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3章 呪術師対策
3-5 花の精
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それから10日と少し経ち、リィラが帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「お帰りー」
「お帰りにゃー」
轍夜とケットシーが出迎える。遅れてペトアモスも出てきて、
「何日か前に、エルフの国から書状が届いたぞ。王家宛て故、余は見ておらぬ」
と報告した。
「オレ、見たんだけど読めなかった」
「みーもにゃー。エルフの王は達筆すぎるにゃー」
リィラは頷き、ペトアモスと共に執務室へ向かう。
「それにしても激務であった。こなしてもこなしても、次から次へと仕事が増える。まだ残っておるぞ」
「人手が足りていないのです……」
しばらく経って、リィラは1人で出てきた。
「ペトアモスは魔法で送り届けました。それから、書状の件ですが……」
ひと呼吸置き、リィラは微笑んで言う。
「感謝と依頼が書かれていました。どうやら、花粉症で困っているようです」
「にゃー。だから毒に気付かなかったのかにゃー」
「そういうことです。洞窟から花粉が飛んで来ているそうで、どうにかしてきてほしいと」
「受けるのかにゃー?」
「はい。早速行きましょう」
「おー」
「にゃー」
リィラは、轍夜とケットシーを連れて転移魔法で洞窟の前に行った。エルフの国から依頼された、島の西端の洞窟だ。
中は湿っぽく、あちこちに苔が生えている。岩が青い光を発し、水たまりに反射。足元を照らし出す。
「にゃー……確かに、この花粉はエルフにはきついにゃー」
ケットシーが呟いた。いつものように轍夜の頭の上で。
「何も感じませんが……」
リィラは首を傾げる。それほど大量の花粉が飛んでいるなら、目に見えてもおかしくないと思った。或いは、くしゃみくらいは出るだろうと。しかし、一向にその気配は無い。
「普通の花粉じゃないのにゃー。人間の言う花粉とは別物にゃー」
ケットシーは鼻をスンスンと動かし、顔をしかめる。
「多分、花の精にゃー」
しばらく歩くと、花畑に出た。
洞窟を出たわけではない。洞窟の最奥に、花畑が存在していたのだ。
視界を埋め尽くさんばかりに咲き誇る花たちは、色を変えながらイルミネーションのように光っている。赤から青へ、青から緑へ、緑から黄へ、黄から赤へと色が移り変わる時、花粉が発せられているのだ。
「にゃー!」
ケットシーが飛び降りざま、花を1本喰いちぎる。花はざわめき、光の中に幻影を浮かび上がらせた。その幻影は、妖艶な女の姿。大事な部分だけが花で隠され、艶めかしい体格を浮き彫りにしている。
「いたずらな子猫ちゃんね……」
幻影は艶やかな声を発し、ケットシーを引き寄せた。
「にゃー⁉」
「ケットシー!」
轍夜はケットシーを取り戻そうと、花畑に足を踏み入れる。数多の花弁が舞い踊り、轍夜の視界を覆い尽くした。
「何だ⁉」
混乱する轍夜に、声が投げかけられる。誘惑するような、魅惑的な声が。
「あたしの物になりなさい……」
「断る!」
一刀両断。言葉とともに、剣を抜く。
「きゃあっ⁉ 何よもう……」
所詮は幻影、斬ること能わず。しかし動揺を誘うことはできた。
その隙に、リィラはケットシーを回収。杖を構えて幻影を睨みつける。
「助かったにゃー」
「気を付けてください」
舞う花弁の勢いはとどまるところを知らず、吹雪のように吹き荒れる。
「燃やさねーの?」
轍夜は尋ねながら下がり、リィラの隣に並んだ。
「先ほどから魔法を放っているのですが……」
怪訝な顔で答えるリィラ。その言葉を嘲笑うように、幻影は話す。
「うふっ、無駄よ……アタシたちの前では、魔法など無意味……」
「なるほど、この花弁が魔法を無効化しているのですね」
リィラは幻影を見据える。幻影の発生源はどこか、この幻影は何者か。探る。
「……見えました」
呟き、リィラはあらぬ方を見た。
「テツヤ、わたくしに短剣を」
「1本?」
「はい」
リィラの前に短剣が1本現れる。それをつかみ取り、リィラは駆けた。花畑の横。花に隠されるようにして存在する道へと。
幻影は狼狽し、花弁をリィラに殺到させる。だがそれよりも、リィラの方が速かった。
短剣が虚空を斬る。
グワンと不思議な音がして、鮮やかな光がかき消えた。花も、幻影も、夢のように消え去って、後に残るは岩の青光。
横道を進んでいくと、そこには幻影と同じ姿の女がいた。
「あなたが花の精ですね?」
「そうよ……けど、一体何をしたの……」
リィラの問いに答えた花の精は、疲労困ぱいといった様子だ。
「あなたの力を絶ちました」
「意味が分からないわ……」
「魔法を使ったのです。剣に魔力を込めて、精霊の力を絶ち切るという」
花の精は精霊の一種だ。
「そんなピンポイントの魔法ってあるかしら……? それに、無効化していたはずよ……」
「精霊は倒すのが難しいですから。普通の魔法や武器ではどうにもならないからこそ、精霊を倒すのに特化した魔法が存在しているのです」
リィラは平然とデタラメを言った。何故そんなピンポイントなものがあるのか、リィラも知らない。師匠に勧められて覚えただけだ。案外、この出任せが当たっているのかもしれない。
「そうなのね……知らなかったわ……」
ようやく納得した花の精は、溜息を吐く。
「見逃してほしいところね……」
「にゃー。それはお前の返答次第にゃー」
ケットシーは轍夜の頭の上から言い放った。
「どういうことかしら……」
「どうしてこの島に来たにゃー?」
「それは……」
花の精は考え、頭を振る。
「忘れてしまったわ……」
「嘘をつくなにゃー」
「本当よ……」
花の精は再び溜息を吐いた。
「アタシたちは飛ばされるがまま移動するの……きっと、理由なんて無いわ……」
「〈死を招く蝶〉のいる谷で、お前と似た臭いがしたのにゃー。偶然とは言わせないにゃー!」
「ああ、あのコ……アタシの同族ではあるけれど、アタシよりずっとたちが悪いコよ……」
「ほらみろにゃー。やっぱり知ってたのにゃー」
鼻息荒く言うケットシーに、花の精は嘆息する。
「あのコは呪術師に飛ばされたのよ……」
「呪術師⁉」
「まさか、あなたも⁉」
驚きの声を上げた2人の人間を見やり、花の精は肩を竦めた。
「アタシは無関係よ……」
「みーを取り込もうとしたり、テツヤを誘惑したりしたのは何にゃー」
「本能よ……仕方が無いでしょう……」
のらりくらりと答える花の精。リィラは嘆息し、
「もう良いです」
と言った。
「見逃してくれるかしら……?」
「わたくしたちに、あなたを見逃すメリットがあるならば」
「そうね……呪具をあげればいいかしら……?」
「呪具を持っているのですか?」
聞き返したリィラに笑みを向け、花の精はたおやかな指から指輪を抜き取る。
「前にいた島で誘惑した男にもらった呪具なの……雑に強くなる呪具だそうよ……」
「雑に……? 何ですかそれは」
リィラは呆れたような声を出したが、轍夜は目を輝かせて
「オレそーゆーの好き!」
と言った。
「にゃー?」
ケットシーが不思議そうに鳴く。
「だってさ、雑に強くなるんだぜ⁉ 雑にってことは、何かこう、すげーやつじゃん!」
「さっぱり分からないのですが」
「みーも分からないにゃー」
首を傾げるリィラとケットシー。花の精は興味深そうに轍夜を見る。
「この呪具は、使い手と相性が良いほど強くなれるそうよ……。あなたとは、とても相性が良さそうね……」
「じゃー、まじですげー強くなれるの? よっしゃー!」
轍夜は跳び上がって喜んだ。
「にゃー。花の精、呪具に免じて攻撃しないでやるにゃー。この島からさっさと出て行くにゃー」
「分かったわ……」
花の精の体が、ぶわりと花弁に包まれる。その花弁ごと、洞窟の外に飛んで行った。
「一体、何がどう強くなるのです?」
「みーも知りたいにゃー」
花の精が出て行った後も、2人と1匹は洞窟の奥にとどまっていた。
「何がどうって言われてもなー……戦ってみねーと分かんねー」
「では、わたくしと勝負しましょう」
リィラが杖を構える。轍夜は慌てて制止しようとした。
「それはちょっと!」
「何故です?」
「危ねーし!」
「防御魔法は使いますよ? あなたに危害が及ぶことは無いように戦うので問題ありません」
「いやオレじゃなくて!」
話が変な方向に行っていた、その時。
ドォン
地響きと共に、何か巨大な音がした。
「何にゃー?」
「外でしょうか」
ケットシーとリィラは顔を見合わせる。轍夜は、リィラと戦わずに済んでほっとした。
「ただいま戻りました」
「お帰りー」
「お帰りにゃー」
轍夜とケットシーが出迎える。遅れてペトアモスも出てきて、
「何日か前に、エルフの国から書状が届いたぞ。王家宛て故、余は見ておらぬ」
と報告した。
「オレ、見たんだけど読めなかった」
「みーもにゃー。エルフの王は達筆すぎるにゃー」
リィラは頷き、ペトアモスと共に執務室へ向かう。
「それにしても激務であった。こなしてもこなしても、次から次へと仕事が増える。まだ残っておるぞ」
「人手が足りていないのです……」
しばらく経って、リィラは1人で出てきた。
「ペトアモスは魔法で送り届けました。それから、書状の件ですが……」
ひと呼吸置き、リィラは微笑んで言う。
「感謝と依頼が書かれていました。どうやら、花粉症で困っているようです」
「にゃー。だから毒に気付かなかったのかにゃー」
「そういうことです。洞窟から花粉が飛んで来ているそうで、どうにかしてきてほしいと」
「受けるのかにゃー?」
「はい。早速行きましょう」
「おー」
「にゃー」
リィラは、轍夜とケットシーを連れて転移魔法で洞窟の前に行った。エルフの国から依頼された、島の西端の洞窟だ。
中は湿っぽく、あちこちに苔が生えている。岩が青い光を発し、水たまりに反射。足元を照らし出す。
「にゃー……確かに、この花粉はエルフにはきついにゃー」
ケットシーが呟いた。いつものように轍夜の頭の上で。
「何も感じませんが……」
リィラは首を傾げる。それほど大量の花粉が飛んでいるなら、目に見えてもおかしくないと思った。或いは、くしゃみくらいは出るだろうと。しかし、一向にその気配は無い。
「普通の花粉じゃないのにゃー。人間の言う花粉とは別物にゃー」
ケットシーは鼻をスンスンと動かし、顔をしかめる。
「多分、花の精にゃー」
しばらく歩くと、花畑に出た。
洞窟を出たわけではない。洞窟の最奥に、花畑が存在していたのだ。
視界を埋め尽くさんばかりに咲き誇る花たちは、色を変えながらイルミネーションのように光っている。赤から青へ、青から緑へ、緑から黄へ、黄から赤へと色が移り変わる時、花粉が発せられているのだ。
「にゃー!」
ケットシーが飛び降りざま、花を1本喰いちぎる。花はざわめき、光の中に幻影を浮かび上がらせた。その幻影は、妖艶な女の姿。大事な部分だけが花で隠され、艶めかしい体格を浮き彫りにしている。
「いたずらな子猫ちゃんね……」
幻影は艶やかな声を発し、ケットシーを引き寄せた。
「にゃー⁉」
「ケットシー!」
轍夜はケットシーを取り戻そうと、花畑に足を踏み入れる。数多の花弁が舞い踊り、轍夜の視界を覆い尽くした。
「何だ⁉」
混乱する轍夜に、声が投げかけられる。誘惑するような、魅惑的な声が。
「あたしの物になりなさい……」
「断る!」
一刀両断。言葉とともに、剣を抜く。
「きゃあっ⁉ 何よもう……」
所詮は幻影、斬ること能わず。しかし動揺を誘うことはできた。
その隙に、リィラはケットシーを回収。杖を構えて幻影を睨みつける。
「助かったにゃー」
「気を付けてください」
舞う花弁の勢いはとどまるところを知らず、吹雪のように吹き荒れる。
「燃やさねーの?」
轍夜は尋ねながら下がり、リィラの隣に並んだ。
「先ほどから魔法を放っているのですが……」
怪訝な顔で答えるリィラ。その言葉を嘲笑うように、幻影は話す。
「うふっ、無駄よ……アタシたちの前では、魔法など無意味……」
「なるほど、この花弁が魔法を無効化しているのですね」
リィラは幻影を見据える。幻影の発生源はどこか、この幻影は何者か。探る。
「……見えました」
呟き、リィラはあらぬ方を見た。
「テツヤ、わたくしに短剣を」
「1本?」
「はい」
リィラの前に短剣が1本現れる。それをつかみ取り、リィラは駆けた。花畑の横。花に隠されるようにして存在する道へと。
幻影は狼狽し、花弁をリィラに殺到させる。だがそれよりも、リィラの方が速かった。
短剣が虚空を斬る。
グワンと不思議な音がして、鮮やかな光がかき消えた。花も、幻影も、夢のように消え去って、後に残るは岩の青光。
横道を進んでいくと、そこには幻影と同じ姿の女がいた。
「あなたが花の精ですね?」
「そうよ……けど、一体何をしたの……」
リィラの問いに答えた花の精は、疲労困ぱいといった様子だ。
「あなたの力を絶ちました」
「意味が分からないわ……」
「魔法を使ったのです。剣に魔力を込めて、精霊の力を絶ち切るという」
花の精は精霊の一種だ。
「そんなピンポイントの魔法ってあるかしら……? それに、無効化していたはずよ……」
「精霊は倒すのが難しいですから。普通の魔法や武器ではどうにもならないからこそ、精霊を倒すのに特化した魔法が存在しているのです」
リィラは平然とデタラメを言った。何故そんなピンポイントなものがあるのか、リィラも知らない。師匠に勧められて覚えただけだ。案外、この出任せが当たっているのかもしれない。
「そうなのね……知らなかったわ……」
ようやく納得した花の精は、溜息を吐く。
「見逃してほしいところね……」
「にゃー。それはお前の返答次第にゃー」
ケットシーは轍夜の頭の上から言い放った。
「どういうことかしら……」
「どうしてこの島に来たにゃー?」
「それは……」
花の精は考え、頭を振る。
「忘れてしまったわ……」
「嘘をつくなにゃー」
「本当よ……」
花の精は再び溜息を吐いた。
「アタシたちは飛ばされるがまま移動するの……きっと、理由なんて無いわ……」
「〈死を招く蝶〉のいる谷で、お前と似た臭いがしたのにゃー。偶然とは言わせないにゃー!」
「ああ、あのコ……アタシの同族ではあるけれど、アタシよりずっとたちが悪いコよ……」
「ほらみろにゃー。やっぱり知ってたのにゃー」
鼻息荒く言うケットシーに、花の精は嘆息する。
「あのコは呪術師に飛ばされたのよ……」
「呪術師⁉」
「まさか、あなたも⁉」
驚きの声を上げた2人の人間を見やり、花の精は肩を竦めた。
「アタシは無関係よ……」
「みーを取り込もうとしたり、テツヤを誘惑したりしたのは何にゃー」
「本能よ……仕方が無いでしょう……」
のらりくらりと答える花の精。リィラは嘆息し、
「もう良いです」
と言った。
「見逃してくれるかしら……?」
「わたくしたちに、あなたを見逃すメリットがあるならば」
「そうね……呪具をあげればいいかしら……?」
「呪具を持っているのですか?」
聞き返したリィラに笑みを向け、花の精はたおやかな指から指輪を抜き取る。
「前にいた島で誘惑した男にもらった呪具なの……雑に強くなる呪具だそうよ……」
「雑に……? 何ですかそれは」
リィラは呆れたような声を出したが、轍夜は目を輝かせて
「オレそーゆーの好き!」
と言った。
「にゃー?」
ケットシーが不思議そうに鳴く。
「だってさ、雑に強くなるんだぜ⁉ 雑にってことは、何かこう、すげーやつじゃん!」
「さっぱり分からないのですが」
「みーも分からないにゃー」
首を傾げるリィラとケットシー。花の精は興味深そうに轍夜を見る。
「この呪具は、使い手と相性が良いほど強くなれるそうよ……。あなたとは、とても相性が良さそうね……」
「じゃー、まじですげー強くなれるの? よっしゃー!」
轍夜は跳び上がって喜んだ。
「にゃー。花の精、呪具に免じて攻撃しないでやるにゃー。この島からさっさと出て行くにゃー」
「分かったわ……」
花の精の体が、ぶわりと花弁に包まれる。その花弁ごと、洞窟の外に飛んで行った。
「一体、何がどう強くなるのです?」
「みーも知りたいにゃー」
花の精が出て行った後も、2人と1匹は洞窟の奥にとどまっていた。
「何がどうって言われてもなー……戦ってみねーと分かんねー」
「では、わたくしと勝負しましょう」
リィラが杖を構える。轍夜は慌てて制止しようとした。
「それはちょっと!」
「何故です?」
「危ねーし!」
「防御魔法は使いますよ? あなたに危害が及ぶことは無いように戦うので問題ありません」
「いやオレじゃなくて!」
話が変な方向に行っていた、その時。
ドォン
地響きと共に、何か巨大な音がした。
「何にゃー?」
「外でしょうか」
ケットシーとリィラは顔を見合わせる。轍夜は、リィラと戦わずに済んでほっとした。
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