然の自慢に、理解が追いておらず、生返事を返す。しかし桜はその返事を真に受け、自分が認められたと思い、さらに笑みを深めた。
「ふっふっふ! 桜ちゃんは日々どころか、毎秒進化する天才なのだよ!」
調子に乗った桜は、鼻高々にそう宣言し、胸を張る。
そんな桜を見て、使徒は困惑しつつも、こいつの頭大丈夫かな……。と、内心引いていた。それはそうだろう。今しがた毒嶋と死闘を繰り広げ、よく分からない力を手にしたばかりなのだ。なのに、何故そんなに笑っていられるのか。少なくとも常人にはできない芸当だろう。と、使徒は桜の異常性にドン引きしていた。
しかし、使徒に分析されているなど想像していない桜は、上機嫌のまま使徒を勢いよく指さし、
「これでもう君に惨敗することもないよ! さぁ、来るならこーいっ!」
と、叫ぶ。そんな桜に対し、本格的に脳内お花畑だな。、と使徒は深くため息を吐く。今しがた手に入れた力で、自分に勝てると思われていることも心外だったのだが。
────と、そう思ったところで、使徒の意識は途切れた。
否。使徒の意識が侵食されたのだ。
「フハッ、フハハハハッ! 愉快! 実に愉快だ、人間ッ!」
突然、先程まで沈黙気味だった使徒が、両手を上げて笑い始めた。そんな使徒の突然の奇行に、桜は目を丸くし、警戒態勢をとる。警戒する桜を見て使徒は、高笑いをやめ、桜を正面に見据えた。
「あぁ、すまない。初めて味わう感動だったからつい、気が昂ってしまったよ」
「はぁ……? え、ってか口調変わった……?」
男の人は、気が昂ると高笑いをする生き物なのだろうか……。この行動で、桜は毒嶋のことを思い出し、げんなりする。使徒はとても無口で大人しいイメージがあったが、今はまるで別人のように明るい。というか口調すら違う気がする。猫を被っていたにしては、やけに冷たい雰囲気を纏っているし……。一体どういう心境の変化なのだろう……? などと考え、桜が訝しげな表情で使徒を細めで見る。すると笑みを浮かべていた使徒が一変、呆れ顔に代わり、桜を見やった。
「ふーむ。もしや私がこの使徒風情だと思っているのか? 失敬な。今は確かにこいつの器から話しかけているが、私は『神』だ。そこの所は間違えないで欲しい」
呆れたように使徒──もとい神は語る。
桜は内心、そんなことわかるかっ! と悪態を吐く。しかし、別に喧嘩がしたい訳では無いので、そこは空気を読んで言わなかった。
神はそんな不満げな顔の桜を見て、愉快そうな調子を戻し、再び語り始める。
「ククッ、感情を隠せん奴よな。まぁいい。お前は私を楽しませた。褒美にお前の知りたがっていたことを教えてやろう」
神が大仰な身振りで両手を広げ宣言した言葉に、桜は目を見開く。引き気味だった姿勢を前のめりに変え、目を輝かせながら神を見た。
「本当!? 翼について教えてくれるの!?」
正直、この言葉で、神と名乗る男の正体なんて、桜にはもはや二の次になっていた。今は翼について知れるかどうかの一点のみが、桜にとって最重要事項となっているのだから。
そして桜の返事に、神は満足気に頷き、桜を見やる。
「さて、説明するにしても内容が内容だ。お前に理解させるためには、丁寧に教えてやる必要がある。翼について一刻も早く知りたいだろうが、あやつが巻き込まれている事態も、少しは知っておくべきだ。長くなるが、いいな?」
「勿論! こっちは訳わかんないことが多すぎて、モヤモヤしっぱなしだからね!」
神の言葉に、桜はとても威勢のいい返事をする。実は神の言葉は遠回しに、桜の頭が悪いから丁寧に教えなければならない。と、言っているのにも気づかないで。桜的には、丁寧に教えてくれる神様ありがたいなー。くらいにしか考えていないので、知らぬが仏、というやつだろう。
「では、始めよう」
神のその言葉の後、桜は神を食い入るように見つめ、話を聞いた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―
kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。
しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。
帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。
帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる