蘇生チートは都合が良い

秋鷺 照

文字の大きさ
上 下
31 / 39
5章 判明

5-6 ウィルオウィスプⅡ

しおりを挟む
 轍夜は光を追って駆け、森に入って立ち止まる。
 見失った。
 きょろきょろ辺りを見渡すと、遠くがぼうっと明るい。数多の木に隠れるようにして、なお隠し切れない灯り。近付くと、それは青い炎だった。
 1本の木が燃えている。他の木には燃え移らず、熱くもない。人間の認識する「炎」とは根本から異なるものなのだ。
「あーあ、やっぱり来ちゃったか」
 残念そうな声が上から降ってきた。ウィルオウィスプだ。
「ひとしきり遊んでから立ち去るつもりだったけど……」
「にゃー! お前がひとしきり遊ぶと、とんでもない被害が出るにゃー! ここで消滅させてやるにゃー!」
「やれるものならやってみな!」
 毛を逆立てるケットシーに対し、ウィルオウィスプはからかうように言う。クスクスと笑いながら。
 轍夜は剣を抜き、ウィルオウィスプに向けた。
「言われなくてもやってやる!」
 言うや否や、宙に跳ぶ。剣閃が青白い光を捉えた。が。
「無駄だよ」
 斬られたはずのウィルオウィスプは、何事もなかったかのようにそこにいた。
「ボクに斬撃は効かないよ。さあ、どうする?」
 またクスクスと笑いながら、ウィルオウィスプはゆらりと動く。光が弧を描き、そこから針のようなものが発射された。
 轍夜は剣を一振りし、光の針を全て弾き落とす。
「どーにかしてくれ、雑に強くなる呪具!」
 雑に強くなる呪具は、迷った。ウィルオウィスプに斬撃が効かないというのは嘘だ。上手くやれば効く。ただ、それを剣士の腕輪で出来るかどうか、というのが問題だった。だから、「……もうちょっと頑張ってみろ」と告げた。
「しょーがねーなー」
 言いながら、轍夜は剣を閃かせる。斬撃が複数飛んでいき、ウィルオウィスプに襲い掛かった。
「無駄だって言ったよね?」
 ウィルオウィスプの声音に、少し苛立ちが混じった。
「にゃー! 本当は斬られたくないのかにゃー!」
「ちっ」
 ケットシーの言葉に舌打ちし、ウィルオウィスプは攻撃に転じる。
 轍夜の周りの木が一斉に燃え上がった。青い炎に囲まれて、身動きがとれなくなる。熱くないとはいえ、触れれば焼け焦げる。
 だが、神剣の前では無意味であった。
 金色の刃が触れた瞬間、全ての炎がかき消える。焼け焦げた木が頼りなく風に揺れた。
 ウィルオウィスプは瞠目し、叫ぶ。
「馬鹿な!」
 炎を目くらまし兼足止めとして、逃げるつもりだったのだ。それを一瞬で消されてはたまらない。
「これで終わりにゃー!」
 ケットシーが言うのに合わせ、斬撃がウィルオウィスプに殺到。ビシリと音がして、青白い光にヒビが入る。
「……!」
 ウィルオウィスプは、嫌みの一つくらいは言ってやろうとした。しかし、度重なる斬撃で負ったダメージが、声を出すのを阻害する。苦し紛れに遠くへ炎を放ち、そのままパァンと砕け散った。
「やっぱこの剣すげー……」
 轍夜は嘆声を上げ、雑に強くなる呪具も「それな」と言った。



 その頃、リムネロエとヒュレアクラは街を歩いていた。そろそろ城へ戻ろうとしていたところである。
 ふと、何か嫌な予感がし、2人は路地へ駆けた。
 路地の奥には民家がある。石造りの小さな家が数軒並んでいる。その中の一軒だけが、青い炎に包まれていた。

「……石って、燃えるんだっけ」
 リムネロエは呟きながら、剣を構える。中に入るつもりであった。人がいたら助けなければならないと思ったのだ。
 懐から宝石を3粒取り出し、茨を展開。木製の扉を破り、息を止めて踏み込む。
 家の中は、青い炎が充満していた。煙は無い。
 どうすればこの炎を消せるのか、考えながら人を捜す。しかし、どうやらいないようだ。空き家だったらしい。
 安堵しつつも気を引き締める。放っておいて良いものとは思えない。

 リムネロエを見送ったヒュレアクラは、燃え盛る炎を見つめていた。不思議な炎だ。見る者を、どこかへ誘うような。
 不意に、ケタケタと笑い声が聞こえた。
「何だ……⁉」
 ぐい、と引き寄せられる感覚。その瞬間、ヒュレアクラは炎の中に放り込まれた。
「⁉」
 咄嗟に宝石を握り、茨で体を覆う。じゅわっと茨の表面が焼け焦げた。
「やるねー」
 ケタケタ、ケタケタ。耳障りな笑い声とともに、声が響く。
「誰だ⁉」
「残り火だよー」
 残り火と名乗ったそれは、青い炎そのものであった。
「ウィルオウィスプの青い炎が意思を持った存在。それがボク」

「はぁっ!」

 黒い刃の一閃が、残り火を裂いて吹き飛ばす。リムネロエが飛び込んできたのだ。
「話は最後まで聞いた方が良いよー、ガキども」
 またケタケタ笑いながら、残り火は言う。
「異空間に引きずり込んでやったのさ。最期のいたずら、楽しませてよ」
 話を聞いた2人は、顔を見合わせた。いまひとつ意味が分からない。
 ここが異空間なのは分かった。残り火によって引きずり込まれたのも分かった。
 ウィルオウィスプが何なのか、分からないのだ。
「まあ、良いか」
 リムネロエとヒュレアクラは同時に呟き——青い炎に茨を殺到させた。
 この宝石はとても便利で、茨の太さや棘の具合を調節できる。
 攻防自在の茨だ。残り火に攻撃されようとも、幾重にも張り巡らせた茨で防ぎきれる。茨が消失しても、宝石に魔力さえ流せば、また茨が現れる。
 残り火は、茨と相討ちになりながら数を減らしていく。
「その茨、何⁉ 何で燃えてくれない⁉」
 残り火が、我慢ならないという風に叫んだ。青い炎は何でも燃やせるはずだったのに。
 2人は答えず、茨を出し続ける。駆け巡る茨が、とうとう最後の炎を打ち消した。
 場が静まり返る。ケタケタという笑い声も、残り火を名乗る声も、消え去った。
「……どうやって出れば良いんだろう」
 ぽつりと呟くリムネロエ。ヒュレアクラも首を傾げ、辺りを見渡した。
 真っ暗だ。
 ついさっきまで青い炎に明るく照らされていたのが嘘のように、闇が広がっている。
 2人は、試しにそれぞれ剣を振ってみた。何も起こらない。
 助けが来ることを期待して、待つことにした。



 轍夜とケットシーは、街の中まで戻ってきた。
「……にゃー? あっちの方、何か焦げ臭いにゃー」
 ケットシーは轍夜の頭の上から飛び降り、歩いて行く。轍夜が追っていくと、目の前には焼け焦げた石の塊があった。両隣の民家から、その石の塊も民家だったものだと分かる。
「ん?」
 雑に強くなる呪具が、轍夜に告げる。「空間が歪んでる。斬ってみろ」と。
 轍夜は剣を抜き放った。神剣が虚空を斬り裂き、闇を生じさせる。
「何これ」
 呟いた轍夜の声に、反応する者があった。
「……お父さま⁉」
「え、リムネロエ? 中にいるのか?」
「うん、出る方法が分からなくて。ヒュレアクラも一緒」
「ちょっと待ってろ」
 轍夜は言って、雑に強くなる呪具を見る。「……いや、知らないって。何でもかんでも聞かれても困る」と呪具は慌てた。
「何があったにゃー?」
 ケットシーの質問に、リムネロエは
「ウィルオウィスプの残り火とかいうやつに、異空間に引きずり込まれた」
 と答えた。
「無事で良かったにゃー。とりあえず、こっちに歩いてこいにゃー」
「さっきから、そうしてる。でも、全然進んでる感じがしないんだ」
 リムネロエの困ったような声に、轍夜は異空間の入り口らしきものに片足を突っ込んだ。
「オレがそっちに行く」
「にゃー? 呪具のアイディアかにゃー?」
「いや、何となく」
 もう片方の足も入れると、滑るような感覚とともに双子の前に出た。
 轍夜は剣に手をかける。
「こーゆーのってさ、空間斬れば出れるもんだよな」
「斬ってみたけど出られなかったよ?」
 リムネロエは目を瞬かせて言った。しかし、轍夜が剣を閃かせると、闇に数多の亀裂が走る。たちまち異空間が砕け散った。
「流石は神剣にゃー」
 無事に異空間から出てきた3人を見て、ケットシーは感心したように言った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...