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「お姉さまったら、どこに行っちゃったのかしら」
アリアは寝室でくつろぎながら独り言ちた。
「……そうだわ、捜せば良いのよ!」
クローゼットに隠していた魔石を取り出し、掲げる。すると魔石が一つの景色を映し出した。
深い深い森の奥、不気味にそびえる屋敷の中で、姉が男に言い寄られている。
(っ⁉ ずるいわ!)
アリアが真っ先に思ったのがそれだった。
きっと姉は、あの超絶美形の男と結婚するつもりなのだ。だから婚約者を奪われても文句ひとつ言ってこなかったのだ。
(わたしもあっちが良い! ストロ様なんかより、お姉さまのお相手の方がずっと素敵なんだもの!)
こうしてはいられない。
アリアはすぐさま旅支度を始めた。
そうしてアリアは、ストロに別れを告げてから森の奥へと入っていった。深層にたどり着くと、やはり屋敷がある。
錆びついたベルを鳴らそうと試みていると、扉がひとりでに開いた。
アリアは目をぱちくりとさせ、恐る恐る屋敷へ入る。
「アリア⁉ どうしてここへ⁉」
上から響いた声に目を向けると、姉がいた。階段の上で、綺麗なドレスを着て、いかにも高価なアクセサリーをつけて、アリアを見下ろしている。
だから、自然にこう言っていた。
「お姉さま、それ全部ちょうだい」
「駄目だ」
断ったのは、姉ではない。いつの間にか姉の後ろに立っていた、屋敷の主だ。
彼は重ねて言う。
「これらは全てロメリアに用意したものだ。だから、お前にはあげられない」
「酷いわ!」アリアは目をうるませた。「いつも、お姉さまばかり! わたしは誰にも何も貰えないのに。お姉さまに譲ってもらうしか、方法が無いのに!」
この嘘に、姉はうんざりした顔をしていた。しかし男は違う。どこか憐れむような顔で、
「なら、お前にも与えてやろう」
と言ってきた。
アリアは感動の涙をハンカチで拭う素振りをする。
「うれしいわ。あと、わたし、どこにも居場所が無いの。叶うなら、この屋敷に住みたいわ」
「ちょっとアリア! とりあえず、話しましょう。2人きりで!」
姉が口を挟んでくる。アリアはふわりと微笑んだ。
「分かりました」
答えも聞かぬうちから、ロメリアは階段を駆け下り、アリアの腕を引っ張って柱時計の陰に連れ込んだ。
「アリア、どういうつもり⁉ どうしてこんなところに来たの⁉」
「お姉さまを追いかけてきたのよ」
「ここが立ち入り禁止の森だと知っていて⁉」
「もちろん知っているわ。それなのに、お姉さまだけずるいわ! あんな素敵な人と密会していたなんて!」
それを聞き、ロメリアは盛大に嘆息した。
「そんなんじゃないの。危険なのよ! 『異端のクズとゴミの妖精』っていう昔話の……」
「わたし、その昔話は途中までしか読んでないの。だって気持ち悪いだけなんだもの。お姫様が王子様と結ばれる話の方が好きだわ」
「途中まででも分かるでしょ、彼は……」
「赤の他人に決まってるじゃない。おとぎ話の主人公が実在しているなんて思う方がどうかしてるわ。お姉さまは頭がおかしくなってしまったのね」
取り付く島もない。ロメリアは頭を振って、最後の忠告をする。
「とにかく、早く帰りなさい。一刻も早くこの屋敷から出るのよ」
「酷い。酷いわ。そうやって、あの人からわたしを遠ざけようとしているのね」
間違ってはいない。ロメリアは〈異端〉から妹を引き離そうとしている。嫌がらせなどではなく、妹を守るために。大嫌いな妹が相手でも、〈異端〉が危険だと知らせず放っておく気は起きなかったのだ。
だが、そんな思いが伝わるはずもない。
アリアはロメリアの手を振りほどき、〈異端〉のもとへ走って行く。
「助けてください! お姉さまがわたしをいじめようとするの!」
「……そうか」
〈異端〉は一言そう告げて。
次の瞬間、ロメリアは屋敷の外に放り出されていた。
〈異端〉からすればどちらでも良かったのだ。ロメリアとアリアは顔立ちがよく似ていて、もしアリアと先に出会っていたならアリアに一目惚れしていたに違いない。だから、どこか素っ気ないロメリアよりも、熱烈な視線を送ってくるアリアの方が懐柔しやすそうな分良いと思った。そして、アリアに信用されるには、ロメリアを屋敷から追い出すのが最も良いと判断した。屋敷に置きっぱなしにしたり、この場で殺したりするよりも。
結果として、ロメリアは〈異端〉から解放された。
少しの間呆然として、それから立ち去るロメリアを、アリアは窓から愉しそうに眺めていた。
アリアは寝室でくつろぎながら独り言ちた。
「……そうだわ、捜せば良いのよ!」
クローゼットに隠していた魔石を取り出し、掲げる。すると魔石が一つの景色を映し出した。
深い深い森の奥、不気味にそびえる屋敷の中で、姉が男に言い寄られている。
(っ⁉ ずるいわ!)
アリアが真っ先に思ったのがそれだった。
きっと姉は、あの超絶美形の男と結婚するつもりなのだ。だから婚約者を奪われても文句ひとつ言ってこなかったのだ。
(わたしもあっちが良い! ストロ様なんかより、お姉さまのお相手の方がずっと素敵なんだもの!)
こうしてはいられない。
アリアはすぐさま旅支度を始めた。
そうしてアリアは、ストロに別れを告げてから森の奥へと入っていった。深層にたどり着くと、やはり屋敷がある。
錆びついたベルを鳴らそうと試みていると、扉がひとりでに開いた。
アリアは目をぱちくりとさせ、恐る恐る屋敷へ入る。
「アリア⁉ どうしてここへ⁉」
上から響いた声に目を向けると、姉がいた。階段の上で、綺麗なドレスを着て、いかにも高価なアクセサリーをつけて、アリアを見下ろしている。
だから、自然にこう言っていた。
「お姉さま、それ全部ちょうだい」
「駄目だ」
断ったのは、姉ではない。いつの間にか姉の後ろに立っていた、屋敷の主だ。
彼は重ねて言う。
「これらは全てロメリアに用意したものだ。だから、お前にはあげられない」
「酷いわ!」アリアは目をうるませた。「いつも、お姉さまばかり! わたしは誰にも何も貰えないのに。お姉さまに譲ってもらうしか、方法が無いのに!」
この嘘に、姉はうんざりした顔をしていた。しかし男は違う。どこか憐れむような顔で、
「なら、お前にも与えてやろう」
と言ってきた。
アリアは感動の涙をハンカチで拭う素振りをする。
「うれしいわ。あと、わたし、どこにも居場所が無いの。叶うなら、この屋敷に住みたいわ」
「ちょっとアリア! とりあえず、話しましょう。2人きりで!」
姉が口を挟んでくる。アリアはふわりと微笑んだ。
「分かりました」
答えも聞かぬうちから、ロメリアは階段を駆け下り、アリアの腕を引っ張って柱時計の陰に連れ込んだ。
「アリア、どういうつもり⁉ どうしてこんなところに来たの⁉」
「お姉さまを追いかけてきたのよ」
「ここが立ち入り禁止の森だと知っていて⁉」
「もちろん知っているわ。それなのに、お姉さまだけずるいわ! あんな素敵な人と密会していたなんて!」
それを聞き、ロメリアは盛大に嘆息した。
「そんなんじゃないの。危険なのよ! 『異端のクズとゴミの妖精』っていう昔話の……」
「わたし、その昔話は途中までしか読んでないの。だって気持ち悪いだけなんだもの。お姫様が王子様と結ばれる話の方が好きだわ」
「途中まででも分かるでしょ、彼は……」
「赤の他人に決まってるじゃない。おとぎ話の主人公が実在しているなんて思う方がどうかしてるわ。お姉さまは頭がおかしくなってしまったのね」
取り付く島もない。ロメリアは頭を振って、最後の忠告をする。
「とにかく、早く帰りなさい。一刻も早くこの屋敷から出るのよ」
「酷い。酷いわ。そうやって、あの人からわたしを遠ざけようとしているのね」
間違ってはいない。ロメリアは〈異端〉から妹を引き離そうとしている。嫌がらせなどではなく、妹を守るために。大嫌いな妹が相手でも、〈異端〉が危険だと知らせず放っておく気は起きなかったのだ。
だが、そんな思いが伝わるはずもない。
アリアはロメリアの手を振りほどき、〈異端〉のもとへ走って行く。
「助けてください! お姉さまがわたしをいじめようとするの!」
「……そうか」
〈異端〉は一言そう告げて。
次の瞬間、ロメリアは屋敷の外に放り出されていた。
〈異端〉からすればどちらでも良かったのだ。ロメリアとアリアは顔立ちがよく似ていて、もしアリアと先に出会っていたならアリアに一目惚れしていたに違いない。だから、どこか素っ気ないロメリアよりも、熱烈な視線を送ってくるアリアの方が懐柔しやすそうな分良いと思った。そして、アリアに信用されるには、ロメリアを屋敷から追い出すのが最も良いと判断した。屋敷に置きっぱなしにしたり、この場で殺したりするよりも。
結果として、ロメリアは〈異端〉から解放された。
少しの間呆然として、それから立ち去るロメリアを、アリアは窓から愉しそうに眺めていた。
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