何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照

文字の大きさ
上 下
2 / 6

2 異端のクズとゴミの妖精

しおりを挟む
 さきほどまでは、鬱蒼とした木々が生えるばかりの場所だったはずだ。屋敷など無かったはずだ。
 ロメリアが呆然としていると、屋敷の窓がガチャリと開いた。3階の窓だ。
(え、誰かいるの?)
 意外だった。人が住んでいるようには見えなかった。廃屋敷だと思っていた。
 そんなロメリアの思いとは裏腹に、屋敷の住人は当たり前のように窓から顔を出す。そして——飛び降りた。
「っ⁉」
 ロメリアは息を呑んだ。
 屋敷の住人が落ちてきたからではない。3階という高さから飛び降りた彼が、無事に着地を果たし、平然とこちらを見ているからだ。
 彼は美形だった。歳は20前後で、すらりとした長身。星屑のように煌めく髪と夜空を映したような瞳が美しい。
 元婚約者のストロも相当なイケメンだったが、彼はそれ以上だ。
 しかしロメリアは、彼の登場に浮かれるどころか恐怖していた。
(まさか、この人……『異端のクズとゴミの妖精』の……)
 『異端のクズとゴミの妖精』——それは、この地に伝わる昔話。〈異端〉と呼ばれた男が、生まれ育った孤児院の全員を殺して旅に出て、出会った人をことごとく殺していく話だ。旅の途中で〈ゴミの妖精〉と出会い、一緒に旅をしながら好き勝手に殺戮を繰り返す。〈ゴミの妖精〉はゴミを処理する力を持ち、死体を消し去ることができた。人々は〈異端〉を倒そうと試みるが、人間離れした身体能力の前に歯が立たず、魔女の力を頼る。魔女は〈異端〉を殺すため、自分の住処である森に彼を誘い込んだ。そうして魔女が〈異端〉を追い詰めた時、彼は〈ゴミの妖精〉を喰らう。妖精を取り込むことで不老不死となった〈異端〉を、魔女は森へ封じた。殺すことは出来ずとも、森から出られないようにすれば、もう被害は出ないから。
 こうして〈異端〉が封じられたのが、この森である。だから立ち入り禁止なのだ。
(ただのおとぎ話だと思ってたけど……)
 ロメリアは唾を飲み込む。
 目の前の男の特徴は、昔話の〈異端〉と完全に一致していた。
「あの、貴方は……」
 震える声で問いかけたロメリアに、男はこともなげに告げる。
「名は無い。〈異端〉とでも呼べ」
(呼べるか!)
 今すぐ逃げ出したいが、体が動かない。
 立ち竦むロメリアの手を、〈異端〉はそっと握った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後

オレンジ方解石
ファンタジー
 異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。  ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。  

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

読切)婚約破棄…ですか?でも私とあなたとは…

オリハルコン陸
ファンタジー
学園のお昼休み。人目の多い中庭の噴水で、婚約を破棄すると言われたのですが… ※読み切りコメディーです。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

修道院送り

章槻雅希
ファンタジー
 第二王子とその取り巻きを篭絡したヘシカ。第二王子は彼女との真実の愛のために婚約者に婚約破棄を言い渡す。結果、第二王子は王位継承権を剥奪され幽閉、取り巻きは蟄居となった。そして、ヘシカは修道院に送られることになる。  『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。

婚前交渉は命懸け

章槻雅希
ファンタジー
伯爵令嬢ロスヴィータは婚約者スヴェンに婚約破棄を突きつけられた。 よくあるパターンの義妹による略奪だ。 しかし、スヴェンの発言により、それは家庭内の問題では収まらなくなる。 よくある婚約破棄&姉妹による略奪もので「え、貴族令嬢の貞操観念とか、どうなってんの?」と思ったので、極端なパターンを書いてみました。ご都合主義なチート魔法と魔道具が出てきますし、制度も深く設定してないのでおかしな点があると思います。 ここまで厳しく取り締まるなんてことはないでしょうが、普通は姉妹の婚約者寝取ったら修道院行きか勘当だよなぁと思います。花嫁入替してそのまま貴族夫人とか有り得ない、結婚させるにしても何らかのペナルティは与えるよなぁと思ったので。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿しています。

処理中です...